夜の再会
月は見えなかった。
雲が厚く垂れ込め、
星の光さえ届かない夜だった。
庭を横切り、
薄明かりの灯りが灯る部屋へと足を踏み入れた。
深く眠る彼女の姿が、瞳いっぱいにあふれた。
小さな体、
か細い胸が、
冷たい布団の下で静かに震えている。
震える炎に照らされた美しい彼女を見ると、
心よりも体が先に動いた。
足音を立てぬよう慎重に、
彼女の傍へと近づいた。
膝をつき、
手を伸ばした。
触れる前に、手が細かく震えだした。
指先が額に触れた。
少し冷えた肌、
微かに残る彼女の残り香、
そしてまだ冷めぬ体温。
その小さな温もりに
全てが溶けてしまいそうだった。
「…殿下?」
微かな囁き。
彼女が目を開けた。
灯台の光の下、
長く伸びた睫毛が震えながら
私を見上げた。
静かに頷いた。
「会いたくて…来た。」
短い言葉、
その一言に全てを込めた。
彼女はか細い手を持ち上げた。
私を探し求める手。
揺れて、
震える。
我慢できずに手から先に出た。
その小さな手をぎゅっと握りしめた。
深く、
心臓が破裂しそうなほど強く。
彼女は微笑んだ。
「お会いしたかったです…」
咎めることもなく、
恨むこともない、
透明な笑み。
その笑みを見た瞬間、息を呑んだ。
胸が締め付けられて息をするのも痛かった。
ゆっくりと布団を捲った。
息遣いが混じり合った。
絹が擦れる音、
体と体の間に
薄い空気の層一つだけが残った。
彼女を抱きしめた。
腰を抱き寄せ、
肩を引き寄せ、
胸元に顔を埋めた。
息が混じり、心臓がぶつかり合った。
彼女をゆっくりと見下ろした。
真っ白な顔、
微かに震える赤い唇。
ただ美しいとしか言葉が出なかった。
ゆっくりと、
そして優しく唇を合わせた。
彼女は静かに目を閉じた。
押しつけることも、急ぐこともなかった。
肌をなぞるように
指先をゆっくりと滑らせた。
首筋、
肩のライン、
豊かな胸のラインを過ぎ、
細い腰を抱きしめた。
息が止まるほど遠い感覚になった。
私は目を閉じ、
彼女の体臭を、
彼女の温もりを、
彼女の存在を飲み込んだ。
一瞬、全てが崩れ去った。
世界の重さ、王の責務、宮殿の壁、
全てが。
ただ彼女だけがいた。
慎重に彼女を満たしていった。
切れそうなほど細い腰がしなり、美しい姿を作り出した。
激しく交わされる愛の中でか細く漏れる彼女の息遣いが、
共に過ごすこの夜を静かに彩った。
そして私の荒い息遣いだけが残った。
か細い息遣い、
肌と肌が触れ合う音。
彼女は私を突き放さなかった。
ただ受け入れた。
全てを知っているかのように
彼女を求める動きを止めなかった。
とことん彼女の全てを手に入れ、私の内側に閉じ込めておきたいという気持ち。
これ以上引き離せないように、彼女の中に私を深く残したかった。
指先で、唇で、心臓で
息が混じり、心が揺れ、
その中で彼女とごくゆっくりと一つになっていった。
結局、彼女を手放さなかった。
一瞬も、
ただの一度も。