運命に抗うことはできないのか
この数日間、私は本気で混乱していた。
毒薬ルートを選ぼうとしても、皆はなぜか私の行動を「愛らしい」と解釈した。
粛宗は、恐ろしいほどに優しかった。
挙句の果てには、尚宮たちまで——
私の言葉遣いや歩き方を、「時代を先取りした魅力」だと持ち上げてくる始末。
……ああ、もう……これは完全に、詰んだかもしれない。
花が咲き乱れる庭の片隅で、私は小さく丸くなりながら、
曇った空を見上げていた。
湿った空気、かすかに漂う花の香り。
この「朝鮮」という異世界が、肌の奥深くまで染み込んでくるような気がした。
だけど私は、分かっていた。
ここに長くいるほど、
「ユン・イナ」だった記憶が、少しずつ薄れていくことを。
いつか完全に消えてしまうのではないかという、
漠然とした不安が心に影を落とした。
だから、私は決めた。
死のう。
正確には——死んで、元の世界に帰ろう。
あの夜、梅の香りに包まれながら聞こえた声があった。
『定められた道を外れれば、戻ることはできぬ』
あれは警告であり、同時に「帰る道」への指針だった。
私は指先に力を込めた。
この朝鮮で生き残るのではなく——
チャン・オクジョンとして死ぬこと。
それが帰るための鍵だと、私は信じた。
それからの私は、意図的に振る舞った。
言葉を噛んだり、どこか抜けた仕草を見せたり(これは本来の私だけど…)、
わざと宮中の礼儀を破ることもした。
先日、一緒に働くナインに聞いてみた。
「殿下のような方が、私のような身分の者とお会いになるなんて……大丈夫なの?」
すると彼女は、真顔でこう言った。
「チャンナイン、本当にお優しい方ね!」
……いや、そうじゃないんだけど……!
どうして朝鮮の人たちはこんなにポジティブで、ロマンチックなんだろう。
いや、ここって朝鮮じゃなくて……小説の中じゃないよね?
私、本当に物語の中に迷い込んだんじゃないよね……?
——
そんなふうに日々を過ごしていたある日、
宮中に妙な噂が流れ始めた。
耳にしたのは、どこかの陰で交わされた囁きだった。
「殿下が、チャン尚宮を中宮に据えるおつもりだとか…」
……え? 今、何て言った?
その場で、私は石のように固まった。
いやいやいや、ちょっと待って。
歴史通りなら——
歴史通りなら、私が先に王妃になるのはおかしいはずなのに?
これ、展開早すぎない?
いや、早いっていうか……もはやバグなのでは??
どうすればいいの……?
私がインヒョン王妃より先に中宮になったら、
その後はどうなるの?
まさか……毒薬ルート、消滅……?
私は呆然としたまま寝所に戻り、
布団を頭までかぶって呟いた。
「どうして、こんなことに……」
息を潜めて目を閉じると、
空っぽだった心に、
波のように静かに温もりが押し寄せてきた。
思い浮かぶのは、あの人のまなざし。
彼が、私を見つめているというそれだけで、
胸が締めつけられるように疼いた。
彼が怖いのは、
その感情が重すぎるからでも、苦しいからでもない。
あまりにも優しくて——
あまりにもまっすぐに、
あの人が「チャン・オクジョン」を愛しているのが分かってしまうから。
その真心の前で、
私は「私」の心が、
少しずつ揺らいでいくのを止められなかった。
私は呟いた。
「揺れてる……気持ちが……」
春風のように滲み込んでくるその優しさが、
静かに、私の決意を崩していった。
でも、ダメだ。
帰らなきゃ。
帰って、
お母さんに会って、
友達にも会って——
私の人生を、もう一度ちゃんと生きたい。
だから——
毒薬ルートだけは、絶対に手放せない。
……なのに、今の状況は、
まるで真逆に進んでいる気がする。
障子の外から、
そっと吹き込む風が冷たく感じられた。
私は深く布団をかぶった。
そして、目を閉じた。
『……そうだ。歴史通りに行こう。
私……帰りたい……』