朝露の庭
早朝、大妃殿の前に立つ。
霧が晴れない庭は、
濡れたようにしっとりとしていた。
夜明けの陽光が細く広がる庭を通り、
素衣は尚宮に導かれ、慎重に足を踏み入れた。
幾重にも重なった裙子の裾、
その下で汗ばんだ指先が微かに震える。
部屋の中は静かだった。
灯火はまだ灯り、
その下で茶碗一つが、大妃の指先でゆっくりと回っていた。
「お通しなさい。」
大妃の一言が落ちると、
尚宮が頭を下げて後ろに退がった。
素衣は大妃の元へ歩み寄り、膝をついた。
きつく締めつけられた息が胸の奥で小さく鳴る。
大妃は茶碗を置き、
彼女を静かに見下ろした。
素衣は身を低くして答えた。
「大妃ママ、ママが小人をお探しとのこと、承知いたしました。」
「楽にお座りなさい。」
柔らかな命だった。
しかし、その中に宿る
得体の知れない気配が
皮膚を伝って、ゆっくりと染み入る。
素衣は慎重に身を起こした。
視線を落としていたが、
その中で大妃の気配を全身で読み取っていた。
大妃は指先を立て、
茶を一口すすった。
そして、
何の予兆もなく口を開いた。
「私邸に……主上様がお留まりになることが多いそうですね。」
彼女の心臓が短く震えた。
息さえもできず、
目だけを大きく見開いたまま大妃を見つめた。
「御医や医官たちも
そこを出入りしたと聞きましたが。」
大妃の言葉は静かだったが、
部屋を引き裂くように鋭かった。
閔素衣は反射的に口を開いた。
「張……尚宮がそこにいるというお言葉でございますか?」
考える間もなく口からこぼれた言葉に、素衣は一瞬たじろいだ。
その瞬間、
部屋の空気が変わった。
大妃は茶碗を指の間でゆっくりと転がした。
「確かなことではありません。」
断固としたわけでもなく、曖昧でもない、
妙な余韻を残す声だった。
「だが、王室の行く末を案じるならば、
私が閔氏に道を開く必要もあるでしょう。」
彼女は息を呑んだ。
指先が冷え切っていく。
大妃は無関心なように話を続けた。
「この鍵をどう使うかは、閔氏に懸かっています。」
素衣は震える手をぎゅっと握りしめ、心の内を見抜かれまいと努めたが、
鋭い大妃の目は避けられなかった。
「主上様を訪ねなさい。そして、望む地位を得なさい。」
彼女は身を起こすことなく、
深く頭を下げた。
唇は閉じていたが、
喉元が震えるのは隠せなかった。
大妃はそれ以上何も言わなかった。
手を下ろし、
灯火の方へゆっくりと身を傾けた。
「下がっていいですよ。」
部屋の空気は再び静まり返った。
その沈黙は、より鋭い刃のように彼女の背を突き動かした。
震える足元を引きずりながら、慎重に部屋を出た。
足音は抑えたが、
つい先ほど交わされた言葉が
背後で冷たく渦巻いていた。
外はもう朝だった。
日差しが庭を覆っていたが、
素衣の一歩は決して軽くなかった。
両手を固く組んだまま、
震える眼差しで大妃殿を振り返った。
そこは何も言わず、
しかし確かに彼女に
一つの世界の重みを乗せていた。