冷ややかな気配
便殿の中には、言葉よりも息遣いが長く残った。
机の上、筆先がじっと止まっている。
粛宗の視線は、筆の穂先の微かな墨の跡を辿り、止まった。
その向かい。
閔維重は腰をまっすぐに伸ばしたまま、粛宗の様子を窺っていた。
身のこなしは礼にかなっていたが、その態度の下には、長年培われた警戒心と計算が隠しきれなかった。
「主上殿下。」
閔維重が頭を下げた。
言葉は低く、眼差しは静かに上下した。
「失踪されたと聞いております張尚宮に関しまして…
宮中にしきりに、噂が流れております。」
粛宗の指先が微かに動いた。
「詳しい出所は確認されておりませぬが、
主上様が便殿を頻繁に空けられ…
動きが一定ではないという話が広まっております。」
彼は頭を上げなかった。
だが、部屋を横切る沈黙には、
何かが徐々に凝結し始めていた。
閔維重は言葉を続ける前に、慎重に息を整え、
さらに低い声で言葉を重ねた。
「噂というものは、元々長く育つものでございますゆえ…」
彼は慎重に付け加えた。
「内命婦の秩序を乱さぬためにも…
万が一、不敬な言葉が広まってはならぬのではないでしょうか。」
粛宗の手が止まった。
墨を含んでいた筆先が、
紙の上で短く震えた。
顔を上げた時、
眼差しは完全に変わっていた。
「そなたが…今、何を言っているのか、分かっているのか?」
声は低かったが、
切りつける刀のように重みが込められていた。
閔維重は 움찔(たじろいだ)。
粛宗の視線は決して荒々しくもなく、乱暴でもなかったが、
その中に留まる怒りは、
一歩たりとも後退を許さなかった。
「張尚宮は朕の女だ。
その名を口にする前に、
その重みをまず考えよ。」
閔維重はそこで初めて深く頭を下げた。
言葉を継ぐことなく、静かに退がった。
部屋を出る直前、
慣れた表情に戻ったかのように言葉をまとめた。
「そこまでお慈しみになる女であれば、主上様がまずお探しになるのが当然のこと。
なおさら、その女を探すべきではございませんか。」
粛宗は答えなかった。
彼の背後で無言で視線を収めただけだった。
戸が閉まると、部屋には再び静寂だけが残った。
筆先は依然として、紙の上に留まっていた。
しかし、その墨色の下には、より深い影が差し込んでいた。
便殿を出て行廊を回る道。
閔維重は内医院の方から妙な気配を察知した。
早い時間にしては医官たちの足取りが忙しく、
見慣れない内官の顔が一人二に見えた。
先ほど便殿の中で感じた重さが、
頭の中で再び込み上げてきた。
彼は静かに後ろに従う腹心に近づいた。
「内医院の者たちを、数日間静かに見張らせよ。
怪しい動きがあれば報告せよ。」
彼の低い声の中に込められていたのは、
先ほどの主上の沈黙と同じくらい重い疑念だった。