彼が残した温もり
障子の隙間から差し込む朝日が、布団の上を淡く染めていた。
肌を撫でる空気はひんやりとしているのに、その中にはまだ消えぬ体温が、微かに宿っている。
目を開けた。動かなくとも分かった。昨夜、彼が残した温もりが、まだ私の中に残っていた。
少し寝返りを打つだけで、腰のあたりに痛みが広がる。耳元に染みついていた吐息が再び蘇り、一瞬、息が詰まった。絹の肌を撫でるように過ぎ去った記憶が、ゆっくりと皮膚の上に花開く。
息をのんだ。清らかに澄んだ朝の空気の中で、あの人の温もりが、匂いが、感情が、まだ私を包んでいた。
指先を伸ばし、そっと布団に触れる。動こうとした刹那、腰のあたりがチクッと痛んだ。痛みは確かにあるのに、不思議なほどその感覚が馴染んでいく。
布団の中に顔を埋めた。
すると、ふと、用心深い気配がした。
速すぎず、遅すぎない足取り。聞き慣れた足音。戸口の気配一つに、心臓が反応する。
戸が開いた。敷居の向こうから、光が流れ込む。
彼が立っていた。まず影が先に部屋の中に入ってくる。光を背にして少し立ち止まった彼は、静かに私を見つめた。
息を殺して待った。彼の足音が私に近づく。道袍の裾が床を擦る音。短い静寂を切り裂いて、彼の声が聞こえた。
「オクチョン。」
低い声が、慎重に私の名を呼んだ。まるで、その一言に全ての意味が込められているかのように。
彼が傍に座った。温かい手が額に触れる。冷たさを帯びた指先が、そっと留まった。
額を撫でる手つきに、しばし目を閉じた。冷たくも優しい温もり。無言のため息が漏れる。
その顔に一瞬よぎった感情。
どこか申し訳なさそうな表情。
……だから、もう少し手加減してほしかったのに。
口角が自然と上がった。
懸命にこらえていた笑みが、静かに漏れるように。
彼がその隙を逃さず言った。
「御医を呼んだ。」
些細な言葉だが、その重さは違った。心配、責任、申し訳なさ。その全ての感情が、短い言葉の裏に幾重にも重なっていた。
粛宗の視線が静かに降りてくる。小さく息を吐きながら、その視線を受け止めた。
その眼差しが、私の返事を待っていた。「大丈夫」という言葉は意味がなかった。痛いという言葉も必要ない。ただ、今、彼の手が触れていること、それだけで十分だった。
……殿下の心配、正直嫌ではなかった。
彼は再び言った。目を離さず、短く。
「お前の傍にいたい。ずっと。」
正直に、端正に、感情を隠すことなく。
私はそっと手を伸ばし、彼の道袍の裾を掴んだ。言葉よりも先に、心が動いた。
彼が私の手の甲に口づけをした。
短く、温かい。
唇が触れていた場所に、温もりがゆっくりと広がった。
彼の声は、再び低く続いた。
「だが今は…この場所を長く空けるわけにはいかないだろう。お前の存在が…露見するやもしれぬからな。」
続く沈黙。
それは私を隠すことであり、同時に、守ることでもあった。
指先に自然と力が入る。
言わずとも、彼の眼差しが全てを物語っていた。
頷いた。
彼は寂しそうに、小さく笑った。
そして、布団を首元まで引き上げると、指先でそっと押さえた。
そしてほんの少しだけ、私の額に口づけをした。
息が止まる瞬間。
彼は何も言わず立ち上がった。道袍の裾が再び床を擦る。
戸口に立ち止まった彼は、最後に私を振り返った。
無言で、長く。
戸が閉まって初めて、彼が去ったことを実感した。部屋の中は静かで、日差しは依然としてゆっくりと差し込んでいた。
残された温もり。
残された体温。
そっと目を閉じた。
彼が再び戻ってくるその道を、心の中で辿りながら。
第二幕、開幕!
第二幕が始まりました!
いつも応援してくださる読者の皆様に、幸運が満ち溢れますように :)
どうぞ良い夜をお過ごしください!