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朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第一章 ― 朝鮮に落ちた女子大生、ユン・イナ ―
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密やかなる計略、王の深き決意

数日前、

朝鮮の宮廷。


粛宗は、執務を行う便殿の中央に、静かに座していた。

背後から差し込む陽光が、彼の着る袞龍袍ゴンリョンポに反射し、

その中に威厳を纏う金糸で刺繍された龍の姿も、

ひときわ目を引く彼の前では、ただの衣に過ぎなかった。


尚膳が、音もなく戸を閉め、深々と頭を下げて下がった後、

静寂の中を、低い、しかし揺るぎない声が流れた。


「殿下、急ぎ、ご報告申し上げたいことがございます。」


粛宗は、ゆっくりと頷いた。

黒い装束をまとった武士が、戸の外にひざまずいている。


「閔ユジュン大監の御方から、チャン尚宮ママ様を狙った、陰湿な噂が、宮中に急速に広まっております。」


彼の瞳が、細く、しかし鋭く、閉じられた。


「…噂、と申すか。」


「はっ。チャン尚宮ママ様が、大妃ママ様を害しようと企んだ、という内容にございます。」


短い息が、一瞬、止まった。

しかし、すぐに、冷ややかな微笑みが、彼の唇に浮かぶ。


‘…ついに、動いたか。’


大妃と閔ユジュンの間に、長く漂っていた不穏な気配。

彼は、その予兆を、もうずっと以前から、感じ取っていた。

ただ、心の片隅に、ほんのわずかな、淡い期待が残っていただけだ。

大妃が、オクチョンに対して、ほんの少しでも、心を開いてくれるかもしれないという、その小さな、細い糸のような希望を、捨てきれずにいただけだった。


‘…母上も、結局は、息子である私を選ぶはずだ。’


そうして、彼は動いた。

彼女を守るために。

彼女を生かすために。

そして、彼女を、二度と手放さないために。


狩りは、

彼らを、油断させるための、隠れ蓑に過ぎなかった。

意図的に作り出した、わずかな隙。

その間に、彼女を、この場所から、安全に連れ出すために。


粛宗は、静かに、指先を強く握りしめた。

彼女を生かさねばならぬ。

どんな代償を払ってでも。


便殿の中を、ひゅう、と風が通り過ぎていく。


「密かに指示した、全ての準備を整えよ。」


武士は、深く頭を垂れ、まるで影のように、その場から姿を消した。


その夜、彼は、一瞬たりとも、目を閉じることができなかった。

小さな書状を、密かに衣の裾の中に隠し持ち、

もし、万が一、全ての計画が失敗した場合に備えていたのだ。


そして──

今日に至った。

全てのパズルが、ようやく、ぴたりと、はまったのだ。


静かに、窓の外を見つめた。

ただ、広がるばかりの、空。

ひらひらと舞い落ちる、陽光。


彼女が、今、どこにいるのかを知りながらも、

この瞬間は、動くことが許されなかった。

心臓が、狂おしいほどに、ドクン、ドクンと脈打つ。

息をするのも、苦しいほどだった。


「オクチョン…」


胸の奥で、静かに、彼女の名を呼んだ。

今すぐにでも、彼女の元へ駆けつけたい衝動に駆られる。

その身を抱きしめ、温かい吐息を肌で感じたいと、切に願った。

しかし、彼は、その衝動を、必死に抑え込んだ。

全ての視線が、自分へと注がれる今、

彼女のためには、ただ、静かに、この苦痛に耐え忍ばなければならなかった。

彼は、ゆっくりと、瞼を閉じた。

窓の外を流れる風に、まるでその決意を乗せるかのように、

静かに、ごく静かに、固い決意を、心に刻み込んだ。


今、この瞬間から。

何人たりとも、何者たりとも、

彼女に、指一本、触れさせはしない。


便殿の中は、息をのむほど、静まり返っていた。

彼は、ただ、何も言わず、その場に座っていた。

静かに流れていく時間の上に、

誰にも知られることのない、彼の心の奥底に秘められた、

固い決意だけが、ひっそりと、しかし確実に、積み重なっていた。

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