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朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第一章 ― 朝鮮に落ちた女子大生、ユン・イナ ―
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覚醒、そして新たな道


漆黒の闇の中。

光さえも届かぬ深淵は、

呼吸すらも、静かに、深く沈ませていた。

体が、どこまでも下へ、下へ──

終わりなく沈んでいくような、奇妙な感覚に襲われる。


水でもなく、大地でもない、

重さのない、まったく見知らぬ空間。

周囲は、まるで霧のようにぼんやりと霞んでおり、

どこからともなく、ごく微かな風が、頬の端をそっと撫で、くすぐる。


ほのかに香る花の匂い、そして、遥か遠くの沈黙。

形も、色も、すべてが曖昧に溶け合い、

まるで忘れ去られた記憶の奥底を、たった一人で歩いているような、不思議な心持ちだった。


一歩、

足元を確かめるように、用心深く、足を踏み出した。

地面を踏みしめる感触はなかったけれど、確かに大地の上を歩くように、

そうして、ゆっくりと、ゆっくりと、前へ進む。


どれほど歩き続けたのだろうか、

その暗闇に、次第に目が慣れ始めた頃、

遥か遠方に、ぼやけた人影が、かすかな霧のように、ふわと広がってきた。

近づくにつれて、その影の周りで、風に衣の裾が、はらりと揺らめくのが見える。

何かに導かれるように、ゆっくりと、その影に吸い寄せられていく。

一歩、また一歩と…。


人影は、次第に輪郭を帯び、真っ白に輝きを増していく。

やがて、白い閃光が、まるで爆発でもしたかのように弾け飛び、

無数の光の粒となって、雪のように、はらはらと舞い散った。

そして、その光が消え去った場所には

そこに、まぎれもなく、過去の私が立っていた。


ごくり、と。

息をのんだ。

喉元が、ゆっくりと震えながら、深い感情と共に沈み込んでいく。


‘そなたが、この生を終わらせなければ、私は、もとの世界へは戻れないのだ。’


幽かに、しかしはっきりと聞こえたその声。

霧のようにふわりと散り、

しかし、私の胸の奥深く、どこか核心に、静かに、そして深く突き刺さった。

頭の中は、まるで真っ白になったかのように、ぼんやりとしていた。


「……私が…死ななければ、ならないと…?」


声とは呼べぬ、かすかな息遣いのように、

震える唇の隙間から、その言葉が、か細く漏れ出た。


そして

その瞬間──

目の前が、眩いばかりの光と共に、パッと、真っ白に弾け飛んだ。

すべてが粉々に砕け散るかのような、激しい閃光とともに。


───


「ママ様!!ママ様!!どうか、お気を確かに!!」


耳を劈くような、悲鳴にも似た声。

まるで世界がひっくり返ったかのように、体が激しく揺さぶられる。


「あ…痛い…金尚宮…もう少し、優しくして…。」


重い瞼をこじ開けると、金尚宮が、血相を変えて、必死な顔で私を揺さぶっていた。

金尚宮は、今にも大粒の涙をこぼしそうな顔で、叫ぶように問いかける。


「ママ様!本当に、ご無事なのでございますか!?」


かろうじて、乱れた呼吸を整えながら、私はかすれた声で答えた。


「…ええ、どうやら、まだ生きているようだよ。」


指先に残っているのは、辛くも死の淵から生還した、そんな感覚。

ソ尚宮が、嗚咽を漏らしながら、切羽詰まった声で告げた。


「ママ様!殿下が…殿下が、ママ様をお守りくださったのでございます、ママ様!」


……殿下…?

まさか…


ぼんやりとした顔で、ゆっくりと周囲を見回した。

足元の床は、しっとりと柔らかな絹。

障子の向こうからは、穏やかで優しい陽光が差し込んでいる。

ここは、宮殿ではなかった。


途切れ途切れの記憶を辿ってみる。

大妃ママ様の命を受けて宮殿を出た途中…見知らぬ道で…突然、男たちが飛び出してきて…。

あっ!私…誘拐されたのね!!


布団を勢いよく蹴飛ばし、がばっと身を起こした。

金尚宮の肩を掴み、典内の腕を捕まえ、そしてソ尚宮の顔まで、心配そうに覗き込んだ。


「みんな…怪我はない?ねぇ、本当に大丈夫なの?」


指先が、自分の意思とは関係なくガタガタと震える。

だって、少し前まで…

完全に死んだかのような、絶望的な状況だったのだから…。


「ここは……どこなの?」


私が、焦りに満ちた声で尋ねると、金尚宮は、何かを思い出したように目を輝かせ、堰を切ったように言葉を紡ぎ出した。


「詳しいことは、わたくしどもには分かりかねますが、ママ様が誘拐された後、

わたくしどもも、そのままこちらへ移されました。聞くところによりますと、殿下の私邸であるようですが、

詳しい内幕は、わたくしどもも、まだ何も聞いておりませぬ…」


典内も、こくりと頷きながら、付け加える。


「大妃ママ様も、朝廷も…皆様、ママ様が、いずこかへ消えられたとばかり思っておられますゆえ。」


私は、ただ、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。

……ちょっと待って、つまり──

これは、一体、何の話なのだ…

まるで、映画のような、まさかの急展開ではないか?


混乱でぐちゃぐちゃになる頭の中にも、

夢の中で聞こえた、あの言葉が、なぜか鮮明に、繰り返し響いていた。


‘死ななければ、もとの世界へは戻れない。’


胸の奥で、静かに、しかし確かに、熱く脈打つ心臓の音。

窓から差し込む陽光は、眩しいほどに澄み渡っていたけれど、

このあまりにも非現実的な状況を、すぐには受け入れられずにいた。


つまり…結局…。

私が、殿下の私邸にいるということは…。


胸の奥に、じんわりと温かいものが込み上げてきた。

何か、はっきりと分かるようでいて、掴みきれない、不思議な感覚。


そうして、

私の心は、窓から優しく差し込む陽光のように、

静かな、そして揺るぎない決意に、ゆっくりと染まり始めていた。


今、この場所。

ここが…。

そうだ、

生きよう。

生き抜こう。

あの人のために、

そして、もとの世界へ帰るために、

あの人と…

この愛を、何よりも大切に、守り抜くためにも。


第1幕の終わりに差し掛かったこともあり、お付き合いいただいている読者の皆様のためにも、少しずつペースを調整していきたいと思っております。本日もご一緒いただき、心より感謝申し上げます。いつも幸せな日々でありますように!

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