消えた王の愛しき人、揺らぐ宮廷
大妃殿は、まるで時が止まったかのように、ひっそりと静まり返っていた。
差し込む陽光さえも、今日はどこか冷ややかに、心を凍らせるように降り注ぐ。
「…何と、申したのだ。」
大妃の、扇を握る指先に、無意識のうちに力が込められる。
尚宮は息を潜め、喉の奥で震える声を、それでも慎重に絞り出した。
「チャン尚宮様が…宮の外へ出られる途中、忽然と、お姿を消されたと…」
カツン。
乾いた音を立てて、白玉の扇が大妃の指先からするりと滑り落ち、床に転がった。
その冷たい響きが、部屋の隅々にまで、ひんやりとした波紋を広げる。
大妃はゆっくりと、まるで何かを確かめるように瞼を閉じ、再び開いた。
その瞳の奥には、氷のような冷たさと、鋭い光が宿っている。
息を殺して控えていた尚宮たちは、その威圧感に震え、深く頭を垂れた。
大妃は、しばらくの間、言葉もなく遠くの窓の外を見つめていた。
肌寒さすら感じる日差し。
重く、息苦しく沈んだ空気。
‘主上が、この事実を知れば…’
想像するだけで、血が逆流するような、言いようのない悪寒が走った。
大妃は、落ちた扇を無造作に拾い上げ、低い声で命じる。
「直ちに人を出して、探し出せ。今すぐにだ。
一瞬たりとも、遅れてはならぬ。」
尚宮は、その言葉に深く腰をかがめ、音もなく部屋を後にした。
大妃は、胸の奥で静かに息をのむ。
‘閔ユジュン…そこまで、そこまでしなければ、気が済まぬと申すのか。’
震える指先で、再び扇をゆっくりと広げた。
その眼差しは、依然として冷徹なままだが、
深い瞳の奥には、決して拭い去ることのできない、拭い去りようもない不安と、抑えきれない怒りが、かすかに揺らめいていた。
✦
その頃。
閔ユジュンの別邸。
一人の男が、用心深く、静かにひざまずく。
「大妃ママ様が、チャン尚宮様を宮の外へ追いやられたとのことですが、どうやら宮の外で何者かに誘拐された模様です。
身元不明の者たちに連れ去られたことが確認されました。」
閔ユジュンは、感情の読めない冷たい眼差しで、ひざまずく男をじっと見下ろす。
そして、嘲るかのように、薄い唇の端をわずかに吊り上げた。
「誘拐、だと。」
手にした杯を傾け、透明な酒をゆっくりと注ぐ。
琥珀色の液体が、杯の底に、まるで心を映すかのように静かに溜まっていく。
「卑しき者の命など、どうなろうと知れたことではない。」
コツン、と。
音もなく酒杯を卓に置きながら、閔ユジュンは関心なさげに呟いた。
「むしろ、好都合だ。厄介な変数が、一つ消えたわけだからな。」
ひざまずいた男は、その言葉に、ぐっと唇を固く結んだ。
閔ユジュンは、杯を指先で軽く回しながら、淡々と付け加える。
「残るは、ただ一つ。」
彼の眼差しが、氷のように冷ややかに沈み込む。
「中宮の、簡択だ。」
杯をゆっくりと口元へ運びながら、閔ユジュンは静かに、そして皮肉な笑みを浮かべた。
だが、その笑みには、温かさなど微塵もなく、
まるで研ぎ澄まされた刃のような、冷酷な嘲りが宿っていた。
「宮中に広まった噂は、厳重に口止めせよ。
チャン尚宮が消えたことを、不審に思わせぬようにな。」
男は、その命に深く頭を垂れた。
閔ユジュンは、再び、静かに、そして冷たく笑う。
「何事もなかったかのように…静かに、事を収めさせろ。」
✦
別邸の片隅。
閔ユジュンの会話を、息を潜めて盗み聞きしていた閔ソイは、
その場では何事もなかったかのように、淡々とした顔で静かに自身の部屋へ戻った。
しかし、その指先は、誰にも知られることなく微かに震えている。
何も言わず、鏡の前に座り込んだ彼女は、
いつも整っていた眉間を、静かに顰めながら、誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。
「一体、何が、起きているというのです…」
部屋は静かだったが、
ソイの心の内では、どこか不吉な、冷たい風が、静かに、しかし確かに吹き始めていた。
✦
その頃。
応香閣。
息を切らして、まるで何かに追われるように駆けつけた粛宗は、馬から飛び降りるやいなや
荒々しく、しかし一途に、階段を駆け上がった。
しかし、彼を迎え入れる尚宮も、典内も、そこにはいなかった。
「オクチョン!」
たまらず、扉を乱暴に開け放つ。
がらんとした部屋。
そこに広がっていたのは、ただ静かに整えられた絹の布団と、
机の上に、まるで置き去りにされたかのように置かれた、たった一枚の書状だけだった。
粛宗は、まるで足元が崩れたかのように、ふらつきながらその書状へと歩み寄る。
震える手で、大切に、しかし切実に書状を握りしめた。
白い紙の上に、ひそやかに、そして端麗に書き記された文字。
「殿下というお方は、わたくしの小さな器に収めるには、あまりにも大きすぎるお方でしたゆえ、
この身には到底、お受け止めしきれず、去らせていただきます。
どうか、ご壮健な君主であらせられますよう、心よりお祈り申し上げます。」
一文字一文字に、深い想いが込められたかのような、ぎゅっと押し潰すような筆跡が、彼の目に深く焼き付いた。
まるで息の根が止まるかのような、激しい痛みが、彼の胸を深く深く刺し貫いた。
その痛みにもがき苦しむように、彼の全身が、力なく床に崩れ落ちる。
「オクチョン…!」
絞り出すような、その呼び声は、悲痛に震えていた。
がらんとした板の間。
風に舞い、はかなく散っていく、彼女の残り香。
すべてが、彼女が確かにそこに存在したという、消えゆく痕跡だけを残して、静かに、そして残酷に、消え去ろうとしていた。
粛宗は、書状を、まるで唯一の宝物のように胸に抱いたまま、静かに、しかし魂の底から絞り出すように、嗚咽を漏らした。
膝の上には、止めどなく熱い涙が降り注ぐ。
どんなに高貴な王座も、どんなに絶大な権力も、
今の彼にとって、このたった一人の女には、遠く及ばなかった。
今、彼は──
その手のひらから、すべてがこぼれ落ちていく感覚に、ただ打ちひしがれていた。
陽光は、相変わらず優しく、何事もなかったかのように降り注いでいたが、
粛宗の心の世界は、音もなく、静かに、そして無情に、崩れ去っていくのだった。
楽しい週末を過ごされましたか?今日は時間が足りず、一篇だけ持ってきました…申し訳ございません。ご理解いただけますと幸いです。ありがとうございます。