動き出す宿命、忍び寄る影
小さな軒下、
応香閣での最後の朝だった。
震える指先で最後の荷物をまとめる。
たいした物は何もない荷物だった。
入宮する時、ろくな物も持ってきていないから…。
そうやって整理していると、指先に何かが「カチッ」と触れた。
彼がくれた梅花茶の瓶…。
心が火傷したようにカーッと熱くなる。
思わずその瓶を抱きしめた。
ただ…それだけで十分だった。
「ママ様、お急ぎくださいませ。」
金尚宮が慌ただしく囁いた。
ソ尚宮と典内はすでに荷物をまとめ、私を待っていた。
裙裳の裾を整え、大殿の方に向かって拝礼した。
「殿下…どうかご壮健でいらせられますように。
私は結局、歴史に逆らえず去ります。」
最後に部屋の中を見回した。
古びた障子、小さな池、風に揺れる梅の木。
すべてが目に鮮やかに刻み込まれた。
そうしてすべてを置き去りにして、
慎重に足を踏み出した。
応香閣の庭には、まだ早朝の露が結ばれていた。
濡れた地面を音もなく渡り、息を潜めて動いた。
宮殿の塀の裏。
大妃ママ様が手配してくださった駕籠が静かに待っていた。
急いで身を乗せた。
ガタン──
駕籠が揺れ、ゆっくりと動き始めた。
裙裳の裾をぎゅっと握りしめたまま、用心深く息をのんだ。
✦
その頃。
狩り場。
粛宗は馬上で弓を引いていた。
真昼の陽光が広がり、
風は静かだった。
すべてが平和に見えたが──
どこか、おかしい。
言いようのない不安感に蝕まれそうに見えた彼が、
勢いよく首を振ると、やがて狩りに集中した。
あたりが静寂に包まれた瞬間。
粛宗は弓の弦を引いた。
のんびりと草を食んでいたノロ鹿を狙おうとしたその刹那。
プツン──
小さな破裂音とともに弓が折れた。
粘りつくような静寂が広がる。
馬がひどく首を振り、不安がっていた。
粛宗は手首を痛めたようにわずかに眉をひそめ、あたりを見回した。
異様な気配。
体の奥深くで、
本能が荒々しく警告を鳴らした。
「オクチョン…」
囁くように呼び、顔を上げた。
その瞬間。
風がどこか不吉にかすめた。
✦
その頃。
駕籠の中。
私は冷たい指先をぎゅっと握りしめた。
ソ尚宮と典内は駕籠の後方を用心深く伺っていた。
ガタン、ガタン。
駕籠はしばらくの間、静かに動いた。
だが、何かおかしい。
金尚宮がそっと駕籠の扉を少し開けた。
「ママ様…道がおかしいようでございます。」
普段通る道ではなかった。
より険しく、人通りの少ない道。
瞬間、駕籠が大きくぐらついた。
馬の蹄の音が、急に迫ってきた。
「何事だ──!」
ソ尚宮が駕籠を蹴って飛び出そうとしたその刹那。
駕籠を取り囲む、荒々しく重い気配。
誰かが駕籠の扉を荒っぽくこじ開けた。
瞬く間に襲いかかった手に、
抵抗する間もなく引きずり出された。
「ママ様!!!」
典内とソ尚宮が叫んだが、
すぐに男たちに制圧された。
悲鳴を上げる間もなく、
口が乱暴に塞がれた。
めまいのような感覚に、突然眠気が襲い始めた。
荒々しい手つきに絡め取られ、
背後に空気が抜けるように、見知らぬ馬の上へ体が放り投げられた。
鞭の音が引き裂くように空を切り裂き、
馬たちが悲鳴を上げるように荒々しく地面を蹴って走り出した。
風が鋭くかすめ、
空が目の前で荒れ狂った。
土埃と陽光が混じり合った空気が目を刺した。
地面と空、上下の方向感覚が一瞬で崩れ去った。
為す術もなく、
ただ何かの力に引きずられるように、
世界からどんどん遠ざかっていた。
風が顔を激しく叩いた。
目元から熱い涙が流れた。
頭の中に最後に浮かんだのは──
日差しの下で笑っていた、あの人の顔だった。
✦
その瞬間。
風の静寂の中、
彼が顔を上げた。
息が詰まる感覚の中、
遠くで何かが断ち切られた気配。
彼は馬上で身を固めたまま、
虚空のどこかを用心深く見つめた。
そこには何もなかったが──
胸の奥深くのどこかが、不吉に疼いた。
「尚膳。」
粛宗は低く、そして短く言った。
「すぐに、応香閣へ行こう。」
その声には、すでに深い不安と、
崩れ落ちる心臓の予感が滲んでいた。
馬首を返し、
粛宗は息をのんだ。
息遣いさえ用心深く、
だが胸は荒々しく波打っていた。