仙女を攫う王
陽光は優しく顔を覗かせていた。
応香閣の庭は静かだ。
手の甲で、額ににじむ汗を拭った。
「…まったく、暑い。」
エアコンが心底欲しくなった。
朝鮮の初夏は、密かに怪物だった。
軽く涼もうと庭に出たものの、結局、その場にへたり込んでしまう。
裙裳の裾を後ろに整え、手のひらを地面についた。
日差しが腕に触れ、熱い。
ぼんやりと空を見上げた。
青い空。ゆったりと浮かぶ白い雲。
この上なく平和なその空に、突然、一つの影が「カチッ」と現れた。
彼だった。
軽やかな微服の装い。
澄んだ顔立ち。
靴の先が目の前で止まる。
驚いて、手の甲で目を覆った。
「殿下…なぜこの時間にこちらへ…」
笑みを含んだ声が聞こえてくる。
「仙女が日差しの下にいるのだから、来ないわけにはいかないだろう。」
慌てて立ち上がろうとしたが、裙裳の裾が絡まり、バランスを失った。
「きゃっ!?」
その瞬間、腰を抱き寄せる温かい腕。
息が詰まった。
胸元に触れる温もり、震える指先。
凍りついたまま見上げた。
近い距離。
日差しに輝く瞳。
世界で最も優しく、そして強固な世界に包まれたような気分だった。
「大丈夫か。」
低く問われた。
あたふたと頷く。
「…だ、大丈夫でございます…!」
彼は離さない。
むしろ、私をさらに深く胸の中へ抱き寄せた。
なぜこんなにも息が苦しくなるのだろう。
その腕に触れるだけで、
私の世界が、サラサラと溶けていくようだ。
「…お降ろしくださいませ、殿下…」
「嫌だ。」
毅然とした声。
はっと顔を上げた。
「え?」
いたずらっぽい笑みがかすめた。
「仙女が降りてきたのだから、羽衣でも隠さなければなるまい。」
顔が火照るようだった。
彼の腕の中から逃げ出したかったが、しっかりと抱きしめられたまま動かされた。
「行こう。」
慎重に庭の奥、小さな東屋の方へ歩く。
足が地面に着くと同時に、慌てて距離を取った。
彼の視線があまりにも温かくて、逃げ出したくなった。
何か適当な言葉を吐いた。
「…殿下は、このように日差しの下に長くおられぬほうがよろしゅうございます。」
軽く笑って答える。
「そなたがいるなら、私はどこでも良い。」
息をのんだ。
地面を見つめながら、慎重に座る。
用心深く、また用心深く。
息遣いさえも惜しもうとしたが、近づく気配を感じた。
そっと手の甲に降り立つ、温かい手。
驚いて見上げた。
彼が軽く微笑みながら尋ねる。
「オクチョン、私がこうして頻繁に会いに来るのが、もしや不都合なことなのか?」
あたふたと首を横に振った。
「いいえ…!決して…!」
軽く笑う顔。
その瞬間、彼の温かい手が私の手の甲を優しくなぞった。
息が止まるかと思った。
指先が微かに震える。
「なら良い。毎日見ていても会いたくなる。」
声が低く胸に降り積もる。
深く頭を垂れた。
手の甲が熱く火照った。
近い息遣い。
しっとりと留まる温もり。
手の甲を握りしめながら囁いた。
「殿下が…しきりにこのようになさると…」
彼のくすくす笑う声が、再び耳元をくすぐった。
「そなたが可愛いからだ。」
恥ずかしさから逃げ出したくなった。
掴まれた手を抜こうと少し身をよじったが、彼の温かい手によって阻まれた。
「行くでない。まだ仙女の衣を盗んでいないからには、そなただけでも盗まねばなるまい。」
短い言葉。
だが、胸を恐ろしいほどに高鳴らせた。
息をのんだ。
二人を吹く柔らかな風。
ほのかな陽の匂い。
日差しに広がる小さな世界。
慎重に見上げた。
その温かい眼差し。
真心。
すべてを打ち砕いた。
静かに囁いた。
「…私は、殿下には…あまりにも分不相応な者でございます。」
粛宗は首を振り、額に口づけた。
「オクチョン、そなたがいなければ、私は人として生きる生を全うできなかっただろう。」
目の前が霞んだ。
ゆっくりと、彼の胸にもたれかかった。
風がそよぐ東屋の下。
熱くない日差しの中で。
慎重に、
二人は互いの温もりを抱き合っていた。