静謐なる毒の華:中宮への誓い
大妃殿の前。
初夏の湿った空気を纏う土の香りが、静かに広がっていく。
瓦を掠める朝日は澄んで、庭は、息遣いさえ飲み込んだように静まり返っていた。
大妃は、手に白玉の扇を転がしながら、深い思索に沈む。
今日、呼び入れる娘、閔維重大人の姪、閔ソイ。
端正な外見の奥に宿る揺るぎない覚悟を、大妃は遥か以前から見抜いていた。
門の外から聞こえる、慎重な足音。
尚宮が低い声で告げる。
「お嬢様、大妃ママ様がお呼びでございます」
門が開き、玉色の裙裳が柔らかな音を立てて床を擦りながら入室した。
陽光を宿した、しとやかな衣の裾、きちんと結い上げられた髪、揺らぎない足取り。
朝鮮王室の法と品格を、まるで手本のように体現しているかのようだ。
しかし大妃は、
その慎ましい外見の下に眠る覚悟を、決して見逃さなかった。
閔ソイは、恭しく膝をつき、深く頭を下げた。
袖の内側に隠した指先には、微かな緊張が滲んでいる。
「大妃ママ様に、謹んでご挨拶申し上げます」
清らかで、端正な声。
大妃は扇を閉じながら、彼女を見下ろす。
その外見は静かだが、内に秘めた根は、固く強靭だった。
部屋には、ほのかな香りが漂い、
障子の隙間から陽光が静かに差し込んでいる。
低い声で、大妃は彼女を呼んだ。
「閔ソイ」
閔ソイは頭を上げない。
ただ、しとやかに姿勢を保ち、待つばかり。
その姿に、大妃は心の中で思った。
『この子を立てたところで、屈服させるのは難しいだろう。
だが、今はこの程度の“毒”が必要だ。』
そして、慎重でありながらも、毅然とした声で告げた。
「これから、そなたの心を乱すことのないよう、心せよ。」
短い言葉。
だが、その中には、重い覚悟と約束が込められていた。
閔ソイは静かに頭を下げた。
その一つの動作に、数多の誓いと、言葉なき盟約が絡み合っていた。
陽光が彼女の肩を静かに照らし、
彼女はゆっくりと体を起こした。
絹の裙裳は、用心深くはためき、
その足取りには、乱れが一切なかった。
大妃は、静かに彼女の後ろ姿を見つめた。
その細い肩にのしかかる野望の重みは、もはや誰も軽んじることはできないだろう。
──
閔ソイは静かに大妃殿を後にした。
木々の葉の間から差し込む陽光が、裙裳の裾を軽く撫でる。
一歩、また一歩と刻む足跡に宿る気迫が、重く広がっていった。
端正な外見の内側には鋭い決意が潜み、
光に照らされた顔は、青白いほどに透き通って見える。
結ばれた唇の上には、未だ冷めやらぬ決心が、風のように冷ややかに漂っていた。
静かな眼差しの中には、服従も諦めもなかった。
息を殺し、真っすぐに立てられた内なる心。
それはただ一つ、『あの場に立つ』という野望だった。
用心深く裙裳の裾を整えた彼女は、
誰の視線も受け止めることなく一歩ずつ踏み出したが、
その足取りには、権力という流れすら揺るがす意志が宿っていた。
庭の香が衣の襟をかすめ、
瓦屋根を滑り落ちる陽光が頭上に降り注いでも、
彼女は顔を上げない。
その歩みはまるで、
既にこの宮廷で生き残る場所を決めていたかのように、確固たるものだった。
見えない野望の花が、
彼女の足元に冷たく咲き誇っていく。
揺るぎない誓いのように、
その足跡の一つ一つに、決心と野望が着実に積み重なっていた。
彼女の沈黙は、むしろ最も明確な宣言だった。
その座を必ず手に入れるという――
誰にも気づかれぬが、隠すことのできない声であった。