春陰に潜む罠
ミン・ユジュンは、離れの扉を静かに閉めた。
風一つない朝。
湿気を含んだ空気が、古びた木材の隙間からじわじわと染み出していた。
部屋の中にはすでに、数人の側近たちが頭を垂れて待っていた。
古墨の香りが濃く漂う中、
ミン・ユジュンはゆっくりと指先で卓を叩いた。
コン、コン。
静寂を破る、規則的な音。
「大妃様が動こうとも、
殿下の御心はすでにチャン尚宮に傾いて久しい。」
低く落ち着いた声。
側近たちの間に、薄く張り詰めた緊張が走った。
ミン・ユジュンは指をゆっくりと持ち上げた。
細く持った扇子が、冷ややかに光った。
「手を汚さず、終わらせろ。」
短く鋭い指示。
「チャン・オクチョンが大妃様を侮辱したという噂を流せ。
証言する者も用意してある。
王室を辱めた罪に耐えられぬよう、追い詰めろ。」
ミン・ユジュンは短く笑った。
春風さえ凍りつくような、乾いた微笑。
全ての計画が既に緻密に組まれていることを物語る、冷酷な確信に満ちていた。
部屋は再び息を呑むような沈黙に包まれた。
外では、カササギが一声鳴いた。
まるで、何かの不吉を告げるかのように。
「騒ぎは長引かせるな。」
ミン・ユジュンは片手を軽く振った。
「流れができたら、一気に折る。」
ゆっくりと席を立つ。
整えられた官服の裾が床を静かになぞった。
その所作の一つ一つに、冷ややかな覚悟が宿っていた。
──
扉の隙間の向こう。
息を殺して、そのすべての会話を聞いていた者がいた。
ミン・ソウィ。
つい先ほどまで澄んでいたその瞳は、
いつの間にか静かに揺れていた。
白い袖口を、そっと握る指先。
……叔父様が。
一瞬よぎった想い。
だがすぐに、深く息を吸い込み、胸の奥に葛藤を押し込めた。
ミン・ソウィは目を閉じた。
内に呑み込んだ息が冷たくなり、四肢へと静かに染み込んでいく。
袖を整え、
表情を閉ざして静かに向き直る。
足先には、凛とした決意が宿っていた。
空は砕けそうなほど青く、
風ひとつなかった。
陽光は限りなく穏やかだったが、
ソウィの歩みにだけ、冷ややかな影が落ちていた。
慎重な足取り。
だが、一切の迷いはなかった。
春の静けさを裂くような、揺るがぬ決意がその動きににじみ出ていた。
もし誰かがすれ違っていたなら、
その瞳に、凍てつくような冷気を感じただろう。
ソウィは何事もなかったかのように、静かに離れを後にした。
その背には、
冷ややかな空気だけが長く尾を引いていた。