忠誠と決意の風
扉が静かに開かれた。
斜めに差し込む陽光が障子をかすめていたが、
その光は、門の前に立つ男の姿には一切触れていなかった。
閔維重。
正装に身を包み、深く頭を垂れていた。
両手をきちんと重ね、胸前に添え、
その視線は地に伏せられている。
礼を尽くした姿勢。
しかしその背後には、鋭く研がれた刃のような気配が隠れていた。
私は手にした茶碗をそっと止めた。
「臣、閔維重、拝謁いたします。」
低く澄んだ声。
空気さえも切り裂くような冷たさを孕んでいた。
私もまた、ただ冷ややかなまなざしを返した。
閔維重はさらに深く頭を垂れて口を開く。
「王室は朝鮮の根幹でございます、殿下。」
柔らかさの中に確かな重みを持つ言葉。
一音一音がまるで刻まれたようだった。
「高い身分と徳を備えた家門より王妃を迎えることこそが、
天下を安んじる道でございます。」
私は静かに茶碗を置いた。
器が机に触れる音が、張りつめた空気の中に澄んで響いた。
「中宮の座は、朕が定める。」
淡々と、しかし一歩も譲らぬ声色だった。
閔維重はその姿勢をさらに低くし、続けた。
「臣はただ、王室の根幹と礼法を案じているに過ぎませぬ、殿下。」
謙虚さを装いながらも、その言葉の端々には鋭さが隠れていた。
私は思わず、微かな失笑を漏らした。
「王室を案じている、というのか。」
閔維重は頭を上げることなく、短く答える。
「はい、殿下。」
私はその真意を探るよう、意図的に問いを投げた。
「母上にも、そのように進言したのか?」
その一言には、意図があった。
閔維重は一瞬だけ動きを止めたが、すぐに深く頭を下げた。
「大妃様もまた、殿下が正しきご決断をなされることをお望みでございます。」
正しき決断。
すなわち、彼らの思い通りに動けということ。
冷めた茶を静かに回しながら、
指先から忍び寄る冷気を感じ取った。
「朕の選んだ道が、
そなたたちの目には“正しき”ものではない……そういうことだな。」
低く、だが確かな響きの声。
閔維重は反論しなかった。
代わりに、さらに深く頭を垂れた。
「臣はただ、殿下と王室の安寧を願うのみでございます。」
直接否定はせず、やんわりとした強要。
私は静かに微笑んだ。
「その思い、しかと受け取った。……下がれ。」
言葉は短く、冷ややかだった。
その一言に、閔維重はそれ以上口を開くことなく
静かに身を引いた。
衣の裾が、冷たく床をなぞった。
扉が閉まると同時に、再び静寂が戻る。
私はわずかに茶碗を持ち上げ、そっと置き直した。
指先に残る冷たさが、
まるで心の奥まで染み込むようだった。
閔維重。
母を盾にし、天下を語り、
朕の意志をねじ曲げようとする野心。
——よかろう。
朕とて、退くつもりはない。
張玉貞。
我が女を守るためならば、
どのような脅しも、
どれほどの陰謀も——
この命をかけて、すべて受けて立とう。
障子の隙間から差し込む春の風は穏やかだったが、
私の内には、すでに熱き戦が始まっていた。