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朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第一章 ― 朝鮮に落ちた女子大生、ユン・イナ ―
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静かなる刃、囁きの風


宮廷には、常に風が流れていた。


目には見えぬその風は、障子の隙間をすり抜け、塀を越え、噂を運ぶ。


今日の風は、ことさら騒がしかった。


柔らかな陽差しが殿舎の間を優しく照らし、

梅の香りが静かに漂う午後。


その穏やかな空気を、ひそひそと掻き乱す囁きが広がっていた。


「本当だよ。殿下ご自身の言葉だったって。」


「張尚宮を、後宮じゃなくて中宮にすると……」


「大妃様も、ひどくお怒りだったそうよ。」


軒の下に集まった女官たちは、

裾を弄びながら囁き合った。


小さな視線、含み笑いとため息。


「でもさ、認めざるを得ないよね。あの美貌はさ……」


「うん。次元が違うもん……」


「美しけりゃ、すべてが手に入るのね……世の中、不公平すぎる……」


言葉の端々に、ため息交じりの笑いがこぼれる。


嫉妬とときめき、諦めが絡み合う波紋が、

殿舎の向こうへと静かに広がっていく。


彼女たちの視線は、自然とひとつの場所へ向かっていた。


朱塗りの丹青の下、ひっそりと佇むような殿——応香閣。


そこに——


張尚宮、いや、

まもなく中宮となるかもしれぬ女人がいる。


そして、

その浮き立つ空気を貫いて、一人の男が現れた。


陽差しを受けた回廊を軽やかに歩き、

道袍の裾を優雅に翻しながら。


張希載だった。


彼は片手で衣を軽く整えつつ、

何も知らぬ素振りでゆっくりと宮中を横切った。


だがその足取りは計算され、

すれ違う視線には一分の曇りもなかった。


彼が通るたび、女官たちの目がいっそう輝いた。


「きゃっ……」


「人間……なの、あれ……?」


「ほんと、顔が反則すぎる……」


囁きが、また風に乗って広がっていく。


希載は知らぬ顔で微笑み、

唇の端だけをわずかに吊り上げた。


将来の中宮の兄と目されるその男は、

熱い視線を浴びながらも、まったく揺るがなかった。


そして——


庭の向こうから、

静かな足音が近づいた。


丁寧にまとめた髪、

落ち着いた翡翠色の唐衣、

冷ややかな気配を纏う歩み。


閔昭儀だった。


彼女は大妃の呼び出しを受けて、宮中へ入ってきたところだった。


陽光を纏った裾が、

ひやりとした陰を引きずりながら進んできた。


希載は歩を止めた。


昭儀も自然と足を止めた。


ふたりの間を、薄い風がすり抜けた。


裾がかすかに揺れた。


希載は昭儀をさっと一瞥した。


そして、笑みを帯びぬ声で言った。


「どこの麗人かと思えば、閔家の花でいらしたか。」


冗談。


だが、その瞳には笑みひとつ宿していなかった。


『中宮になりたいのなら……

その足元には、十分にお気をつけを。


この宮という場所、花が咲けば、必ず棘も育つものですから。』


昭儀もまた、静かに微笑んだ。


外見は穏やかだが、内心は冷たく研ぎ澄まされていた。


『張家の子。

美辞麗句の裏に潜む、本性と欲望。』


昭儀の視線は、

希載の肩を越えて、女官たちの群れへ滑っていった。


『この下世話な風ども……

宮の清らかな空気まで、汚してゆくとは。』


心の中のため息を、

彼女は上品な微笑みで覆い隠した。


希載は体を少し斜めに向け、道を開けた。


「お道を塞いでしまいました。申し訳ありません、お嬢様。」


昭儀は品よく頭を下げた。


表情は変わらず、静かだった。


だが、

ふたりの間には、細く冷たい緊張が走っていた。


希載は余裕の歩みでその場を離れた。


昭儀もまた、裾を引きずるように静かに歩き出した。


すれ違う一瞬。


彼らは最後まで、

互いの気配を離さなかった。


一言も交わさず、

一片の感情も見せることなく。


誰にも気づかれぬうちに——


張玉貞へ向けられた、もう一つの刃が、

ひそやかに目を覚ましていた。


週末は楽しく過ごされましたでしょうか?

明日からまた新しい一週間が始まりますね。

いつも作品を読んでくださる皆様が、たくさんの幸運に恵まれますように。

本日もありがとうございました!

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