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朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第一章 ― 朝鮮に落ちた女子大生、ユン・イナ ―
3/87

死薬こそが答えだ



死薬こそが答えだ。

しきりに懐かしくなる。

タンブラーに氷をいっぱいに入れたアイスアメリカーノ。

狭い部屋の空気。

毎朝聞こえていた、母の小言。


そのすべてが、今は遠い夢のように感じられる。

もしかして、このすべてが夢なのだろうか。

目を覚ませば、また、見慣れた世界が広がっているのだろうか。

そうすれば…母に会えるのではないか、

そうやってこの夢から覚めて、現実に戻れるのではないか。

毎朝期待して目を開けてみても、目の前に広がる現実は、そのままだった。


朝鮮。

張玉貞チャン・オクチョン

そして、その中にいる私。


しきりに曇った、灰色の空の下、

咲き乱れた花木のそばに立っていた。

湿った風がスカートの裾をかすめ、

土の匂いと花の香りが混じり合い、鼻先に染み込む。

そっと腰をかがめ、深呼吸をした。

澄んだ空気が肺を満たす感覚は、どこか見慣れているようで、どこか見慣れなかった。


「死薬を…受け取れば、戻れるだろうか?」


とんでもない言葉だが、今はそれが一番現実的だ。

私の体が、朝鮮時代の張玉貞として死ねば、

私がいた現代の「ユン・イナ」として戻れるかもしれない、そんな思い…。

私が知っている張玉貞の最も「定められた道」は、結局、死薬だった。

もしかするとそれが、私に与えられた「戻るための条件」なのかもしれない。


目的は明確だった。

この人生の終わりを知っているのだから…。

ならば、早くその道を進むのが正しいと考えた。

しかし、

死薬を受け取ることは、想像以上に途方もなく感じられた。


(脈絡もなく王のところへ行って、いきなり暴れるわけにもいかないだろう…。

そんな名分もないし…。)


今、私は朝鮮最高権力者の目に留まってしまい、

そのおかげで宮廷の中では、ほとんどインフルエンサー扱いだった。

化粧法や服装まで真似しようと、

宮女たちが私の周りを離れようとしなかった。


そして、

粛宗。

あの人は本当に、恐ろしいほどに優しかった。

大殿の廊下の端、雨に濡れた軒下で出会った日。


「オクチョン、今日も顔が赤みがかっておるな。どこか具合でも悪いのか。」


穏やかな眼差し。

そっと頬を包み込む手。

柔らかな声。


…はぁ、本当に…近くに来ないで、どうか、お願い。

心臓が…騒ぎすぎて…。


彼と顔を合わせるたび、私は息もまともにできないまま、

ただ適当にごまかして、その場から素早く離れようとした。

逃げるのが日常だった。


だが、

どこへ行っても彼がいた。

廊下、あずまや、庭、果ては書庫の前まで。

朝鮮の王は、瞬間移動でも使うのだろうか。

そんなはずはないのに、何度も現れる。

このままでは、ストーキングされているのではないかと思うほどだった。


あの人を見るたび、胸が、見慣れているようで、見慣れない、重苦しさを感じた。

その感情が私の感情なのか、張玉貞の感情なのか、分からなくなった。

心臓が、何度も一線を越えようとする。


(最後にはあの人から死薬を受け取るって知ってるのに、好きになるって?どうかしてる、本当に。)


——


つらい一日を終え、

静かな居所の中で、ゆっくりと目を閉じた。

優しい母の手に触れたかった。

苦労の多い人生を送ってきた母の手は、ごつごつしていたけれど、

私にとっては、誰よりも愛おしい手だった。

いつも申し訳なさそうに私の頭を撫でてくれた母のその手が、

今はすべてが夢のように感じられる。


そして、

それと同時に、不意に頭に浮かぶ顔。

あの人。

逃げても、無視しても、いつも静かに近づいてくる眼差し。

冷たくもなく、重くもない、ただひたすらに私だけを見つめる、真っ直ぐな視線。


(もしかして、分かっているのだろうか。私が昔の張玉貞ではないということを。

すべての愛情が、張玉貞という名前にだけ注がれたものだとしたら。

私はただ…その抜け殻に、一時的に宿っている人間なのに。)


そんなことを考えると、

なんだか胸がチクリと痛んだ。

静かに心に誓う。


(ダメだ、揺らぐな。目標は死薬だ。死薬、死薬、死薬…。)


そう誓いながら目を閉じたが、

耳元に絶えずあの声がまとわりつく。

低く、静かで、温かい息遣い。

心臓がまた、むなしく高鳴り始めた。


(どうか…もうときめかせないで。そうでなければ…いっそ、今すぐ死薬をください。どうか…。)


静かな夜、障子を叩く雨音の狭間で、

あの人の息遣いが触れたかのように感じられた。

その震えを胸の奥深くに飲み込み、

声にならないため息をついた。

戻る道よりも、この感情の方が恐ろしい。



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