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朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第一章 ― 朝鮮に落ちた女子大生、ユン・イナ ―
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月光と運命の狭間で


春の終わり、


応香閣の障子の隙間から差し込んだ月明かりが、静かに縁側を伝って流れていた。


遠くでは花の香りが風に乗って、細く、静かに広がっていった。


私は、ぼんやりと縁側の端に座っていた。


冷めた茶碗を両手で包みながら、

ひとつ、はかない溜息を長く吐いた。


……今ごろなら。


コンビニでカップラーメンを買って、冷房の効いた部屋でドラマを見てたんだろうな。


お母さんの作る辛いキムチチゲの匂い。


友達とのカカオ通知が止まらなかった、あの普通の夜たち。


夜更かししてテレビの前に座ってた、あの馴染みの時間。


その全部が、


もう、手の届かない遠い場所にあった。


私は顎を膝にのせて、

月光に濡れる庭を静かに見つめた。


どうして、こんなことになったのだろう。


あの人を好きになってしまったから?


それとも、張玉貞の運命までも背負ってしまったから?


いや、もともとの歴史でも、ふたりは愛し合ってたって——


はあ。


ため息が、息のように長くこぼれ落ちた。


──その時だった。


ガラガラガッ!!


まさに「ガラガラッ!」という音とともに、扉が勢いよく開いた。


静寂を引き裂くように、暴風のように駆け込んできたのは、全羅内人。


「ママ!ママーー!!」


私は反射的に目をぎゅっと閉じた。


「……また、今度は何事じゃ。」


全羅内人は汗でぐっしょり、顔は蒼白。


そして、叫んだ。


「殿下が!!大妃様の前で!!ママを中宮にすると宣言なさいました!!」


……あ。


これは、本当に大ごとだ。


「本当なんですってば!!今、宮中が全部ひっくり返ってます!!朝廷も、大妃様も、大混乱です!!」


無言で首を垂れた。


そばにいた金尚宮も、黙って同じく首を垂れた。


そして、次の瞬間——


ドスン。


並んで縁側にへたり込み、

額を床につけて崩れ落ちた。


出た、


歴史崩壊フラグ……


閔氏が中宮にならなければならないはずの、順理。


このタイミングで、私が中宮だなんて……


全羅内人は隣でわたわたと飛び跳ねていた。


「ママ!息して!呼吸を!!」


「……息はしておる……」


金尚宮、明らかに息してない目だったけど?


私は力なく天井を見上げて、呟いた。


障子越しに吹き込む風に、

草の苦い香りが混じっていた。


その匂いに包まれて、

胸の奥も静かに流されていった。


これ、本当に帰れなくなるんじゃない?


毒薬ルートどころか、

このままじゃ朝鮮版・宮廷バトルの最前線に放り込まれるかも。


頭の中で、歴史の教科書が破れる音が聞こえた気がした。


そして——


すべての不安を押しのけて、

ふいに込み上げてきた、たったひとつの感情。


……殿下。


なんだか、胸がドンと沈んだ。


もし、朝廷が反発したら、

大妃様が激怒したら、


もし、彼に何か起きたら——


私は頭を抱えながら、縁側をポンポンと叩いた。


「……ああ、ほんと……オクチョンよ、おまえ、自分の心配をしなさいって……」


全羅内人はおずおずと尋ねてきた。


「ママ……これから、どうなさいますか……?」


私は力なく、どさりと座り込んだ。


空っぽの空を仰ぎ見た。


月光が、障子に掛かって流れていた。


「……わからぬ。本当に、何もわからぬ……」


縁側に体を預け、息を整えながら、

静かに、かすかに呟いた。


順理に従うべきか。それとも……あの人についていくべきか。


月の光は、冷たいままだった。


けれど、胸のどこかには、

どうしようもなく熱いぬくもりが、少しずつ広がっていた。



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