胸の奥の警報音
息が止まりそうな静寂の中で、
肅宗は、静かに手を差し伸べた。
朱く染まった陽光の下、
その手は、温かく、そして確かな力を持っていた。
私は、凍りついたまま、
彼を見つめていた。
心臓の音が、耳を裂くほど響いていた。
指先の先まで、ぴんと張り詰めたように固まっていた。
……まって。
ちょっと待ってください、殿下?
頭の中に、真っ赤な警報灯が狂ったように点滅した。
「わ、殿下……?」
思わず口が動いた。
あまりの動揺に、金尚宮へとSOSを送る視線を向けると、
彼女の目も今にも飛び出そうだった。
私たち……二人とも凍結中。
完璧なる、パニック絵巻。
なに、これ。
どうしてこうなった?
殿下、私たちって、静かにフラグ積んでたはずじゃ?
なぜここで突然、急発進?!!
全身の回路が一斉にショートする感覚だった。
それでも、
どうにか正気を保とうとした。
命がけで保った涼しげな表情。
(だったと信じたい)
唇をきゅっと引き締め、
最大限、慎重に呟いた。
「わたくしは……そのような器ではございませぬ……」
手のひらには汗が滲み、
まるで朝鮮の河川を一つ刻み込む勢いだった。
だが肅宗は、
あの眩しすぎる顔で、一片の迷いもなく言った。
「そなたは、すでに我の人だ。」
……終了。
私は冷えた茶碗を、思わず手放した。
カシャン、と音が室内に響き渡った。
詰んだ。
マジで。
これはフラグじゃなく、暴走機関車だ。
息を呑んだ。
落ち着け、ユン・イナ。
今のあなたはチャン・オクチョン。
毒薬エンドを死守すべき存在。
私は必死に、唇を震わせた。
「しかし……身分が……」
惨めな言い訳を絞り出してみたが、
肅宗は、それを一刀両断した。
「朕が選んだ者だ。」
はっきりと、
心臓を直撃する言葉だった。
私は口を開けたまま、
閉じて、また開けて、また閉じた。
……ほんとに、もう……アアアアッ!!!
頭の中が、真っ白になった。
心の中で絶叫しながら、
私はそっと頭を下げた。
「妾は、ただ……
殿下の御身に、害を及ぼさぬことを願うばかりでございます……」
震える。
お願い、ここで止まって。
どうかお願い。
──だが。
そんな私の願いなど知る由もなく、
彼は静かに近づいてきた。
息が鼻先をかすめるほどの距離。
さらに、もっと近く。
心臓が、ドクン、ドクン、ドクン。
本当に時限爆弾のように打ち始めた。
彼は、そっと私の手を取った。
その指先は、温かく、そして微かに震えていた。
「そなたは、我の運命だ。」
低く、耳元に沁みるような声。
柔らかく、けれど揺るがぬ響き。
……終わった。
本当に、終わった。
私は目をぎゅっと閉じた。
頬が、熱を帯びて火照る。
心臓は、今にも壊れそうだった。
心臓。
だから、落ち着いてって言ったじゃん。
指先が、かすかに震えた。
触れ合った体温に、
髪の毛一本一本が逆立つ気がした。
障子の向こうで、
赤く染まった夕陽が静かに消えていく。
けれど、私の胸の中は——
まだ、爆発寸前だった。
私は、必死に叫んだ。
心の中でだけ。
毒薬エンドだってば、毒薬エンド!!
——けれど、もう分かっていた。
もう、戻れない。
呼吸も、鼓動も、
すべてが、肅宗へと向かっていた。