恥じらいの逃避行
「……ああ、私、本当に狂ってる。」
錦の布団に身を沈めた。
穴があったら入りたい、そんな心境だった。
「酔ってただけって……言えば……信じてくれるかな?」
布団の中で呟く声が広がる。
自分で言っておいて、さらに惨めな気持ちになり、思わず頷いた。
いや、誰が見ても酔ってたよ。
なのにどうして、あんなにはっきり覚えてるの。
熱かった吐息、
顔を埋めた広い胸、
呼吸に誘われるようにしがみついた記憶。
衣の襟を握った瞬間、
そっともたれて泣いた瞬間まで——
全部、私からだった。
「……うわ、もう顔どうやって合わせるの……。」
布団を抱きしめたまま、心臓が破裂しそうに高鳴った。
あの胸がどれほど温かかったか、
どれほど一つ一つの呼吸が眩しかったか。
吐息が耳元をかすめ、
胸元に触れた熱が今も指先に残っていた。
「狂ってる。本当に、狂ってるってば……。」
ごろごろと布団の上を転がった。
つま先まで熱くなっていた。
髪の毛の先まで火照って、息が苦しいほどだった。
意味もなく枕をぽんぽんと叩いて体を横たえた。
「朝鮮版・黒歴史……完成……。」
乾いた笑いが漏れた。
指先で布団を弄びながら、再び顔を深く埋めた。
忘れたかった。
真っ黒に、完全に記憶が飛んでくれればよかった。
なのに温かかったあの胸、
震えたあの吐息、
襟を掴んだ指先が鮮やかに蘇った。
「うああああああ……。」
布団の中がばさばさと膨らんだ。
切ない呻き声だけが部屋いっぱいに散っていった。
空気は冷たかったが、布団の中はぐつぐつ煮えたぎっていた。
──
あの日以来。
私は宮中をさまよう影になった。
……ならざるを得なかった。
彼を見るのがあまりにも、いや、あまりにも恥ずかしかった。
長い廊下を通るたびに
足元の音すら慎重になった。
廊下の先で気配を感じるたび、
反射的に裾を握って
別の道へ身を翻した。
手のひらには冷や汗がにじみ、
息すら悟られぬようそっと歩いた。
本当に、
なんで私がこんなことしなきゃならないの。
深くうつむいた。
後ろから近づく小さな足音。
キム尚宮と侍女たちが後をついてきた。
「ママ、ご足元にお気をつけくださいませ……」
急ぎ足で来たキム尚宮がささやいた。
歩みを止めた。
少し振り返り、そっと言った。
「……少し一人になりたいの。皆、部屋に戻っていてちょうだい。」
無意味に連れまわして目立てば……本当に終わりだから。
キム尚宮はためらいながらも、静かに頭を下げた。
「……かしこまりました、ママ。」
侍女たちも足音を殺して下がった。
再び歩き出した。
床をかすめる衣擦れの音さえも隠すように。
障子の向こうから吹く風が
そっと衣を揺らした。
その風に押されるように、一歩、また一歩。
そして——
迷子になった。
……ちくしょう。
ここどこよ。
キム尚宮を帰した直後に迷子になるなんて……
あてもなく歩いていた足が
いつの間にか輝く光へと向かっていた。
目の前が明るくなった。
日差しが差し込む池、
風に揺れる柳の木、
澄んだ水音、
空っぽの東屋。
歩みを止めた。
……きれい。
ぼんやりと立ち尽くし、
惹かれるように足を進めた。
欄干に手をかけようとしたその瞬間——
気配がよぎった。
顔を上げた。
息が詰まった。
柱にもたれて立つ一人の人影。
陽射しを背に、
物音一つなく、こちらを見ていた。
心臓がドスンと沈んだ。
つま先から体が固まった。
心臓は狂ったように脈打つのに、
一歩も動けなかった。
……これ、マジで心臓発作エンド来るかもしれない。
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