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朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第一章 ― 朝鮮に落ちた女子大生、ユン・イナ ―
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雨音の奥、覚めたまどろみ



数日が過ぎた。

意識を取り戻してから、夢のような日々だった。


信じたくはなかったが、私はもう――

ここ朝鮮の、女だった。


死んで、生まれ変わったのか。

それとも、ただ魂だけがこの身体に入り込んだのか。


分からない。


でも、一つだけは確かだった。


……この身体、びっくりするほど、美しい。


本気だ。


初めて鏡で自分の顔を見たとき、

心臓がズキンと鳴った。


これは、私じゃない。


透き通るような肌。

潤んだようにきらめく瞳。

唇は熟した杏のように柔らかく、

笑えば頬にえくぼが浮かぶ。


鏡を見ながら、

「これ、絶対、男が放っておかないやつだ…」

という妙な確信すら湧いた。


その日から、私はずっと窓の外を眺めていた。


障子越しには塀と梅、風と陽の光。


でも、見慣れた電線も、エアコンもない。


……やっぱり、本当に朝鮮に来てしまったのだ。


しかも――私は、チャン・オクジョンだった。


時々、これは悪い冗談かとも思った。

どこかに隠しカメラでもあるんじゃないかって。


でも、脳裏にいつも響くのは、あの言葉。


「定められた道を外れれば、戻ることは叶わぬ」


一体、どういう意味だろう。


チャン・オクジョンの運命を知る私は、

本能でその結末がわかっている。


――毒。

――死。


避けるべきなのか、

それとも……受け入れるべきなのか。


頭を振った。

考えるほどに、混乱が深まる。


そのときだった。


聞き慣れた声が響いた。


「オクジョン、どこにいる?」


息が止まりそうになった。


あの声――


……王だ。


宮殿の中庭を横切る、低くて穏やかな声。

まるでロマンス時代劇から抜け出たような中音。


とっさに身を隠した。


顔を合わせたくなかった。


妙に胸が締めつけられるような感情が込み上げてくるのが、

嫌だった。


私は、典型的なドラマのヒロインとは違うはずだったのに。


朝鮮まで来て、ロマンスだなんて。


正気になれ。目を覚ませ――


そう思っていたのに。


足音が、近づいてきた。


「見つけた。」


……終わった。


その声が、頭上に落ちた。


思わず息を呑んだ。


顔を上げられず、小さな声で言葉を絞り出した。


「……殿下に、ご迷惑をかけたくなくて……」


沈黙。


風だけが、静かにその間を通り過ぎていく。


長い沈黙のあと、彼が口を開いた。


「オクジョン、まだ記憶は戻っていないのか?」


目を丸くして、こくんと頷いた。


記憶喪失設定――便利だ。


誰かの記憶や感情が入り乱れてる今の私は、

自分が何者かすら、曖昧だったから。


彼の瞳には、心配と憐れみ、

そして、かすかな愛しさのようなものが浮かんでいた。


……はあ、本当に……顔面偏差値が高すぎる。


沈黙の中で、彼の声が再び落ちた。


「私の言動が、お前に不快な思いをさせたか?」


……そうじゃありません。

ただ、あなたが……反則すぎるんです。


喉元まで出かかった言葉を、必死に飲み込んだ。


「いえ……少し、めまいがして……」


ごまかすように言うと、

彼はそっと私に近づき、手を取った。


視線は自然と下を向く。


濡れた履物の先。


一歩、また一歩と近づく彼の歩幅。


その足音の向こうから、低く美しい声が流れた。


「本当に私から離れたいのなら――

まず、自分の心をごまかすことから始めるのだな。」


耳の奥が、じんと熱くなった。


胸の奥が、ふいに落ちた。


言葉も出せずに、ただ彼を見つめた。


彼は、そっと私の頭に手を乗せた。


異質なあたたかさが、じわりと伝わってくる。


あれほど拒もうとした気持ちが、


静かに、ゆっくりと、私を包み込んでいった。


背を向けながら、彼が言った。


「お前が心から楽になれる日まで、私は待とう。」


彼の後ろ姿を、長く見つめていた。


空っぽだった胸の真ん中に、


春の土のように温もりが、


静かに、染み込んでいた。

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