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朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第一章 ― 朝鮮に落ちた女子大生、ユン・イナ ―
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静けさに溶ける鼓動


凝香閣の前にたどり着いたとき、

彼女の居所を守っていた金尚宮と女官たちは、驚いたように深く頭を下げた。


俺はそっと唇に指を当てた。


「し……」


静かに後ずさる彼女たちの足音だけが、微かに残った。


ゆっくりと扉を開け、中へ入る。


かすかに揺れる灯り、淡く漂う香の気配。


その小さな部屋の中に、彼女はいた。


俯いたまま、何かを一心に書きつけている。


小さな肩、真剣な横顔。


ただ眺めているだけで、自然と微笑みがこぼれそうだった。


静かに近づき、ふと目に入ったのは、彼女の筆先が残した文字。


「毒薬フラグ①……あまりにも致命的キス、恥死のフラグオープン」


……何だこれは。


その文字を見下ろす俺の気配に気づいたのか、

彼女がそろりと顔を上げた。


大きな瞳が俺を見つけ、丸く見開かれる。


「で……殿下?」


慌てたように両手で紙を隠す姿に、思わず笑みを堪えた。


「随分と熱心だったようだから、邪魔はすまいと思ってな」


穏やかに笑いながら、彼女の傍らに静かに座った。


絹の衣が擦れ、静けさを破る。


彼女は筆を強く握り、うつむいた。


「……たいしたことではありません」


俺は何気ないふりをして、そっと問いかけた。


「もしかして、私に毒を請う文でもしたためていたのか」


彼女は驚いたように、ぱっと顔を上げた。


その表情に、つい口元が緩む。


「ど……どうして、それを」


彼女の髪を、そっと指先で撫でた。


艶やかな髪が、するりと手を滑った。


「玉貞。お前の瞳が、すべてを語っていたよ」


静かに、優しくささやいた。


「こんなにも美しい者が、毒などと……

聞かされる私の方が、よほど息が詰まる」


彼女は顔を布団に埋めるように身を縮めた。


震える吐息が、そっと伝わる。


少しだけ、彼女の側に身体を寄せた。


耳元に俺の息がかかると、彼女の肩が小さく震えた。


「私が口づけをすれば……また逃げてしまうのか?」


そっと、軽く。


彼女の唇に口づけた。


ほんの一瞬。けれど、心が深く揺れた。


彼女が息をのんで、小さく囁いた。


「鼓動が……うるさいです、殿下」


俺は静かに笑った。


「お前の前で静かな心などあったとすれば、それこそ奇妙だ」


彼女は顔を赤らめ、窓の外へと視線を逸らした。


その姿が、あまりにも愛おしかった。


そっと言葉を重ねる。


「玉貞。お前が変わったこと、気づいている」


彼女はそっと息を呑んだ。


「笑顔も、ひとりごとも、毒という言葉の裏で視線を逸らす仕草も……」


深く息を吐いて、笑みを浮かべた。


「そんなお前が、愛おしくて仕方がない」


彼女はまばたきしながら俺を見つめた。


その澄んだ瞳に、隠しきれない震えが滲む。


俺は、そっと彼女の手を取った。


彼女も、静かに俺の手を握り返した。


指先に伝わるぬくもりに、胸が優しく震えた。


もう一度、彼女の唇を求めた。


今度は、少し長く。


触れ合う呼吸のように、唇を重ねた。


唇に落ちる温もりが、ゆっくりと胸に染みていく。


彼女は息を殺したまま、そっと目を閉じた。


唇を離さぬまま、耳元へ顔を寄せる。


柔らかな耳たぶに唇を触れさせると、彼女は細く震えた。


そして、小さな声が漏れた。


「……くすぐったいです、殿下」


堪えきれず、柔らかく笑った。


彼女の髪を指に絡め、優しく囁いた。


「私の心は、お前の前では静まれぬ」


彼女を、そっと抱き寄せた。


すべての喧騒が遠のいていく。


残ったのは、彼女と──俺だけだった。


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