刻印
かなりの長い間、中宮殿の中には静寂が漂っていた。
窓の外から息を潜めるように見つめる月明かり以外には、何の動きもない。
殿下はこういう雰囲気を嫌う方なので、
こういう状況になると、いつも私を抱きしめるか、口づけを迫ってくるものなのに…
今日は何の動きもなく、ただ私を見つめるばかりだ。
私がひどく慌てて取り繕おうとしたせいなのか、
それとも、普段と違う私の姿に戸惑ったのか。
長い間立ち止まって私を見つめていた彼が、静かに口を開いた。
「後世、か…」
一瞬、背筋が冷たくなった。
「わ…わたくしが、あまりにも欲張りすぎました。
殿下のご功績だけでも記録するには本が足りないほどなのに、一介の女の事まで残ってほしいなどと…」
どうにか状況を収拾しようとしたせいで、頭が正常に機能しなかった。
戸惑う私を静かに見つめながら、
何も言わずに近づいてきて、乱れた私の髪をそっと撫でつけた。
「そうか」
小さく浮かんだ彼の微笑みに、微妙な違和感と同時に安堵感がよぎったその刹那、
「ならば、その後世でも、そなたは私の傍にいるのだろうな?」
あ…頭が壊れたみたいだ。
どう反応すればいいのか、わからない…
殿下特有の、口角を少し釣り上げるような微笑み。
何かを見透かそうとするような物言い。
どうやら、相当な失態を演じてしまったようだ…
「そうであるしかないだろう。
生涯、私の女はそなた一人だけ、生涯、そなたの男も私一人だけなのだから」
私を抱きしめる彼の腕から、普段とは違う強い力が感じられた。
まるで自分の獲物を鷲掴みにする猛獣のように…
普段と違う見慣れない感覚に、私は彼を強く抱きしめ返した。
「わたくしはもう、殿下以外は誰も愛せないようになってしまいました」
背中を撫でる彼の手が、かすかに震えた。
荒々しく跳ねていた彼の心臓の鼓動が、静かに落ち着いた。
「ゆえに、私を信じよ。誰も私ほど、そなたを愛することはできぬ」
その一言に込められた真心が、私の胸を熱くさせた。
視線が絡み合った。
彼の眼差しの中で、言葉にできない妙な感覚が揺らめいた。
抱擁から私を引き剥がした彼が、荒々しく唇を食い破るように押し付けてきた。
いつもは、慎重に、あるいはいたずらっぽく、そして子供を扱うように私に接していた彼が、
初めて純粋な渇望をありのままに露わにした。
鋭い所有欲をむき出しにした獣のように、
荒々しく踏み込んでくる彼の仕草に驚き、押し返そうとしたが、それさえも許してはくれなかった。
僅かな隙間も、僅かな距離も許さない彼の姿に、
意識が遠のきそうになり、全身の感覚が鋭く研ぎ澄まされた。
隅々まで分け入る彼の動きが、めまいがするほどに迫ってくる。
まるで、私の体に彼自身を刻印させるかのような感覚。
「しっかりと見ておけ。
今、お前を抱いているのが誰なのか、一生、お前の傍を守るのが誰なのかを、だ」
熱く絡みつく彼の吐息が、私の上に降り注いだ。
狂おしいほどに刻みつけられた彼の痕跡が、痛みとなって感じられた。
再び私を掴む彼の動きを最後に、かろうじて掴んでいた意識が、徐々に薄れていった。




