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朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第一章 ― 朝鮮に落ちた女子大生、ユン・イナ ―
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香に溺れる人(かおりにおぼれるひと)


凝香閣。

その名はどこか冷たく、切なさを孕んでいた。


香りが留まる殿。

この世に長く留まれぬ何かを、連想させる響きだった。


その美しい空間の真ん中。

金糸の刺繍が施された絹の上に、そっと座っていた。


桃色の茶碗を手に、

障子越しに差し込む陽射しをぼんやりと見つめ、

指先を合わせる。


陽は暖かく柔らかかった。

でも、心の中は荒れていた。


……バカみたい。


毒を賜る運命のはずの私が、

今、朝鮮で一番の寵愛を受けている。


これも歴史の流れ通りなのか、

それとも、自分というバグのせいで狂った世界なのか。


承恩尚宮。

凝香閣の下賜。


宮中の視線と寵愛、すべてが私に注がれていた。

頭が回らなかった。

心がぐらぐらと揺れていた。


これ……本当に歴史通りに進んでる?


私は毒を飲みに来た人間で、

寵愛なんて……最後までいってすらないのに。


最後までいってない……のに。


あの夜が。

思い出してしまう。


あの目。

荒れた吐息。


獣のように覆いかぶさってきたあの口づけ。


冷たい指先が、そっと顎を包んだあの感触。


……はぁ。


私は勢いよく布団を被った。


「うああああああああ!」


凝香閣の一室で、絹の布団が情けなく揺れた。


「殿下、その口……ほんとズルい……っ

ていうか……あんなの……反則でしょ……!」


その時、外からそっと顔を覗かせたのは、


「ママ様……ご無事でしょうか……?」


恩英だった。


一緒に宮に入った、最も信頼できる女官。


私は布団から顔だけ出して、恩英を見た。


「……恩英、私……ちょっと……おかしくなったかも……」


彼女は黙って部屋に入り、私の前で静かに膝をついた。


「この数日、ママ様はよく独り言をおっしゃいます」

「……そんなこと言ってた?」

「昨夜は『その手、危険』と仰って、布団を抱えておられました」

「……!?」

「そして……『毒薬を……』と」


私はそのまま布団の中に埋もれた。


ああああああ! 本当に毒、誰かください……


恥ずかしすぎて、死にたい。


またしても布団をぐしゃぐしゃに蹴飛ばし、

顔が桃のように真っ赤になった。


「もう……帰れないかもしれない……」


私は立ち上がり、書簡を広げた。


《毒フラグ発動計画・その一》

──どうすれば、うまく嫌われるだろうか。


ペンを持つ手がぶるぶると震える。

頭はもう、完全にショートしていた。


──


その頃、殿の外。


恩英は心配そうな顔で金尚宮を訪ねていた。


「ママ様が……最近ずっと独り言を……毒とか、唇とか……」


金尚宮は静かに茶碗を置き、うなずいた。


「……そのままにしておきなさい」

「それでは、御医を呼んだ方が──」

「薬を使えば、かえって悪化するわ。

これは薬で治る病じゃない」


徐羅人がそっと口を開いた。


「もしかして……恋の病では……」


金尚宮は深くため息をつき、頷いた。


「恋という薬は……時に毒よりも苦いものさ」


三人は静かに視線を交わし合った。


梅の香が微かに漂う回廊の向こう、


誰よりも孤独な凝香閣の小さな部屋の中で、


私は──

愛という名の、苦い薬に静かに染まっていた。


いつも作品を読んでくださり、本当にありがとうございます!

物語はここからさらに盛り上がっていきますので、どうか次話も楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。


皆様からの温かい応援や評価、そしてブックマークが、何よりも執筆の大きな励みになります。

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