筆で立てた刃
夜は** 深まっていたが、私の** 心は** 眠ることを 知らなかった**。
障子を かすめて 入ってくる 風は** 夏の** 温かい 気配を 含んでいるのに、私の** 内は** 依然として 刃のような 風が** 吹く** 冬だった**。
灯台の 火が** おぼろげに 揺れる 愛舎**(サランチェ)、静かに** 座っていると** しきりに** 過去の 記憶が 溢れ出した。名前だけだった 中殿**、そして 私に** 期待を 抱かせた** 殿下の 微笑みまで……**。
私への 好意ではないと 知っていたが**、それすら** 幸せに 感じられていた。彼の** 刃が** 私を** 向けていることも** 知らずに**……**。
今は** ただ** 萎れてしまった 廃位された 中殿**、息を** 潜めて 生きていかなければ ならない** 名もない** 女人に 過ぎない**。
この** 全ての 屈辱を 甘受しても 生き残らなければ** ならない** 理由は、まだ** 私に** 果たすべき 仕事が 残っているからだ**。
叔父が 残していった** 全ての 足跡を 集めて 生きていこう**。民心を 察し**、万世に 長く** 輝く** 中殿となり 家門の 栄光を 取り戻そう。
全てが 難しそうに 見え**、世界が 私に** 背を** 向けたようでも できる。いや**、やるしかない**。今の** 私に** 選択肢など ないのだから**。
机の** 上に** ぽつんと** 置かれた** 筆と** 硯を** 見つめながら** 深い** 思考に 沈んだ。
今 私に** できる ことは 何だろうか。殿下と チャン 氏に** 一番** 致命的な** ものは 何だろうか。
鋭い** 剣のように 冷ややかに 光る** 筆が**、もしかしたら** 私たちに** 残された** 唯一の 武器かもしれない**。
丁寧に 筆を** 取り上げ**、空白の 冊子を 広げた。そして 一文字ずつ 空いている その** 冊子を 埋めていき 始めた。
「剣は** 一人の 命しか 斬れないが、文字は 千万の 心を** 揺るがす**」と 言うだろう。チャン 氏のような 女人の 奸悪さ、正室の 無実の 没落**……。民衆にとっては** 新鮮な 話題となるだろう**。
胸の** 奥で** 長く** 押さえ込んでいた** 感情が こみ上げてきた。殿下の 懐で** 子を** 抱いて 笑っている チャン 氏の** 姿が** 思い浮かんだ**。その** 微笑みが** 民衆の 心に** 悪辣で 奸悪な ものとして 刻まれるならば、そして 不幸に 追い出された** 私の** 境遇を 民衆が 同情的に** 見てくれるならば**、私にも 勝算は あった。
震える 指先を 引き締めながら 丁寧に 冊子を 一つ一つ** 埋めていった**。黒い** 墨が** 白い** 紙を** 濡らして** 広がった**。私の** 無念の 血が** 滲むように、そうして** 文字は 始まった**。
この** 文字が 民衆の 唇の** 上で** 伝えられ**、チャン 氏の** 虚ろな 権勢を 崩壊させることを** 願う**。民衆が 私の** 盾となってくれることを 願う**。そうして** 私の** 座を** 再び** 取り戻して 行けるように**。
全てを 大臣たちに 任せておくわけにはいかなかった。既に** 手遅れに** なりすぎていたし**、固まっていくばかりの** チャン 氏の** 姿を** 見ていることが できなかった** ため**、動かなければ** ならなかった**。私 自身も 強くならなければ** ならなかった**。
全てを 注ぎ込んで この** 冊子を 完成させる つもりだ**。今日の 私は** 剣ではなく 筆を** 選んだ。しかし その** 筆が** 刃よりも** 更に** 鋭く** 長く** チャン 氏の** 世界を 引き裂くだろうと** 信じる。
外に** 見える 月明かりの 下、木の** 影が** 長く** 伸びていた。その** 影の** 中に** 隠されていた** 刃が** 月明かりを 受けて 徐々に 光を** 放ち** 始めた。
私は** 知っていた。今 私が** 持っている 筆が** まさに その** 刃だということを**。
筆先から** 咲いた 文字が まさに 私の** 復讐の 火種であり、家門の 名を** 再び** 立てる 柱となるだろう。
最後の 一画を 下ろしながら** 心の** 中で** 誓った。
この** 筆が** 折れる 前に**、必ず** 彼女を 折ってやる。
投稿が遅くなり、ごめんなさい。




