紅い竜袍と玉冊
早朝から中宮殿は慌ただしい緊張感に包まれていた。
王子 尹の世子冊封が挙行される日、少々緊張したような顔で中宮殿で着飾り中の玉貞が見えた。
粛宗の強い意志で急速に進行されたため、まだよちよち歩きさえできない赤ん坊を世子に冊封しなければならなかった。
玉貞はため息をつき、乳母に抱かれた子供を見つめた。もぞもぞ動く指、今やなかなか可愛らしい微笑みも浮かべる息子を見ると、顔にいっぱいの微笑みが自然と浮かんだ。
可愛らしい微笑みは、自分にだけ見せてくれる粛宗の微笑みとそっくりで、全体的な外見が自分と粛宗をちょうど半々で混ぜ合わせたように、とてつもない美貌を誇っていた。
自分の子だからだろうか、
私もどうしようもない親ばかなのね……
用心深く戸が開く音が聞こえ、キム尚宮が入ってきた。普段とは違い、満面の笑みを浮かべた彼女が玉貞に礼を尽くした。
「ママ、準備が全て整ったとのことです。いざ冊封式の会場へ移動されねばなりません。」
感激しているように見える彼女の微笑みに、玉貞も微笑むしかなかった。中殿になった日見せた微笑みよりもさらに明るい微笑みを見ていると、普段感情をあまり表に出さないキム尚宮が今どれほど喜んでいるのか計り知れなかった。
乳母から王子を引き取ったキム尚宮の目が可愛らしく細まった。その姿を見ていると、再び母の顔が思い浮かんだ。
孫を見る母の姿もあんな様子*だったのだろうか……*
じっと自分を見つめる玉貞の視線を感じたのか、彼女はすぐに姿勢を正し、用心深く王子を胸に抱いた。
最後に着物の襟元を整えた玉貞が足取りを進めた。外へ出てみると、空は非常に澄んでおり、波のように揺らめいていた。
踏み出す一歩ごとに雲の上を歩くような感覚。夢のようで、夢ではない現実が不思議だった。確かに現実を生きているのに、現実ではないような感覚は、朝鮮へ渡って来てから絶えず感じていたが、とりわけ今日はさらに実感が湧かなかった。
冊封の会場に近づいていたその時、遠くから見慣れたシルエットが彼女の目にいっぱいに広がった。遠くから見ても美しい殿下が微笑んだ顔で彼女を見つめていた。彼の顔を見ると、玉貞も自然と微笑みがこぼれた。
少し早足で彼に近づき、礼を尽くした。
「待っていた。さあ入ろう。」
雄壮な音と共に門が開き、玉貞は粛宗の手を取り、静かに 仁政殿へ足を踏み入れた。大臣たちの顔は、おのおの異なる色の思惑に染まっていた。南人の大臣たちは勝利への期待で上気しており、生き残った西人勢力は黙々と頭を下げたまま、不安を隠していた。この全てが、やがて歴史となる一人の少年の名前を待っていた。
彼女の胸は張り裂けそうに膨らんだ。今日、この国の国母として自分の息子の運命が決定される歴史的な瞬間に立っていた。
定刻になると、宗廟社稷に告げる祭礼が終わり、礼曹判書の先唱に従って儀式が始まった。王世子を冊封する教命文が朗読された。朗読される教命文の文句一つ一つが空気の中を飛んできて、胸に突き刺さるようだった。
教命文には王子 尹の優れた品性と王の資質(王才)を称賛する文言が含まれており、これはまさに朝鮮の新しい国本が誕生することを満天下に知らせる宣言だった。
やがて、世子の服装を整えた幼い王子 尹が布に包まれ、仁政殿に入った。粛宗は誇らしさと感激が入り混じった表情で彼を見つめた。彼こそが自分の血を受け継ぎ、この国を導いていく未来だった。
都承旨は紅い箱に納められた世子之印と玉冊を用心深く取り出し、王子 尹に捧げた。玉冊は玉で作られた王世子冊封の文書で、朝鮮時代の王世子冊封の正式な手順だった。
王子 尹を抱いているキム尚宮が玉冊を受け取ると、宮中音楽が雄壮に鳴り響いた。それと同時に尹を見下ろした。布に包まれた貴い子供、そして彼が切望していた後継者。
粛宗の口元には満足そうな微笑みが浮かんだ。それと同時に、希載と手を握った南人の大臣たちの顔には歓喜の微笑みが広がった。彼らの勝利が公式に宣言される瞬間だった。
粛宗は彼女の手を握り、ひそかに囁いた。
「見たか。もう誰も、誰一人としてそなたと尹に手を出すことはできない。」
粛宗の言葉通りだった。世子の母となることは、いかなる政治的な逆風にも揺るがない、最も強力な盾を手に入れたことを意味した。彼女はもう単なる王の女ではなく、次の世代の王を産み育てた国母だった。
玉貞は自分の胸に手を置いた。心臓は相変わらず激しく鼓動していた。幸福、喜び、歓喜、そしてわずかな不安と恐れのような全ての感情が一つに固まっていった。
ゆっくりと、そして少しずつ、心の中でますます大きくなっていく粛宗への愛が静かに揺らめき、彼女の胸を満たしていった。この全てが無駄ではなかったことを証明するかのように、彼女の心臓は込み上げる愛で痛むほどだった。
彼女は今この瞬間、自分が進むべき道、そして共にいるべき人が誰なのかを悟った。これまでの苦痛と時間が全て忘れ去られ、今の彼女の目に映る世界はただ粛宗という一人の人だけだった。




