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小さな世界


気だるい月明かりが、編殿ピョンジョンの軒先に掛かっていた。夜は深く、微かな風さえも息を潜めたように静かだった。一人で執務を見ていたが、筆を置いて窓の外を眺めた。宮廷全体を覆う静寂は湿った墨のように重かったが、私の心はすでに中宮殿の障子越しを向いていた。もはや惹かれる心を抑えることができず、静かに居所を抜け出した。


中宮殿の内庭は静まり返っていた。昼間の騒がしさや活気は跡形もなく消え去り、灯火さえも微かな息を吐いているようだった。もしや足音でも立ててしまうかと、用心深くしなやかな柳の下を注意深く通り過ぎ、交泰殿キョテジョンへと入った。


「殿下!おいでになりま…」


「しっ。」


私を見つけ、彼女に告げようとしたキム尚宮サングンにそっと制した。少しウインクをすると、深く頭を下げ、静かに扉を開けてくれた。足音も聞こえないほど静かに部屋の中に入ってみると、彼女は窓際に背をもたせかけ、鼻歌を歌いながら筆を握り、何かを描いていた。


気持ちよさそうに眠っている王子を傍らに寝かせておき、熱心に何かをしているその姿さえも愛おしく感じられる自分が親ばかのように思えた。ひたすら紙に視線が釘付けになっている彼女を邪魔したくなくて、しばらく静かに立っていた。


そうしてしばらく立っていると、彼女の動きが止まり、彼女に近づこうとした瞬間に手から筆が置かれた。彼女は小さなため息をついてから、自分が描いた紙を集め始めた。彼女が描いた奇妙な絵を見た。花や鳥、山水画ではなく、単純で鮮明な白黒の模様だった。丸い円とまっすぐ伸びた直線、そして複雑な四角形が隙間なく紙を満たしていた。あの奇異な模様が何を意味するのか、まるでわからなかった。


彼女はそうして描いた紙を注意深く丸めて束ね、何かを一生懸命作った。糸に吊るされた白黒の断片だった。彼女はそれを、赤子ユンが寝ている王子の寝台の上に吊るしてやった。風のない部屋の中でも、紙片は微かに揺れた。白黒の断片が揺れると、赤子の小さな体がもぞもぞと動いた。まるで目を閉じていても、その奇妙な動きを感じているようで、その神秘的な光景から目を離せなかった。


彼女は赤子の顔に口づけをし、低い声で子守唄を歌ってやった。その節は宮廷のどんな子守唄とも違っていた。馴染みのないながらも、妙に温かいリズムだった。


「きらきら光る、お空の星よ。美しく輝く、西の空でも東の空でも……」


その聞き慣れない歌と、愛情に満ちた彼女の微笑みに、一瞬嫉妬を感じた。


彼女の血筋に対する愛は本能であるというのに、なぜこの小さな子にまで嫉妬をしているのか。


自分の情けない心を悟り、苦笑いを浮かべた。首を横に振り、静かに中へ入った。彼女はそこで初めて人の気配を感じ、はっと顔を上げた。


あまりに突然踏み込んできた殿下のせいで、心臓が狂ったように高鳴った。秘密のひとかけらを見破られたようで、動揺を隠すのに必死だった。彼の鋭い眼差しは、私に全てを見透かされているかのような圧迫感を与えた。


殿下は平穏で愛情のこもった顔で私を見つめた。しばらく私の頬に口づけをした彼が、微笑んだ。


「いつおいでになりましたか、殿下?」


戸惑ったような私の質問にも、彼はいつもの笑みで私を見つめた。


「そなたがもぞもぞしているのが可愛くて、声をかけることができなくてな。」


子どもを産んでも……殿下の致命的な口説き文句は変わらないのだ。


しばらく私を見つめていた彼が、再び口を開いた。


「ところで、あの奇妙なものは何だ。」


モビールのことを言っているようだった。朝鮮時代には子どものおもちゃがないようだった。キム尚宮が何かおかしな形の人形のようなものを持ってきたが、王子はまだ幼く、出産後の話を長々と語ってくれた友人の出産祝いを尋ねた記憶を辿った。


『生まれたての赤ちゃんは視力もまだ不完全で、色の区別ができないんです。だから、ただ白黒モビールを買ってあげてね、おばちゃん〜』


と、友人が赤子の声を真似た鳥肌の立つような記憶が蘇り、急いで作ってみたものだったが、殿下がこれについて尋ねてくるとは想像もできなかった。


少し躊躇した後、私は殿下を見てにっこりと微笑んだ。


「殿下、生まれたばかりの王子様はまだ世界の全ての色を見ることができないと申します。ですから、このように鮮明な白黒の模様を見ると、目がよりよく発達すると聞きました。」


彼は私の答えに首をかしげながら頷いた。何を考えているかはわからないが、とりあえず納得した雰囲気だった。


しばらくユンを見つめていた殿下が、また疑問顔で私を見つめた。


「その聞き慣れない曲はまた何だ?」


うーん……何と言えばいいだろう。


彼が信じられる話を作らなければならなかった。頭の中で数多くの単語がかすめていった。「幼い頃、母に聞かせてもらった子守唄」「外の世界の孤独な存在たち」……全ての感情を注ぎ込み、即興で物語を創り出した。


「幼い頃、母に聞かせてもらった子守唄でございます。外の世界で孤独な星となって輝く者に捧げる歌だと申しておりました。私と王子、そして……殿下にも、この世の全ての孤独な存在たちに平和が宿ることを願う気持ちで歌いました。」


自分の見事な機転に、我ながら感嘆した。殿下は私の話に心から感動したようだった。彼の目には、私への深い信頼と愛が満ちていた。


これほど完璧な幸福の瞬間にも、私の心の一角には、常に不安な気持ちが棘のように鋭く突き刺さっていた。彼を見て幸福な気持ちが大きくなればなるほど、不安感もまた一緒に大きくなる。私にとっては悪性の腫瘍のような運命だった。


いつ終わるかわからないこの幸福に対する不安が、これほど大きいとは知らなかった。


この朝鮮での生活は、殿下の全てが私にとって全てだった。しかし同時に、彼が知らない私の世界と歴史の流れが、いつか私たちの世界を崩壊させるかもしれないという事実が、私を不安にさせた。


この小さな世界がガラス玉のようで、いつ割れてもおかしくないという予感が胸を引っ掻いた。ただ、この瞬間が少しでも長く続くことを願うばかりだった。


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