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新しい始まりの約束



遅い時間。度重なるつわりのせいで、一日中何度嘔吐しただろう。食べ物の匂いを嗅ぐだけでも吐き気がして、とても何もできなかった。


部屋でほとんど倒れ伏していた私を、哀れむように見つめた殿下が、外の風でも当たろうと私を起こした。風に当たりながらゆっくり歩くと、むかついていた胃も少し落ち着くようだった。足取りごとに感じる春の気配が、肺腑の奥深くへと染み込むような、清々しい感覚に気分まで良くなった。


しばらく殿下の後を歩いていると、どこか見覚えのある道が見えてきた。


この道は……?


どう見ても中宮殿へと続く道だった。私がためらうのを感じたのだろう、殿下は私に倣って少し立ち止まった。そして、やがて日差しよりも眩しい微笑みを浮かべ、私の手をぎゅっと握って、ゆっくりとした足取りで私を導いた。


ギーッという音と共に戸が開き、灯り一つない暗闇の中の中宮殿がその姿を現した。


「殿下、この夜にどうして……こちらに……。」


殿下は黙って私の手を握り、慎重に中へと入った。青白い月明かりだけが唯一の光だった。月明かりは冷たい板敷きと壁面に白い霜のように降り積もり、がらんとした空間はすべての音を飲み込んだように静まり返っていた。その静寂の中で、私の心臓の鼓動がこれほど大きく聞こえるものだと悟った。


長い間、私の手を握ったまま黙って立っていた。何を考えているのだろうか。


そうしてしばらく何も言わなかった殿下が、そっと言った。


「覚えているか、オクジョンよ。


私がそなたのために就善堂チソンダンを建て直したと話したことを。」


私は言葉なく頷いた。あの夜、星明かりの下で美しく輝いていた池と殿閣が思い浮かんだ。その思い出に少し浸っていた刹那、低い殿下の声が続いた。


「そして、私がそなたに、就善堂ではない、本当の中宮殿を与えたかったと話したことも。」


彼の言葉が終わるやいなや、下を向いていた視線を


まっすぐに上げて彼を見つめた。彼の視線は深く、そして熱かった。


「ここが、私がそなたに与えたかった、本当の就善堂だ。」


何だか暖かい感覚が胸の底からジンと広がり、涙というやつがとうとう隙間をこじ開けて流れ落ちた。がらんとした空間に響き渡る彼の声は、冷たい空気を突き破り、私の心臓まで温かくした。


「殿下の思し召しを成し遂げられたのですか。」


彼は相変わらず暖かい微笑みを浮かべて言った。


「私の思いは、いつだってそなただった。」


ああ……


この人は本当に……


あの時も今も、変わらないのね……。


じわりじわりとあの日の記憶が蘇った。月明かりを受けて透明に輝いていた白玉の指輪。今、私の指に嵌められている殿下の贈り物だった。煌めく星明かりと透明に輝いていた池まで、あの日のこの人の表情までも、鮮やかにパノラマのように脳裏を駆け巡った。


「あの日以来、


毎晩そなたをいじめるのが楽しみで生きていたのに、


子どもができたのでそれができず、残念だ。


母をもう少し楽にしてあげればよいのに……無関心な奴め。」


残念そうに舌打ちする彼を見て、再び笑いが噴き出した。


前回も涙のタイミングで爆笑させてくれたけれど、あの時も今も本当に変わらない人……。


私の笑う姿をじっと見つめていた殿下が、私に近づいてきた。ゆっくりと私の手を持ち上げ、何かを乗せてくれた。月明かりを受けてキラキラと輝く、**二羽の鳳凰が向かい合っている王后の双鳳簪そうほうざん**だった。金色の鳳凰は、冷たい月明かりの中でも暖かい温もりを放っているようだった。


「殿下……これは……。」


冷たい簪の感触と、暖かい彼の手に挟まれ、私は自分の運命が完全に顎の先まで迫ってきたことを悟った。恐れと不安が襲いかかったが、彼の眼差しから感じられる深い愛に、何も言うことができなかった。


「最初から、私の中殿はそなた一人だけだった。


いかなる困難が降りかかろうとも、私はそなたと共にこの座を守るだろう。


だから、もう悩むのはやめて、**本当の私の『中殿』**になってくれないか。」


知っていたのね……


不安、恐れ、そして数限りなく押し寄せる考えに、


落ち着かなかった私の心まで、この人はすべて知っていたのね。


彼の心からの言葉に、私はもう涙をこらえることができなかった。ただ言葉なく頷くだけだった。私が受け入れることにした私の運命、いや、**チャン・オクジョンの運命。**子どもも殿下も守るという私の決心は、このすべての混乱と苦痛の中で、ようやく私が歩むべき道を明確に教えてくれた。


暖かく包み込む彼の口づけは、まるで散らばっていた世界のピースが元の場所に戻っていくような感覚だった。彼に対する確固たる信頼と愛が、この重い運命を耐え抜くことができる唯一の力になるだろうという、漠然としていながらも幸福な予感が胸の奥深くまで染み込んだ。


私は彼の胸の中で静かに目を閉じた。もう怖くはなかった。


そうして少しずつ、私たちは互いに染み込んでいった。

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