混乱、そして運命
いつもは温かいばかりだった就善堂に、ひやりとした冷気が漂っていた。廃庶人となった閔氏が出宮してから数日。朝廷は再び血の嵐に見舞われた。廃妃・閔氏に関わった人々、そして女官や尚宮たちに対する大々的な調査が始まり、その捜査を義禁府が担当した。
そして、彼らが血眼になって探していたソン医官は……ついに見つからなかったという。
古風な牡丹が刺繍された座布団に座り、落ち着いた眼差しで兄と向かい合った。兄の顔はいつものように自信に満ちていた。しかし、私の心は容易に落ち着かなかった。
「では、お兄様がソン医官をミン大監に渡すことにされたというのですか?」
低く抑えた私の声に、微かな震えが宿った。兄はただ薄い微笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「この兄を信じてください、ママ。
ママはただ、殿下の命の通りに動かれればよいのです。」
兄の言う通りだった。ただ殿下が導かれるままに歩いていくだけで良いこと。だが、以前見た夢と、妙に悲しい気配を帯びていた**『本当のチャン・オクジョン』**を見てから、不安と焦燥感が拭えなかった。再び始まった混乱。そして私が横たわっていたその姿を、悲しそうに見つめていたチャン・オクジョン。一体どんな繋がりがあるのか、知る由もなかった。
殿下の愛と子どもを守るために、このすべてを耐え忍んできた。しかし、いざその最後のピースがはまろうとすると、夢の中で見た**『本物のオクジョン』の悲しい眼差し**が再び思い浮かび、不安感が波のように押し寄せてきた。
「淑儀ママ、何かご不調でも……。」
心配そうな顔で私を見つめる兄。
ああ……
妊娠中だからだろうか。
それとも夢のせいだろうか。
あるいは歴史の通りに流れていくこの状況に囚われているのだろうか。
不安な気持ちを努めて振り払い、微笑みを浮かべた。話が盛り上がってきたその時、チョン女官が用心深く茶菓の膳を運んできた。こぢんまりとした茶菓の膳には、簡単な軽食と湯気の立つ菊花茶が置かれていた。
茶菓の膳に置かれた菊花茶の香りが鼻先をかすめると、突然、胃がひっくり返るように不快になった。**「おえっ」**と込み上げる吐き気に、手で口を覆った。
「ママ、大丈夫でいらっしゃいますか?」
チョン女官の心配そうな眼差しにも、胃はなかなか落ち着かなかった。私の顔色をうかがった兄は、チョン女官に静かに言った。
「胎内の坊ちゃま(あきし)のせいでつわりをされているようだ。早く膳を下げなさい。」
チョン女官は兄の言葉に急いで膳を持って下がった。
『本当に察しが良いのは世界チャンピオン級なんだから……。』
しばらく胃を落ち着かせた私は、辛うじて兄を見つめながら口を開いた。
「どんな手札も渡してはいけません。私はお兄様を信じています。」
兄は私の言葉に一瞬困ったような表情を浮かべたが、やがてにやりと笑った。
「御意承知いたしました、ママ。」
兄が帰った後も、なかなか治まらない胃の不快感を抱えていた。キム尚宮は心配そうな眼差しで私を見守り、ソ女官とチョン女官もまた、心配そうな顔で私を見つめていた。
「ママ、お体がずいぶん優れないようでございます。」
心配するキム尚宮の声に、努めて笑顔を見せた。しきりにむかつく胃が治まらないので横になっていたところ、少しは落ち着いたようだった。私を心配する彼女たちの目を見ていると、不安と悲しみに濡れた感情が私の心を取り巻いた。
思わず、心の奥深くにしまっておいた言葉を口にしてしまった。
「おそらく、今後あなたたちが私と一緒にいられなくなる状況が来るかもしれない。いつか私があなたたちを宮廷から出す日には、私の言葉に無条件に従わなければならないよ。」
私の理解できない言葉に、皆は首をかしげて互いの顔を見合わせた。中殿・閔氏が廃庶人となった状況は、私の立場からはそれほど悪いことではなかったが、いつか私にもそんな日が来るだろうと思うと、決して笑い事ではなかった。殿下が彼らを見ていた厳しい眼差しが、私に向けられるのではないかと恐ろしかった。
ソ女官は恐る恐る言った。
「殿下がママをこれほど寵愛しておられるのに、どうしてそんなことを仰るのですか、ママ。」
ソ女官の言葉に、苦い水が逆流するようで、喉の一角のどこかがひりひりと痛んだ。
キム尚宮は横になっている私をじっと見つめてから、口を開いた。
「お二人はすぐに水剌間(スラッカン/台所)へ行って、ママがお飲みになる**五味子茶**をいただいてきなさい。」
そうして女官たちが出て行き、
しばらく静かに私を見つめていたキム尚宮が静かに言った。
「ママがどのような部分を憂慮されているのか、臣にはすべて察することはできませんが、
きっと大事を前にして、心が乱れておられるのでしょう。
ですが、ママ……今日を生きなければ、明日も来ないのではないでしょうか。」
私を見つめるキム尚宮の目が温かく感じられた。彼女の言葉に、その暖かさが胸をひたひたと濡らしていくようだった。
「もう少し、殿下を信じてみてはいかがでしょうか。」
しばらくぼんやりと彼女を見つめていたが、はっと我に返った。
そうだ。
まだ何も起こっていない。
どうせ覚悟していたことではないか。
実家から宮廷に入った時も、淑儀に冊封された時も、すべて覚悟していたことなのに……これほどまでに弱り、崩れ落ちなければならない理由があるだろうか?
**「今日を生きなければ明日が来ない」**という言葉は、今の私の状況で一番最初に何を顧みるべきか、何を気にかけるべきかを、考えさせる言葉だった。
「以前から感じていたが、キム尚宮は本当に老練な人だね。」
するとキム尚宮は暖かい微笑みを浮かべて答えた。
「宮廷生活30年にもなると、お上ママ方の眼差しを見るだけでも、
その心がほんの少しは感じられるようになるようです。
ママがどこにいらっしゃろうと、何を考えていらっしゃろうと、私たちはママの手足です。
死ぬまで淑儀ママにお仕えいたします。
ですから、ただ坊ちゃまと殿下のために心を安らかになさり、
前を向いて進んでいかなくてはなりません。」
驚くべきことに、キム尚宮の言葉を聞いてから、心が穏やかになった。うるさく鳴り響いていた心の声も収まり、むかついていた胃も少しずつ良くなり始めた。
『終わりばかり見て生きていたので、見落としていたことがあったのだ。』
『今、私に一番大切なものが何なのか、忘れていた。』
ふと、独りこの困難をすべて背負っているであろう殿下の顔が思い浮かんだ。腹の中にいる子どもにも、私の不安な感情がすべて伝わるだろうに、このままではいけない気がした。
そうして葦のように揺れていた私の心は、ようやく確固たるものとなった。
「ありがとう、キム尚宮。」
私の言葉に、彼女はただ頭を下げて微笑むだけだった。