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朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第一章 ― 朝鮮に落ちた女子大生、ユン・イナ ―
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微熱と静寂の狭間で



王宮へ戻ってから、殿下は数日間、私の前に姿を見せなかった。


それでも分かっていた。


誰かが振り返る瞬間に交わる視線、

そっと開いて閉じる障子、

部屋の片隅に静かに置かれた桃色の韓紙の花。


殿下は、常に私のそばにいた。


曇り空の午後、

私は一人、池のほとりに立っていた。


風が衣をかすめ、

池の水面には小さな波紋が広がっていく。


指先でそっと水面に触れると、

澄んだ水が丸く揺れた。


息をひそめてその揺らぎを見つめていると、

頬が熱くなった。


あの日――

藁葺き屋、濡れた肩、そして彼の吐息。


頭の中を満たす記憶に、そっと首を振った。


「驚かせてくれるなぁ、我らのチャン尚宮様は。」


殿下との出来事を兄上に打ち明けたら、

返ってきたのはこんな反応だった。


茶目っ気たっぷりの顔で近づいてくる兄上を見て、

話すんじゃなかったと少し後悔した。


「…からかわないでください、兄上。」


「殿下もご存じないのだろうな、

最近のお前はからかい甲斐があるってことを。」


ヒジェ兄上は、心底楽しそうに笑った。


私はむすっとして顔をそむけた。


その瞬間――

背中に感じた冷たい気配。


振り返らなくても分かった。

彼が見ていた。


呼吸が喉に引っかかった。


(……もう、出てこられればよろしいのに。

いつまでこっそり覗いていらっしゃるつもりですか。)


――


その夜。

尚膳様の呼び出しを受けて、静かに部屋を出た。


人気のない廊下を進み、

曲がった渡り廊下を抜けて、

灯りのない暗い部屋の前で足を止めた。


「中へ入れ。」


囁くような声。

静かに開く扉に、そっと足を踏み入れる。


部屋の中――

彼は静かに座っていた。


私は慎重に歩み寄った。


彼は微動だにせず、私を見つめていた。


短い沈黙の後、彼が低く口を開いた。


「彼と一緒だったな。」


兄上のことを言っているのだろう。

私はそっと息を整えた。


「殿下、兄上にすぎませぬ。」


粛宗はかすかに笑みを浮かべた。


しかしその笑みの奥には、

隠しきれない渇望のようなものが滲んでいた。


「分かっている。」


短い返事。

その眼差しはやさしく揺れていた。


そして――

彼が静かに立ち上がった。


息が止まりそうになった。


私は本能的に一歩後ろへ下がった。


しかし、冷たい壁が背を押しとどめた。


彼の息遣いが近づいてきた。


やがて落ちる、低い囁き。


「他の男と笑っているそなたを見ると、

無意識に手に力が入ってしまう。」


喉がきゅっと締めつけられるようだった。

空気は薄く、心臓は狂ったように跳ねていた。


粛宗は静かに私を見下ろした。


抑えた感情が、その目の奥で沸き上がっていた。


さらに一歩、近づいてくる。


「そなたを信じている。だが…」


短く、強い言葉。

その視線が深く私へと落ちてくる。


「そなたが誰かと笑っている姿を想像するだけで、

とても耐えられぬ。」


息すら飲み込めないほどの距離。

彼が私の手首をそっと握った。


囁くような声が落ちるたび、

指先が微かに震えた。


彼はゆっくり目を閉じて、また開けた。

その整った顔の奥に、抑えた欲がちらりと見えた。


「そなたには、私の待つ気持ちが届かぬようだな。」


彼に掴まれた手首が、壁へと押しつけられる。


逃れられぬ距離。

息苦しいほどの緊張。

心臓がはち切れそうだった。


彼のまなざしが、ゆっくりと瞬いた。


そして――

唇がそっと落ちた。


慎重でやわらかく――

吐息と吐息が重なった。


この世のすべての音が遠ざかり、

ただ彼の呼吸と鼓動だけが鮮明に響いた。


彼はもう、隠さなかった。


抑えていたすべての渇望を

たった一度の口づけで吐き出した。


その中には、あふれ出す愛と恐れが濃く染み込んでいた。


彼は私の手をしっかりと握った。

指先から伝わる熱が、全身を包み込んだ。


粛宗は、静かに囁いた。


「私以外の誰にも――微笑むな。」


耳元に触れたその唇が、最後にこう付け加えた。


「これは、勅命だ。」


息が乱れた。

この人は――そのものが毒だった。


深く入りすぎれば、

戻る道は失われる。


頭は必死に警告していた。

だが、心は――

もうすでに、彼のものだった。


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