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崩壊の断崖絶壁



冷たい春風が徐々に温かさを帯び始める頃、


老いた古木こぼくの影が月明かりに長く伸び、その深い静寂の中で、ミン・ユジュンは一人書斎に座っていた。筆は握っていたものの、紙には何も書かれておらず、ただぽたぽたと垂れた墨汁だけが跡を残していた。彼の瞳は、薄暗い灯りの下で焦点なく揺れていた。


あの生意気な女め……


よくも私を脅迫しようなどと……。


混乱に包まれた彼の頭の中には、オクジョンの最後の言葉が繰り返し木霊こだました。


「今お引きになれば、滅門は避けられるのではないでしょうか。


わたくしはただ、大監に生き残るように申し上げているだけです。」


退くなど、とんでもない。


どうせ持ってもいない世継ぎ(ヨンジォン)をちらつかせ、私を脅迫しようとしているに違いない。絶対に黙って見過ごすものか。


よくも……よくもこのミン・ユジュンを……!


怒りに満ちた彼の両手がぶるぶると震えた。


そんなはずはないと考えながらも、妙な既視感を覚えた彼女の下腹部がしきりに思い浮かんだ。


その時、外から用心深い下人の声が聞こえた。


「大監様、あ……チャン・ヒジェ様がお目通りを願っております。」


ミン・ユジュンの硬直していた顔に、一瞬にして軽蔑と共に憤怒がよぎった。この遅い時間に、しかも面識すらないチャン・ヒジェが彼を訪ねてきたことに、彼は訝しんだ。


しばらく悩んだが、チャン・ヒジェが一体どんな手札を持っているのか知る必要があるという考えに至った。


「入れさせろ。」


固く閉ざされていた門が慎重に開かれ、一筋の冷たい風と共にチャン・ヒジェが敷居を跨いだ。噂で聞いていた通り、確かにチャン・オクジョンに似た、美しい顔立ちの男だった。


不快なほどに余裕があり、ぬけぬけとした笑みを顔に浮かべていた。高級な絹の道袍(トポ/朝鮮時代の外套)は揺るぎなく優雅で、眼差しは灯りの下でも終始傲慢な気配を失わなかった。まるで碁盤の上の手をすべて見通している人物のように、彼は余裕たっぷりにミン・ユジュンを見つめた。


何という無礼な奴か……


ミン・ユジュンの顔色には、不快な気配が歴然としていた。


「この遅い時間に、何の用だ。」


彼は努めて声に重みを込めた。彼の口角は軽蔑感と侮蔑感で歪んだ。自分の妹の背に乗って出世しようとする賤しい出自の者が、あろうことか自ら訪ねてきて、まるで世の中をすべて手に入れたかのような顔で傲慢さを露わにすることが不愉快だった。


チャン・ヒジェは浅く微笑みながら答えた。


「夜遅くまで眠れないのではないかと思いまして、先に参りました。大監。」


ヒジェの言葉にミン・ユジュンの眉がぴくりと動いた。あえて自分の心中を見透かしているかのような口調が、忌々(いまいま)しかった。


「無駄な話をするつもりなら、帰れ。」


ミン・ユジュンの叱責にもかかわらず、チャン・ヒジェのなめらかな表情は変わらなかった。彼は予想通りの反応だというように、軽く頷いて口を開いた。


「ソン医官をお探しですか。」


その言葉に、ミン・ユジュンの瞳が揺れた。手は思わず卓子を掴んだ。ヒジェは彼の反応を見逃さず、口角をさらに上げた。


「その医官風情ふぜいが何だというのでしょうか。


中殿様もミン大監も、血眼になって探しておられるとは。」


ヒジェの皮肉るような発言に、内心を見透かされた者のように、彼は咳払いをして顔を背けた。


「まさか……我が淑儀チュクイママの**『湯薬』**に何か問題でもあったのでしょうか?」


ミン・ユジュンの顔から血の気がすっと引いた。「湯薬」という単語は、ソン医官の存在よりもさらに致命的な鋭い刃だった。それは単なる逆謀ぎゃくぼうを超え、世継ぎを害しようとした罪。王室の根幹を揺るがす、滅門を越えた連座制の地獄を意味した。


「こ、この者め!よくもどこで勝手に口をきくか!」


彼は席から跳ね起き、ヒジェに詰め寄った。手が自然と震えた。あの汚れた口で、自分の醜悪な真実を口走るのを止めさせたかった。


彼の激しい反応にも、ヒジェは退かなかった。むしろ一歩さらに近づき、ミン・ユジュンの耳元に囁いた。彼の声は依然として余裕があったが、その中には比類ない冷酷さが宿っていた。


「主上はまだその事実をご存知ありません。大監が私の妹の『湯薬』に手を出したということを。もしこの事実が知られれば、大監の家門は滅門を越え、地獄を見ることになるでしょう。中宮殿はもはや大監の防波堤にはなり得ません。いいえ、むしろ大監のより大きな罪状が増えるだけでしょう。」


ヒジェの言葉を聞いた彼の体は、こわばって硬直していった。血の匂いが立ち込めるようだった。


粛宗がまだその事実を知らないという言葉に、かろうじて残っていた一筋の希望さえ粉々に砕け散った。もし淑儀の懐妊が事実ならば、王がこの事実を知る日、彼らはまさに骨の欠片も残さず消え去るだろう。


チャン・ヒジェはミン・ユジュンの揺れる眼差しを読み取った。赤く腫れ上がったミン・ユジュンの目元は、これ以上確かめる必要もないほど真実を物語っていた。


その姿に、ヒジェは軽い微笑みを浮かべた。


実に卑劣な嘲笑を。


「大監が懸念されていることは承知しております。


お望みでしたら、私がソン医官を処理して差し上げましょう。」


チャン・ヒジェの意外な言葉に、ミン・ユジュンは一歩退いて彼を見つめた。相変わらず漂う不快な微笑みに、胸がねじ曲がるように感じられた。


「望みは何だ。」


ミン・ユジュンの言葉に、ヒジェはそれを待っていたかのように眉を動かした。


あれほど私腹を肥やした老いぼれでも、やはり命は大事だというわけか。


しばらく無言で嘲笑を浮かべていたヒジェは、口を開いた。


「大監はただ……静かにお引きなさい。


中宮殿にいるご令嬢と共に、です。」


彼の低い言葉に、赤く火照ったミン・ユジュンの目が鋭く光った。侮蔑感と憤怒、屈辱がごちゃ混ぜになった感情で、頭までくらくらした。


「わたくしはただ、大監に**『生き残るように』**申し上げているだけです。」


ヒジェは「生き残るように」という言葉を長く伸ばして詠唱した。ミン・ユジュンの眼差しは、底知れない深淵へと沈み込み、ヒジェの眼差しは、ひとかけらの憐憫もなく冷たく輝いた。


もはや手の施しようのない権力の流れの中で、ミン・ユジュンは自分が完璧に孤立したことを悟った。中殿を守ることも、自分を守ることもできなかった。


すべてが、終わりだった。


「大監の賢明なご処置を期待しております。」


チャン・ヒジェはこれ以上ためらわなかった。彼はゆっくりと体を回し、書斎の戸口を出た。背後から聞こえるミン・ユジュンの微かな呻き声を無視し、軽やかでさわやかな足取りで。


闇が再び部屋の中を飲み込んだ。ミン・ユジュンは乱れたまげを掴み、両手で頭を抱え込んだ。


堅固だった権力が一夜にして崩れ去るとは……。


今残されたのは、ただ敗北と絶望だけだった。断崖絶壁に立つ自分の家門と、すでに破滅が確定した中殿の運命。冷たい夜の空気の中で、彼の唇は血を吐くようにかろうじて息を吐き出した。


「終わった……か……。」


彼の恨み深い溜息は、闇の中の風に乗って静かに散っていった。



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