外伝) 闇の中の猟犬
宮廷の飯を食うこと、およそ30年。
初めて入宮した時の感覚が今も鮮明なのに、もう古株となり、腐りかけたベテラン尚宮になってしまった。
数多くの側室が権力争いに巻き込まれ消えていくのを見てきたし、主上が没落すれば下々の者たちも共に命を失うという宮廷の残酷さを、数えきれないほど経験した。
そのような経験を経てから、誰かが側室に上り詰めるという話を聞くと、どうにかして主上の目に入らないようにと、必死にもがいた。
そんな私の反応に、同期の尚宮たちはいつも口を揃えて言った。
「キム尚宮は本当におかしいよ。主上から寵愛を受ければ、
下の者たちも威張って暮らせるのに、それをなぜ避けたがるんだい?」
お前が私のそばにいてくれて、本当に良かったよ。
……あのようなことを口走る人間を一番近くに置く。
私の良い防波堤になっておくれよ……。
そうして、それなりに要職に留まりながら宮廷にへばりついていた私は、望まぬことに巻き込まれてしまった。
特別尚宮に封じられたチャン・オクジョンの居室に配属されてしまったのだ。
女官時代から、とてつもない殿下の寵愛を受けているという事実は、すでに宮廷内で知る人ぞ知る話だったので、実際に彼女の居室に配属されることを望む尚宮も多かった。
しかし、なぜわざわざ……私を……?
私はただ、残りの人生を何の役にも立たない存在のように静かに生きていきたいだけなのに。
「羨ましいね、キム尚宮。あの有名なチャン尚宮の居室に配属されるなんて。」
「しかも殿下が直々に任命されたそうじゃないか。」
頼むから……羨ましいなら、代わりに私を行かせてくれ……。
どこへ行っても愚痴をこぼす場所はない。殿下が「特別に」チャン尚宮の居室に私を「直接」任命されたのだから、訴える場所も、問い詰める場所もなかった。ただ、羨ましがる尚宮たちの間で腐ったような微笑みを浮かべ、その時間を耐え忍ぶだけ。
はぁ……本当に、すべてがこじれてしまった……。
内命婦におけるチャン尚宮の威勢は、実に凄まじかった。
大妃様さえ舌を巻くほどの人物だという話、
殿下を惑わす手腕が尋常ではないという話、
あらゆる悪評が飛び交い、とてつもない噂が宮廷内に広まっていた。
私の寿命が縮んでいくのが見えるな……。
そうして建物が決められた初日、勤務地として配属された膺香閣へと向かった。
行きながらも何度逃げ出したかったことか……。
「キム尚宮様、いらっしゃいましたか。」
膺香閣に入ると、配属された女官たちが、奥ゆかしい姿勢と上気した顔で頭を下げていた。
つまり……この子たちの中で、あの二人が
チャン尚宮様が直々に連れてきた女官だというわけか……。
わずかな期間ながら接してみた二人の女官は、極端な違いを見せていた。ソ女官は頭の中がお花畑というか、感受性豊かで何でも良く考えるポジティブな子だった。チョン女官は鋭く賢かったが、あまりにも無駄に鋭すぎるせいで、苦労の多い人生を送る運命に見えた。
そうして一人、また一人、配置につき、膺香閣の奥へ挨拶に上がることになった。
恐る恐る入った部屋の中には、
瞳が澄んだ湖のようにきらめく、一頭の**花鹿**がいた。
想像していたのとはあまりにも違う姿に戸惑った挙句、慌てて深く頭を下げた。
「殿下が直々に送られたと聞きました。どうぞよろしくお願いします、キム尚宮。」
華やかな衣装をまとい、高慢に振る舞う妖婦の姿を想像して入ったのだが、
想像していたのとは異なり、とても素朴で穏やかな微笑みで
私を迎える姿を見て、
これまでに聞いてきた噂が何か間違っているのではないかという考えが強く押し寄せてきた。
「恐悦至極に存じます、ママ。」
宮廷では珍しい、純粋さが残っているような微笑みだった。彼女は、これまでに見てきた側室や承恩尚宮(スンウンサングン/王の寵愛を受けた女官)たちとは違っていた。
居室の女官たちを大切に扱っているのが感じられるほど、心からの誠意が尽くされていた。自身に対するどんな噂や声にも全く気にせず、ただ静かに笑い飛ばし、私たちの安寧を心配するだけだった。
不安な日々が続き、
訳の分からない言葉や独特な行動に冷や汗をかくことが日常茶飯事だった。
チョン女官とソ女官は慣れているようだったが、私は文字通り精神が崩壊する一歩手前まで追い込まれた。
何度も彼女のそばを離れようと心に決めたにもかかわらず、
彼女の深い眼差しと、私を心から接する態度を前にして、
私の心は落ち着かず揺れ動いた。
そうして混乱の日々を過ごしていた頃、殿下の命令を受けて便殿に立ち寄ったことがあった。その時、殿下に尋ねてみた。
분명膺香閣に行きたがっている尚宮が多くいたにもかかわらず、
なぜ私を膺香閣に送られたのか。
殿下は薄い微笑みを浮かべた顔で私に言った。
「朕は長きにわたり、そなたを見てきた。
つらい仕事も、難しい仕事も、不合理だと考えることも、
ひとまずやってみてから、そなたの意見を話し、それを貫き通すのを見て、
オクジョンを任せるにはそなたが適任だという信頼が生まれたのだ。
そして、もう一つ……そなたの真価を見抜ける人間が、
オクジョンしかいないと思ったのだ。違うか?」
主上殿下のその言葉は、黙々と私の仕事をしてきたこれまでの歳月に対する、
報酬に他ならなかった。
そして、殿下の眼力は誰よりも卓越していた。
彼女は人を見抜き、自分の人となれば最後まで守り抜こうとし、
違いを認められる……小さくも強く、賢明な女性だった。
そうして彼女に仕えることを決心した後、私の日常は完全に変わった。
彼女は私にとって単なる主上ではなく、
何か一つでも多く教えてあげたい妹のようであり、
大切に守ってあげたい娘のようだった。
絶対に心を許さないでおこうとした存在から、愛情を感じてしまったのだ。
そうして、その二人の愛を応援しながら、見守り続けている。
私を正しく見抜いてくださった主君と、私を認めてくれたママであるからこそ、
一日一日、気が気ではない日々の中で、
ママを守るために未だに孤軍奮闘している自分自身を見ると、
時々私まで笑いがこみ上げる。
とんでもないところで時々爆発するけれど……
それなりに可愛いところもあるしな。
相変わらず今日も仲睦まじい二人の姿を見ながら、
これから訪れる新しい未来を夢見ている。
ああ……そして心配もある。
あの二人の予測不能な性格をそのまま受け継ぐであろうお世継ぎ様は……
果たしてどれほど私の手を焼かせるのだろうか。
「ママ様!!聞いてください、チョン女官が私を見て『頭がお花畑』だと言うんですよ!!」
「ナリ(チョン女官)、あなたは本当に深刻よ。その程度なら内医院を訪ねてみるべきじゃない?」
ああ……この子たちもいたんだ、そういえば……。