崩れゆく塔
深夜、
闇が深く覆いかぶさる私邸。
揺れる灯火の光に、心がざわついた。
部下からソン医官が消えたという報告を受け、背筋が寒くなるのを感じた。
部下の声は微かに震えていた。
「医女たちの話では、チャン・ヒジェ様がソン医官をお探しだったそうでございます、大監。」
チャン……チャン・ヒジェだと!
その名を聞いた瞬間、心臓が足元まで落ちるような気分だった。
まさか、こんなに簡単に事態がこじれるとは。
「今すぐ探し出せ!宮廷内外をひっくり返してでもだ!
どんな手を使っても探し出すのだ!」
激昂した声が私邸全体を揺るがした。
必死に落ち着きを保とうとしたが、すでに不安な心は冷たい水のように全身を侵食していた。
ソン医官に指示して、淑儀の湯薬に手を出した事実を知られたら…。
あの野郎の口が開けば、すべてが終わってしまう。
これ以上、ためらうことはできなかった。
頭をよぎる最悪のシナリオが現実になる前に、中殿様にこの事実を知らせなければならなかった。
急ぎ足で中宮殿へ向かった。真夜中の宮廷は深い沈黙に包まれていたが、私の耳にはまるで天地が崩れ落ちるような轟音が聞こえるようだった。
中宮殿は、私の突然の訪問に大混乱に陥った。尚宮と女官たちが混乱の中で私を迎えたが、彼らの戸惑った顔さえ目に入らなかった。
交泰殿に入ると、青白い顔のママが静かに私を迎えた。彼女の眼差しは不安に揺れていた。
「大監、この夜更けに、いったいどうなさいましたか?」
息を整える間もなく、言葉を吐き出した。
「ママ、ソン医官が…消えました!
どこにも痕跡が見つかりません!」
彼女の体が微かに震えるのが見えた。
「消えた、と…どういうことです?
ソン医官が…消えたのですか?」
「たとえわたくしが間違っていたとしても、中宮の座を必ずお守りください。
そうしてこそ、わが家門を救えるのです、中殿様。」
私の言葉に、中殿の顔は一瞬で土気色に変わった。
「お…叔父上…。」
彼女の声が絶望的に変わった。
何かおかしい。不吉な予感に、ママを見つめた。
彼女の指先が、鬼灯の葉のように震えていた。これほど動揺しているのを見ると、彼女もソン医官と関係しているのは明らかだった。
「ママ、ソン医官と何かありましたか?
もしかして、宮廷内に淑儀の不妊説を広めたのは、ママのご指示だったのですか?」
私の問いに、中殿の瞳が揺れた。いや、それよりも大きな不安感が彼女を襲っているようだった。
中殿は必死に落ち着こうとしたが、彼女の眼差しはすでにパニックに陥っていた。
ついに彼女の口から、すべてが吐き出された。
「は…はい、府院君大監。わたくしが…ソン医官にそう命じました。
しかし…しかしそれは…わたくしが…わたくしが懐妊が…難しくて…
王室の後継ぎを継ぐことができないと…その話を聞いて…動揺して…。」
中殿の声はすすり泣きに混じって、もはやまともに聞こえなかった。
懐妊が難しいという、中殿自身の口から出た言葉。
その言葉に、脳内のすべての血が凍りつくような衝撃が全身を襲った。
ありえない!西人一族の軸となる確固たる支持を受けていた中殿が、
王室の正統を継ぐ唯一の希望であった中殿が…
懐妊が難しいだと?!
その瞬間、全身の血が逆流するようだった。私の心臓が引き裂かれるような痛みと共に、世界が丸ごと崩れ落ちるような絶望感が押し寄せた。
ソン医官がチャン・ヒジェに連れて行かれたことは、さらに明白になっていった。私がオクジョンの湯薬に懐妊を妨げる薬草を混ぜるよう指示した事実まで、すでにすべて把握しているかもしれない。
「ありえない…ありえない…!」
魂が抜けたように呟いた。
かろうじて掴んでいた理性の糸が、ブツリと切れる音が聞こえるようだった。
中殿は私の隣でむせび泣いていたが、彼女の声はもはや聞こえなかった。
目の前が真っ暗だった。
盾となるべき中殿の不妊という致命的な弱点は、西人勢力の滅亡と追放を意味していた。
私はその場にへたり込んだ。
王室の法度と名分、
西人の確固たる支持を叫びながら積み上げてきた私のすべての塔が、
今この瞬間、粉々に砕け散り、崩れ落ちていた。
もうこれ以上、防御する方法はなかった。
チャン・ヒジェ、あの野郎が、私の喉元に刃を突きつけていた。