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朝鮮に落ちた女子大生、致命的な王に囚われる  作者: エモい姉さん
第二章 破局の始まり、そして深まる心
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風が運んだ噂



就善堂を出た医員の足取りは、慎重だった。


彼の顔には、喜びの色と同時に重苦しい沈黙が漂っていた。キム尚宮は彼を見送って固く口止めをさせたが、すでに彼の頭の中には、たった今診察した活脈ファルメクの記憶が鮮明だった。


宮廷内の全ての医員が渇望する、まさにその胎気テギだった。


彼はただ頷きながら、落ち着いて足を進めた。


彼の影が内医院ネイウォンの中に消えた直後、宮廷内には微妙な動きが感知され始めた。


冷たい正月の風が、宮廷内を吹き荒れた。風は庭の枯れ木を揺らし、塀を越えて女官たちの居所に染み込んでいった。


風の囁きのように、


「就善堂のチャン淑儀に医者が入ったらしいぞ。」


「どうりで顔色が悪かったわけだ。」


「もしかして……病気になったのではないか?」


という囁きが、女官たちの口から口へと移り始めた。


噂の始まりは些細なものだった。しかし、風が野火を煽るように、囁きは次第に確信へと変わっていった。


「チャン淑儀は体調が悪いらしい。」


「ずいぶん前から気力が衰えているのが感じられた。」


という言葉が次から次へと続いた。


特に、中宮殿の命を受けたソン医師は、通りすがりの医女たちに何気ないふりをしてぽつりと口にした。


「淑儀様の気力がひどく弱く、懐妊は容易ではないゆえ、薬を使う際には注意するように。」


と。まるで単純な意見であるかのように、だがその中には毒をはらんだ種が隠されていた。


風はそうして宮廷内を席巻した。女官たちの低いささやきに乗り、宦官たちのいぶかしげな眼差しに乗り、内医院の医官たちの密かな会話に乗り……。


噂は巨大な水の流れのように膨れ上がり、ついに宮廷の外へまでも流れ出した。


その水の流れは、やがて西人勢力の首長であるミン・ユジュンの耳にまで届いた。


ミン・ユジュンの目が閃いた。正月いっぱい、後継ぎを願う嘆願書で主上チュサンを圧迫してきたが、これといった進展がなく焦っていた矢先だった。彼の口元に微かな笑みが浮かんだ。


チャン淑儀が懐妊しにくいだと……。我らが家門は天が味方してくださったのだな。


長年待ち望んでいた絶好のチャンスが、ついに向こうから転がり込んできた瞬間だった。ミン・ユジュンは不意に押し寄せる快感に震えた。


今こそ主上を圧迫し、中殿チュンジョンの地位をさらに確固たるものにし、宮廷の規律を正すことができるという確信が湧いた。彼の眼差しは、燃え盛る野心に満ちていた。


夜が深まった就善堂は、静かだった。


医員の診察後、キム尚宮は固い顔で私に重ねて念を押した。


「マダム、まだこの事実は、誰にも話してはなりません。特に殿下には、なおさらでございます。」


私の肩を抱きしめたキム尚宮の手が、微かに震えていた。彼女の顔には、喜びよりも大きな不安が宿っていた。


なぜ?なぜ殿下にも話してはいけないっていうの?


心の中で問い返した。しかし、キム尚宮の眼差しはあまりにも切実で、確固たるものだった。


「二週間後、再び診察を受けて確かになったら、その時に……お話しくださいませ。」


彼女の声には、まるで悲劇を予感させるような悲壮ささえ漂っていた。


私は戸惑いながらも頷いた。喜びよりも混乱の方が大きかった。


この見慣れない感情の正体が何なのか、どう受け止めるべきなのか分からなかった。何も感じない私の腹の中に、本当に新しい命が育っているかもしれないという事実が信じられなかった。怖くて、途方に暮れ、同時に何か得体の知れない責任感のようなものが肩にのしかかった。


宮廷内の殺伐とした雰囲気の中で、この子を無事に宿せるだろうかという不安感が波のように押し寄せてきた。


その時だった。


就善堂の扉が静かに開き、見慣れたシルエットが入ってきた。


殿下だった。


もう、この男ったら!


昨日あんなに一晩中こき使っておいて、まだ体力が残っているの?


彼の顔には、私に対する切ない思いとときめきが満ちていた。ためらうことなく私に近づき、私を腕の中に抱きしめた。彼の硬い腕が私を包むと、何とも言えない安堵感がこみ上げてきた。


「眠っていると思った。一日中、そなたのことばかり考えていた。オクチョン。」


彼の声は低く、甘かった。彼は私の顎をそっと持ち上げ、深く口づけてきた。昨夜の情熱的な口づけとは違う、この上なく優しく、切ないキスだった。


彼の唇が私の唇を探り、染み込んでくるとき、何とも言えない恐怖が心臓をかすめた。


今……この事実を話すべきだろうか……。


私の知る限り……妊娠初期は気をつけなければならないと聞いているけど……。


次第に激しく絡み合う吐息に、私は彼の肩をそっと押し返した。彼の目が少し見開かれ、眼差しに戸惑いと同時に当惑が宿った。


分かっていた。この男は今日も引き下がらないだろう。


相変わらず私を求め、そして結局は眠らせてくれないだろうな……。


もしかしたら今が一番正直に話せる瞬間であり、もしかしたらいるかもしれない胎児のために話すべきかもしれないという考えがよぎった。


もちろん、キム尚宮の顔色をうかがう必要があるが、


今重要なのは、いるかいないかわからない胎児の安否なんだから……。


彼の手が私の頬を優しく撫でた。私はその手を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。彼が何もできないように、その手をしっかりと握った。


いつもと違う私の行動に、彼の眼差しが揺れた。


握っている彼の手を優しく撫でながら、慎重に口を開いた。


「殿下……わたくしに……大切な人ができました。」


私のその一言に、熱く燃え上がっていた彼の瞳が冷ややかに凍りついた。


あ……誤解したな。


すごく紛らわしく言ったかな。


案の定、握り合った手に力がこもった。彼の眼差しからは、殺気さえ感じられるほどだった。


いや……そうじゃなくて……。


これって……嫉妬?


「私よりも大切な人がいるというのか?そいつはどこにいるのだ。」


震える殿下の声に、このままではいけないと思い、すぐに殿下の手を握って、そっと下腹部に持って行った。彼の瞳が、私の腹に触れた手を追って動いた。


「ここに……います。」


声が細かく震えた。


ごめんね、キム尚宮……。でもこうするしかなかったの……。


殿下にはブレーキがないんだから……。


どんな反応を期待していたわけではなかったが、殿下の目がこれほど大きく見開かれたのは初めて見た。彼の顔に、一瞬で数多くの感情がよぎった。驚き、戸惑い、そしてやがて……信じられないというような震えと共に、熱いときめきが湧き上がった。


しばらく呆然と私を見つめていた彼の視線が戻り、突然私の手を強く握った。彼の眼差しは、深い感激に満ちていた。


「医員の話では、まだ二週間ほど待ってからでないと確実ではないとのことですが……もしかして懐妊していたら……今日は殿下にお仕えすることができないかと存じまして……。」


そうだ……こんなに追い詰められたら、どうして話さないでいられる?


妊娠は初期が一番危険なのに……。


ごめんね、キム尚宮……。


感激に満ちた眼差しが瞳いっぱいに広がった。


彼はやがて震える手で私のお腹を包んだ。温かい温もりが彼の手を伝って広がり、再び体がだるくなった。


何も言わずに感激した様子でお腹を撫でていた彼が、


ワッと私を抱きしめた。彼の肩が微かに震えていた。


もしかしたら、この瞬間は私よりも殿下の方がもっと待ち望んでいたのかもしれない、という気がした。


「オクジョン、心から……心から愛している。」


「まだ確実じゃないんですってば……。」


何かを口にする前に、私をぎゅっと抱きしめた彼の体が小さく揺れた。


大妃様が亡くなった時に感じたあの震え。


泣いているんだ……。


私はすぐに体を起こし、彼をぎゅっと抱きしめた。


他の人は一度も見たことがないであろう、彼の泣いている姿。


胸に抱かれて顔をうずめた彼の姿が、どれほど愛おしいことか。


そうして二人、何も言わずにしばらく抱き合ったまま、


心を通わせ、温もりを分かち合い、


触れ合う心をなぐさめ合っていた。


あ……キム尚宮に怒られるな……。

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