第二章 三十話 『南風と火槌、再び重なる刻』
――タケ、十三歳
クガネの町を離れ、再び山路を進む旅路。
だがその背後から、軽やかな足音が追いついてきた。
「まーた勝手に進んでしもて……うち、ちゃんと後ついてってるからなぁ〜!」
振り返らずとも分かる声。
カエデだ。だがその隣には、思いも寄らぬ影が一つ――
「……ふむ、やはり足腰は、鍛冶より剣の方が合理的かもな」
大槌を背負ったまま、険しい山道を悠然と登る巨体。黒鋼創冶であった。
「何故、ついてくる」
タケは立ち止まり、問うた。
黒鋼はその問いに答えるより先に、大槌を地に突き立て、静かに座った。
「剣も、槌も、独りで鍛えても光らねえ。打ち合う相手がいてこそだろ」
タケの目が細められ、そしてカエデがにやりと笑った。
「つまり、黒鋼くんも旅仲間入りってことやな〜?」
「誤解するな。あくまで俺は、あの木刀の“完成”を見てぇだけだ。
あの軽さの中に宿る重みが……俺の鉄と、きっと共鳴する」
その瞬間、風が吹いた。
山の匂いが混じった南風。
まるで、この三人の旅を祝福するかのように。
「ふふ……ええやん。これで打つ手も、食べる手も、揃ったなぁ」
「我ら三人……風、地、そして我の無。五行のうち二が揃うならば……」
タケはそう呟き、空を仰いだ。まだ遥か先にある、己の道――「五行庵」。
それはまだ名前すらない、未来の理想郷の原型。
「いずれ“庵”を打つぞ。我が心と剣、そして、仲間の想いを刻む場所を」
カエデが笑い、黒鋼が静かにうなずいた。
風が通り過ぎ、木々が揺れる。
旅は、続く。
だがもう、独りではない。
剣を求める者。
風に乗る者。
火と鉄に己を打ち込む者。
三つの魂が交差するこの旅は、ただの冒険ではなく、魂の修行であり――
やがて来る戦いと創造の「礎」となる。
次回――
第二章・第三十一話『火群の野営と、眠れぬ三人』
焚火を囲む夜、語られる夢と過去、交錯する覚悟の音──。