第三話〜後編〜『封じられし神獣の咆哮』
迷宮の最奥――
禍々しい雷光と、暴風が渦を巻く中心に、それは“鎮座”していた。
封雷神の眷属、雷獣。
長い尾が風を操り、口からは高熱の雷電を吐く。
その姿は虎にも似ており、額には雷紋、背に無数の風刃を纏っていた。
「来たな……。あれが封じられていた神獣か」
創冶が唸る。
「っは、こいつぁ面白ぇ!燃えるじゃねぇかよ!」
烈火が拳を構え、前に出る。
「待て、動くな」
空雷の声が響く。
戦術盤が再構築され、魔術的な陣形が空間上に展開される。
「この迷宮全体が奴の“縄張り”だ。無闇に攻撃すれば、全方位反撃が来る。
カエデ、左から回り込み風の流れを断て。
ナギサ、雷の流れを水で遮断。
烈火、創冶――その間に火と地の圧力で右から崩す。
剣豪どのは……」
「うむ、我が進むは――」
ふ、と武蔵が笑みすら浮かべる。
「正面なり」
「いや、待て!さすがに正面突破は――」
だが、もう武蔵は動いていた。
「まったく……君って人は……!」
カエデが舌打ちしながらも、全力で動く。
風刃を抜け、空雷の陣形が展開される。
各自の魔法と武技が、迷宮にきらめく光の舞を描く。
烈火が雷と火をぶつけ、創冶が壁を作り変える。
ナギサの水が天井から落ちる雷を導き、雷獣の咆哮を打ち消す――
そして。
真っ直ぐ、雷獣の懐に踏み込むひとつの静寂。
「……眼を逸らすなよ。これぞ“剣の間”――」
武蔵の木刀が、ゆっくりと構えられた。
音が、消える。
雷も風も、獣の動きすら、一瞬だけ――止まった。
「“先の先”……心得た」
風が、裂ける。
木刀が、雷獣の額に届いた瞬間。
雷の象徴であったその獣は、音もなく崩れた。
封雷神の咆哮は、剣の静寂に吸い込まれ――静かに鎮まった。
◇ ◇ ◇
「……いやいやいやいやいやいや!!!」
カエデがバクハツ。
「なんなん!? なんで最後だけ全部持ってくん!?」
「お見事……武蔵さま」
ナギサは恍惚の表情で手を組み、頬を赤らめる。
「記録完了……“異界剣豪、神性雷獣を一撃で鎮める”。これは学会に出せる……」
空雷がごく小さな声で呟いていた。
「ちっ……こちとら汗だくで頑張ったっつのに」
烈火が唸るも、どこか楽しげだ。
「……ふっ。武蔵どのはこうでなくてはな」
創冶が、鉄の槌を肩に担ぎながら笑う。
武蔵は、雷獣の崩れた奥にある鏡へ歩み寄る。
静かに、それを見上げ――
「うむ。これが“水銀花紋の鏡”か。まこと、見目良し。所望してよかった」
その瞬間。
全員:「やっぱり“所望”かーーーーー!!」
◆ ◆ ◆
その夜、五行庵にて――
武蔵が手に入れた鏡の枠に、自ら漆を塗り、銀をあしらい始める。
そして、何やら次なる“所望”を思いついたように、微笑を浮かべるのだった。
――
第四話へ続くーー