第十二話〜後編〜『武蔵と最高の仲間たち』
竹林を揺らす風が、まるで今までの旅路を語るかのように優しく吹いた。
封雷神との死闘を制した六人。
だが、勝利の余韻は重く、しんと静まり返る神域にただ一つ、雷鳴にも似た“心の音”が響いていた。
空雷は最後の陣形を解き、膝をついた。「……解析不能……だが、これが“情”か」
彼の演算には存在しない感情が、確かに胸を揺らしていた。
かつてはただ“勝つ”ことに全てを懸けていた少年が、今、仲間の安否に真っ先に駆ける。
黒鋼は破損した大槌を見つめた。
「壊れちまったか……」
だがその手は、寂しくなかった。
すぐにカエデが肩を叩く。
「直したるわ。ウチの特製タレ塗っとけば大体なんとかなるで」
「それ、料理だろ」
烈火が苦笑しながらも、盾を背負い直す。
ギミックの仕込みは無事だ。仲間を守り抜いた証が、ここにある。
そして、水姫ナギサ。
彼女はそっと武蔵に歩み寄り、裾を掴む。
「武蔵さま……ご無事で……本当に……」
柔らかな微笑みに、誇りと安堵が宿る。
「……貴方が立ち続けてくださる限り、わたくしは――この命を懸けますわ」
カエデが、思わず涙を袖で拭いながら叫ぶ。
「なによ、もう! ほんまにあんたら見てたら泣けてまうやん……ズルいわ、ホンマ」
武蔵はただ静かに、腰に木刀を戻す。
かつてのように“鞘”は無い。ただ己の体温で、剣を鎮めるだけだ。
風が止み、空が晴れた。その光の中で、彼は一歩、前へ出る。
「……我、道の先に友ありて……この命、悔いなし」
その言葉は、雷より速く、炎より熱く、氷より澄んで――
仲間たちの心に、刻まれた。
「はいはいっ、出ました名言タイムぅ〜!」
カエデが両手を挙げて突っ込み、烈火と黒鋼が笑い、空雷は無言でそのセリフをメモし、ナギサは微笑む。
誰かが言った。
「こんな仲間たちがいれば、どんな敵が来ても怖くない」
その通りだった。なぜなら、彼らこそが――
**“最高の仲間たち”**だったから。
そして、物語は静かに幕を下ろす……かに見えたその時。
夕焼けの中、武蔵がふと空を見上げ、ぽつりと呟く。
「……あの勾玉、未だ謎のままか……」
空雷が鋭く反応する。
「解析続行中だ。だが、反応波形は……異質だ。これは……時間を……」
「歪めている……?」
ナギサが声を呑む。
世界の奥に、まだ触れてはならぬ何かがある。
だがそれを解き明かすには――もう一度、“始まり”に戻らねばならない。
静かに、物語は時間を遡る。
第二章――『剣聖転生譚・五輪の始まり』
武蔵、赤子として転生せし時より。
かつて完成しなかった五輪書。
命を終えたその先で、己の剣を、魂を、再び練り上げる旅が始まる。
――それは、彼が“剣豪”となる前の物語。
まだ何者でもなかった少年が、“我”を得るまでの道。
幼き日の笑い、涙、出会い、そして喪失。
ヒナガ国・ヤクモ村で始まる、新たなる“剣”の物語。
To be continued…