〜プロローグ〜『その剣、世界を斬る』
雷鳴が鳴り響く空。
地を穿つほどの震動。
森が燃える。大地が砕ける。風が泣き、水が悲鳴を上げる。
そこは世界樹の根元に広がる禁域《楓厳の樹海》最深部。
今まさに、神話級魔獣《赫炎顎獣グルマノス》が咆哮を上げていた。
超階層魔術構造によって生まれたこの存在は、口から煉獄を吐き、八本の刃腕であらゆるものを断つ。
だがその暴威を前に、六つの影が立ちはだかる――!
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「風刃、散らせば、踊る花となる!!」
風飛カエデ、開幕から最大加速!
木々の上を舞うように駆け、空を裂く双剣が嵐を生む!
「疾風連舞・乱桜嵐刃!!」
突風と共に無数の斬撃が走り、魔獣の片眼を潰す!
「こんなん余裕やわ!アタシが最速やんッ!!」
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「全砲門、フル開放……見せてやるぜ、男の浪漫ってやつを!!」
黒鋼創冶、背負った鋼の大槌を地面に突き刺す。
瞬間、魔改造された武装機構が咆哮を上げる!
「轟砲・破界双撃!!」
左右の腕が変形し、大口径魔導砲からの砲撃!
爆風が魔獣の右腕を吹き飛ばす!
「ふんっ……この火力、見くびってくれるなよ、火吹き魔獣よ!!」
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「うおりゃー!仕上げいくぜーーー!!」
護堂烈火、雄叫びと共に突進!
足元の地が爆ぜるほどの突撃力、そして――
「烈盾崩山――!!」
灼熱の盾をハンマーの如く振るい、魔獣の脚を砕く!
「グルマノスぅゥゥ!お前の“赫炎”より、オレの“業火”の方が熱いんだよッ!!」
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「感応干渉、風流圧調整……位置固定、成功」
天道空雷、冷ややかな目で魔獣を睨む。
空間に複数の魔術盤が重なり、戦場の風圧と視野が一瞬で変わる!
「雷術・千雷眼――展開」
無数の雷脈が魔獣の神経を貫き、動きを制限!
「剣豪どの、今です。ご所望の“間”、開けました」
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「負傷全解除、支援魔法範囲拡大、みんな、絶対に死なせない――!!」
水姫ナギサが舞う。水の羽衣が広がり、天から慈雨が降る。
「癒環蒼波――満潮の祝福ッ!!」
その瞬間、仲間全員の傷が癒え、魔力が沸き上がる。
「援護完了!……あとは頼みましたわ、武蔵さま!!」
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しかし、敵はまだ倒れぬ。
咆哮一閃、空間が割れる。
咆哮二閃、天が黒ずむ。
その巨躯が暴れようとした、その時――
一歩。
ただ一歩。
その少年が、前に出る。
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宮本武蔵(異世界転生ver.)
戦場の全てが静まり返った。
爆音も、雷鳴も、風すらも止む。
武蔵は木刀を肩に担ぎ、静かに歩いてくる。
その身は小さくとも、背後には“剣気”が見えるほどの圧。
その目に映るのはただ――斬るべき対象のみ。
「……“勝つ”のではない。“斬るべき理”を斬るのみ。」
――五輪書、理之巻より。(異世界転生してから新たに加筆された五輪書の続き)
構えも見せず。技名も叫ばず。
ただ、“そこに至った”。
その瞬間。
空間が、断たれた。
魔獣グルマノス、蒼天を裂く巨体が――まっすぐに、二つに割れる。
「……木刀……で……?」
「……まただ……あの斬撃、“抜刀”ですらない……」
「いやいやいやッ!もう意味わかんねーよォォ!!」
「ど、どういう物理法則!?説明して天道ぉぉぉ!!」
「説明不能です。ただし記録しました」
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武蔵、静かに目を伏せて呟く。
「……この異界、所望に応えてくれる。ならば我、さらなる理を斬らんとす――」
カエデが叫ぶ!
「出たー!!名言キメてるけど、意味わっかんないやつぅー!!」
烈火が地面にひれ伏す。
「なにこの敗北感!?俺らのド派手が全部前座だったってことなのか!?」
ナギサがため息。
「……でましたわ、武蔵さまの“静かなる暴力”...素敵///」
創冶がニヤリと笑う。
「だが、最高だろ?こいつが俺たちの、最後の剣――“本物”さ」
⸻
その時だった。
天が、裂けた。
禍々しい瘴気、黒紫に渦巻く異界の扉。
その中から――声が、聞こえた。
《……我は、“王”なり。世界を覆す者なり……》
空雷の目が、鋭く細まる。
「……次元断層発生。“魔界干渉”……!?」
ナギサが呟く。
「これは……神話災害級ですわ。まさか、こんな早く……」
武蔵、木刀をそっと納めて。
「――ならば、所望は定まった。“この世界の理”そのものと――一戦、交えよう」
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異世界へと転生した宮本武蔵。
頼りになる5人の仲間たちとの熱くも儚い物語。
舞台はこの刻より遡る事二年前へーー
第一話へ続く