第6話 鍛錬
「これが黄昏の空の戦闘服か…」
隼人はかつての日ノ本の伝統衣装である和服と言うものをベースとした戦闘服を着ている。
それは黒をベースに団の名前から金色?が混ぜ込まれまるで夕闇の中に耀く黄昏時のような印象を受ける。
「似合っているわ隼人君!」
「ええ、とてもお似合いですよ隼人さん!」
真白と美春が褒めてくれる。
あんまりこういう派手な服は着たことがないから勝手が分からん。
それと真白、写真を撮るのはやめてくれないか?
なんだか気恥ずかしい。
「着心地はどうですか?」
訓練室のスピーカーから美濃部の声が響く。
「ああ、結構いいと思う。それと想像していたより動きやすい」
見た目上全体的にひらひらしているのにとっても動きやすい。
まるで自分の体の一部かのようにも感じる。
「それでは隼人さん。一度奥の壁に向かって走ってみてください」
俺は美濃部に言われた通り足に力を入れる。
横で見ている真白と美春がちょっと苦笑しているのはなぜだろう?
だが俺はそれを気にせず一歩踏み出す。
「え!うぉ!?」
だがそのスピードは今までの段違いだった。
ほんの少ししか力を入れてないのに驚くほど体が軽く、まるで飛んでいるかの様に跳ねた。
急なことに隼人は自分の力をコントロールできなくなりそのまま奥の壁と衝突した。
「な、なんだこれ……」
余りに今までの自分の身体能力と違い過ぎて戸惑う。
「大丈夫?」
「あ、ああ」
真白が手を貸して起き上がる。
「あはは、私も入隊時そうなりました。まあいわゆる洗礼ってやつですよ。ここは団の持ってる訓練室の中でも特に狭くて基本的に新人の人が戦闘服に慣れるための部屋なんです」
美春が笑って説明してくれた。
どうやら入隊したての新人のあるあるだそうだ。
「まずはこの戦闘服を着た状態での力のコントロールを覚えないと日常生活にも支障があるからね」
「は?真白それはどういうぅ!?」
軽く一歩歩いただけなのに体が勝手に盛大に跳びさっきと同じように、今度は部屋の真ん中ぐらいでずっこけた。
「こういうこと。慣れればいつもと同じ感覚で歩けるようになるから。頑張って」
「戦闘服は自分の命を左右する大事なものですから頑張ってください!」
なぜだろう、二人の応援で心が逆に虚しくなるのは……。
***
それから四日後。
「よっと!」
隼人は軽々一歩を踏み出すと、次に壁を蹴り宙返りをし綺麗に着地をする。
「なるほど、これが霊威のコントロールか」
隼人は自分の体に流れる霊威を感じてそう呟いた。
霊威とはマキナを顕現させることのできる開拓者の体に流れるエネルギーの事らしい。
美春が簡単に説明してくれた。
この戦闘服の身体強化能力もその霊威の力を利用している。
「凄いですね!たった四日でこうも霊威のコントロールができるなんて!私なんてコントロールできるまでに2か月もかかったのに」
美春は驚いているがこれはいわば自由自在に出来る血液だ。
足が痺れた時、脚を伸ばすと感じる血液の流れ。
それをイメージすると意外と霊威の感覚は掴める。
後はその放出量の調整を無意識に出来るかだ。
これはもう慣れだな。
「ふふん!そうでしょうそうでしょう!」
「いや、なんで真白先輩が自慢気なんですか……」
「2か月でも相当早い方なのですがね」
ファイルを持った
美濃部が訓練室に入ってきて隼人の訓練に付き合っていた二人の会話に入ってきた。
「あら、美濃部君、隼人君の調査はもういいの?」
「はい。今まで取れたデータで今のところは問題ないと判断しました。それに伴いまして次のステップに進もうかと」
「次のステップって?」
遠くから会話を聞いていたは隼人が三人の会話に加わる。
美濃部が隼人にファイルの中にあった紙を一つ手渡す。
「これは?」
「隼人さんのここ4日間における霊威の数値です。初日は勝手に放出する霊威によって身体強化機能がオーバー気味になっていたところ、二日目では霊威を感じとれるようになったのか霊威の出力が急激に下がりました。それから3日目は上げ下げの繰り返し、そして本日に関してはほぼ文句はでないほどの安定性を誇りました。後は実践を通して学ぶべきだと思います」
「そうか……」
「その前段階としてマキナを出した状態でその装備で動けるか調べる必要があります。なので隼人さん。今からマキナを出す練習をしましょう」
「ついにか……」
隼人は静かに自分の手に刻まれた紋章を見る。
「最初に発現した時は真白さんの証言ではそもそもマキナを顕現してはいなかったと」
「あ、ああ、そうだったかもな。あの時はなんというか……」
隼人はあの時のことを思い出す。
あの時はあの謎の男にそそのかされて無我夢中でそこまで力を意識してなかった。
あの炎だって、無意識に出て来た。
使い方もわからなかった。
ただあの時はあの炎を握れば生き延びれる。
それだけは分かった。
「まあ隼人君もとっさのことだったしわからなくても仕方がないよ。これからだよ!」
真白が隼人の背中をさすって励ます。
「それでは左手の紋章に霊威を集中させてみてください」
美濃部の指示通りに左手に霊威を集中してみる。
自分の血管一つ一つを認識する。
身体に流れている何かが自分の意思の元動いているのを感じる。
そして隼人の紋章が輝き始めた。
「隼人さんそのままですよーー!」
「頑張って隼人君!」
美春と真白が応援する。
隼人はより集中を高め霊威を意識する。
紋章がより強く輝く。
そして次の瞬間隼人の右手の先に何かが現れた。
そこで力尽きた隼人は構えていた左腕を下げる。
そのまま紋章の光は消え、代わりに隼の目の前に落ちる。
「これは…刀だな…」
「刀ね」
「刀ですね」
「刀のようですね」
全員少し予想外といった感じだ。
「おかしいですね。てっきり私は本が出てくると思っていたのですが」
「それにこれ右手からでてきたよね?」
美濃部は予想外の出来事に考える。
美春は落ちた刀を拾って隼人に手渡す。
「……」
この握り心地…まるで今まで握っていたような……自分の体の一部のような……。
隼人は握った刀の感触に浸る。
「どう、改めてマキナを持ってみた感じは?」
「なんというか…あっさりだな」
「あっさり?」
「もっとこう、力が沸き上がるような…そんな風かと思ってたがほんとにただ刀を握っただけだ」
あの時、夜の影狼の前で炎を握った時、確かに自分になかった力を感じた。
だけどこれにはそんな力を感じない。
隼人は改めて刀を握り直すと刀の刀身から炎が噴き出した。
「ッ!?」
「えっ!?」
「わわわ!どうしたんですか!?」
「隼人さん!すぐに刀をしまってください!」
隼人は咄嗟に刀を放す。
すると刀は炎となり紋章の中に戻って行った。
「今の感覚は……」
あの時と似たような…。
隼人はあの時と同じ形容し難い、まるで身体の筋肉が圧迫されるような、〜〜〜これをなんと言えばいいのか・・・。
「これは少し様子を見る必要がありますね……」
困った困ったと美濃部は頭を抱え訓練室から出て行った。
「なんか悪いことしたかもな…」
あんな顔を見ちまうとすまねえと勝手ながら思ってします。
「美濃部君は隼人さんの様子を上に報告しなくちゃいけないからね」
「それも彼の仕事だからそこまで気に思う必要はないわ。ああ見えて彼は結構お節介だから。それより隼人君はまずはマキナを安定させることを優先しましょう。いつ次の任務がわからないからね」
「その次は私と模擬戦ですからね!」
「マジかよ……」
それから俺はマキナを安定して顕現する訓練と力を安定させる練習との併用をしながら真白と美春の二人との模擬戦と言う可愛い顔に似合わない地獄の訓練の日々が続くのだった。