第9話
時は寺院が完成する1年前に遡る。
ネマール帝国との戦争に勝ち、公爵邸にはシャルと婚約したいという願いの手紙がたくさん来たそうだ。シャルは王国や帝国の公爵令嬢ではなかったので、夜会に呼ばれたことが数回。手紙を見ても誰だかわからず困惑していた。
「すごい量だね、シャル」
「そうです――お父様は王族とお茶会(お見合い)をしなさいと言っているんです」
(だよなぁ、僕なんかとは違ってシャルは公爵令嬢だもんな)
「私の想いなど関係なく、公国と国とのコネクションを繋げる政略結婚なので……」
「そうか……お茶会には行くの?」
「はい。父の手前いくつかは行くと思います」
エゴだとわかってはいるが、僕はシャルには行ってほしくない。そんな思いを抱いていると、ロンとした会話を思い出した。
『お嬢を大切にするのはわかるが、手を出した方が良いこともあるんだよ』
「なあ、シャル――」
「シャルロット、ここにいたのか。マガーン連邦王国の王子から手紙が来ている。これは必ず行きなさい」
僕がシャルロットに行ってほしくないと言いかかったところに、公爵様が割り込んできた。
「手紙を見ても?」
「これだ、場所はマガーンの王都だな」
「そうですか……お相手は?」
「皇太子の弟、リーヅモドラサン・マガーンだ」
「そうですか……」
「3か月もあれば向こうに着くだろう。早速準備をしなさい」
「わかりました。お父様」
僕はここは引いたらいけないと思い、公爵様に言う。
「公爵様。シャル、いやシャルロット令嬢と婚約させてください。必ず幸せにしますから」
「ジン君。シャルロットは公爵以上の、いや王族と婚約させる。悪いが娘はやらん」
それを聞いて僕は言葉に詰まってしまった。だが、シャルは僕が婚約したいという言葉を聞いて、公爵様に疑問を投げた。
「お父様」
「なんだ」
「私はお父様の何なのでしょうか?」
「決まっている。娘だ」
「じゃあ、私の意見も聞いてくれますよね? 私はジン様と一緒にいたいのです」
「おまえな。国王や帝王の妻になる方が、どう考えてもいいだろ」
「でも」
「わしは将来のことを案じているのだ。一時の気持ちになど流されてはいかん」
シャルが言いあぐねていると、セーラが笑顔でこちらに来た。
「公爵ちゃん。王様と結婚させたいんですよね?」
「そうだ。その方が良いに決まっている」
「じゃあ、王様であれば誰でもいいんですよね?」
「まぁ、その中でシャルが選んでくれれば」
「ジンちゃん! 聞いた? 王様だったらシャルちゃんに選んでもらってもいいんだって!」
セーラの言っている趣旨が何なのか考えていると、セーラがとんでもないことを言ってきた。
「あたい、シャローの森にいる仲間のまとめ役を探しているの。で、適任者を見つけたから、その人に王様になってもらおうと思って。ね、ジンちゃん」
セーラが言っている意味がわかった。僕がエルフを束ねる王になれと。
「今日はシャロー王国の建国記念日になりまーす♪公爵ちゃん、お祝いに土地をくれるよね。サラマンダーで焼かれたくなかったら♪」
シャルもようやく理解したようで、見たことのない笑顔を僕に向けてきた。
「なっ、何を言う」
「あら、王様ならいいって誰かさんは言っていたでしょ。問題ないじゃない」
◆
それからは急ピッチでお城作り。ノームとサラマンダーがレンガを作り、シルフが浮かせて運ぶ。ウンディーネは邪魔してきたロンに高圧洗浄みたいな水をぶっかけていた。
森の周辺の環境はそのまま。路線の終着駅を作り、半年後にはその近くに小さなお城ができた。
「ジン様、これからはジン・シャローですね」
「そうだね、シャル」
「それと結婚をしたら式を何処でしましょうか?」
その答えは僕の中では決まっていたので、シャルにその場所の下見に行こうと提案した。
「おう、ジン。オレが神父やるぞ。まぁ金しだいだがな」
(おまえだけは絶対にない)
――――――――――――――
〈おまけ〉
「ジンちゃん。あたいよくわからないんだけど、王国じゃなく帝国だから皇太子って言うんじゃないの?」
「うーん。僕がいた世界にはイギリス連邦王国っていうのがあって、その国では皇太子だな」
「よくわからないけど、そうなんだぁ」
「ふっ、そのくらい知ってろよ。ババアは長生きなんだから」
「タンヤオ。お菓子あげるから。ロンの魂を喰って」
「ふぉふぉふぉ。引き受けよう」
「タンちゃん。もう甘いのもらえなくなるぞ。それでもいいのか?」
「ぐぬぬ。それは困るのじゃ」
「今よ。サラマンダー!!」