第6話 Ⅱ.令嬢と王様
僕達はタンヤオのおかげでネマール帝国との戦いを早く終えることができた。戦勝国として僕は、すぐにネマール帝国皇太子と宰相に国土を貰う交渉をしたい。
始めは僕から出向くつもりだったが、ナメられて交渉が上手くいかなくなるかもしれない。
なので先方にこちらに来るよう伝えることにした。タンヤオに伝言をお願いしようとするが、彼女が見つからない。ロンに聞いたら「オレと喧嘩して実家に帰ってる」と。どこの夫婦だろう。
「これで呼ぶわ」
「ロン、それってモノリス?」
「ジンよく知ってるな。タンヤオから貰ったんだ」
「へぇ、初めてみた」
ロンはスマホを使うように、黒い板状のモノリスを頬に当てる。
「あいつ、出ねぇ」
「時間あけて、また連絡すれば?」
「そうする」
すると、モノリスから音が鳴る、着信音みたいだ――曲は。
(ツァラトゥストラはかく語りき……)
「おっ。もしもし、タンちゃん。仕事だ。至急戻ってこい。はっ? 風邪をひいて戻れない? 熱は何度なんだ? 35度5分って熱ないじゃん。なに? 0度じゃないから熱があるって? ハチミツやるから来い」
「ふぉふぉふぉ。待たせたな」
(タンヤオ。どんだけハチミツ好きなの?)
タンヤオに仕事内容を伝え、魔法陣の中へ入る姿を見送る。ちゃんと伝えられるかどうか不安だが、これが一番早いだろう。
僕は土地を貰い次第、持続可能な都市を作る計画を練るつもりだ。そのためにもセーラとよく話し合いたい。
「ジン様」
「シャルどうしたの?」
「ちょっとお話が……」
シャルの話を聞くと、神のお告げを聞ける者は聖職者の資質があるらしい。もしかすると、自分が神官や司祭なのではないか。ロンに詳しく聞いた方がいいのか悩んでいるとの相談だった。
「やめたほうがいい」
僕がシャルにそう告げると「やっぱりそうですよね」と言い、彼女は溜息をついた。
そんなやり取りをシャルとしているとセーラが向こうからやってきた。
「あっ! いたいた。ケンちゃん!」
「セーラ、ケンちゃんはやめてくれ、せめてジンちゃんで」
「えーー。賢者だから尊敬してケンなのにー」
「それで、話があるんだろ」
「そうそう。公国の南にある山の麓に、いい森があったのよ」
「おっ。見つかったの?」
「そう。公国の半分くらいの面積だけど貰っちゃおうかなって」
(ある意味、戦勝国だな)
とりあえずセーラに頼んで、戦場になっていた土地の農地計画を進めることにする。精霊達には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。だからあとでハチミツをお供えしよう。
◆
僕はネマール帝国からこれから勝ち得る国土をどう使うのが良いのか考えた。
まずは道の整備。公国内に既にある道はそのままにするしかないと思うけど、今回得た土地にある道は一度壊してしまおうと。
壊すなら今しかない、戦争で負けたことを盾にすれば、民衆も仕方なく納得するであろう。
「あっ。そうかぁ、どうしよう」
僕は気づく。戦争で活躍した有志兵への報奨金、堤防や橋などの建設費用など多くのお金が必要であることを。問題解決のため紙幣を発行するとなると、活版印刷などの技術を利用するか、同じものを描ける職人を見つけなければならない。
(金と交換する保証のある兌換紙幣の方がいいんだけど、不換紙幣になってしまうんだろうな)
「公爵様、ご相談があります」
「シャルはやらんぞ」
(もう耳にタコができています)
「紙幣を発行しようと考えていて、紙幣が信頼できものである。金と交換できる仕組みにできればしたいのですが、この国に金はたくさんありますかね」
「あるぞジン君、東から南にかけて山脈があるだろ。そこに金鉱脈がある」
(あのー、公爵様。この前、森のある南の土地をセーラにあげましたよね。それって金もあげたことになるんですよ。知っていましたか?)
「わかりました。ありがとうございます」
(ネマール帝国が攻め込んだのは金鉱脈が原因か……)
考えながら家の中を歩いていると、ロンに呼ばれた。
「ジン、宰相が来たぞ」
「わかった。今行く。公爵様にも伝えて」
僕は公爵様から借りた地図を持って、会議用に準備した広めの部屋に行く。
部屋に入ると宰相と思わしき人物と女性が1人、そして護衛の騎士が2人いた。
「初めまして。バリアナ公爵の側近、ジンと申します」
「ネマール帝国の宰相、ロールと申します。公爵様は?」
「すぐに来ると思います。ところで皇太子様は?」
「歳が十に満ちていないので、私がネマールの代表になります」
「そうですか」
そんなやり取りをしていると「カフェモカ人数分準備したのか」と公爵様の声が聞こえてきた。そして部屋の扉が開く。シャルもいた。交渉はスムーズに進む。タンヤオが攻め込むぞと脅したからだ。その結果、ネマール帝国の帝都を除く3分の1の土地を得ることができた。
(5分の1で充分だったけど、タンヤオ様様)
そして僕は気になっていたことをロール宰相に聞く。
「そちらには活版印刷の技術はありますか?」
「あります。書物を作っていますが何か?」
「その技術を教えてもらえますか、それとその機械も」
「わかりました。まとまり次第、お渡します。どこへ送ればよいでしょうか?」
僕は都市開発の拠点となる場所を地図で示した。
「ところで公爵様、この娘なんですが。悪魔が攻めてこないよう捕虜として、お渡したいのですが」
宰相が紹介した女性を見ると、彼女は俯いて震えている。これから近い将来、男達の慰み者になるのだろうと怯えているようだった。
その様子をみて、シャルは言う。
「お父様、この方を私に預けてください。侍女として働かせたいので」
(そうだよな。シャルは戦争で負けたら、この女性みたいになりえたからな)
部屋に女性は残り、ネマール帝国の宰相を見送る。公爵様は僕に言ってきた。
「ジン君、お手柄だよ。一昨日、セーラに東にある山脈の麓も与えて、領土が狭くなってしまったから助かったよ」
(なにしてんの? 馬鹿公爵。金鉱脈をエルフの方々にあげちゃいましたよ)
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〈おまけ〉
「ジンちゃん、ありがとう。ノームに聞いたら、金があるから貰えって」
「ノームに聞いたのか。なるほど」
「これで同胞が奴隷になっても助けてあげられる」
「セーラ、すごいね。きっといい人見つかるよ」
「こんなババアを良いって言う奴は頭のネジが外れているぞ」
「ノーム、ウンディーネ、お願い。あいつをコンクリートで固め、海に沈めて」