第38話 ここにいるから
僕は王城へと向かう。ロール宰相に会い、ネマール帝国に住む貧困層の為に何ができるのか、貧困層の若者達が仕事が就けるようにするには、どう導けばいいのか。そのことを宰相と相談するためだ。
みんなを連れて町中を歩く。王城に着いたら、僕は詰め所のところに行った。
「すみませーん」
「はい、どちら様でしょうか?」
「シャロー王国のジンと申します。ロール宰相に会いたいのですが」
「身分を証明するものを出してください」
身分を証明するものなど僕は持っていない。すると、それを見ていたセーラが身分証としてギルドカードを出してくれた。
「あたい、ジン国王の側近なの」
「ジン国王……失礼いたしました!! すぐに使いの者に伝えますので少々お待ちください」
◆
僕達が詰め所で待っていると風格のある騎士がやってきた。
「ジン国王様ですね」
「はい。そうです」
「拙者は帝国騎士団近衛隊長をしていますドムドエールと申します。宰相のところまで案内いたします」
◆
僕はドムドエール隊長のあとに続き王城内を歩く。そして客室ではなく謁見の間に通された。
「ただいま、ロールを呼んできます。しばらくここでお待ちください」
「ジンちゃん。何かおかしくない?」
「ん?」
「何で会議室とか客間とかじゃないの? こんなに広いところじゃなくてもいいでしょ」
謁見の間では近衛兵が並んでいて、銅像のように動かない。セーラの言う通り違和感があるが、そこでロール宰相を待った。
◆
「ジン国王。遅れて申し訳ありません」
「お久しぶりです。ロール宰相」
「ジン国王と会うのは結婚式の披露宴ぶりですかね」
「そうですね」
「今日はどういったご用件で?」
僕は帝都でスリに遭い、スラム街に住む若者達が絡んでいたこと。その後ろにゴンドラという犯罪組織があること。彼らを犯罪組織から抜け出せるように、仕事を与えたい。または教育を充実させて、自力で職が探せるようにしたいと。僕はロール宰相に提言した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ったく。人数多すぎて、頭が誰だかわからん。地道にやるか――」
「ふぉふぉふぉ。主、こちらは終わったぞよ」
「サンキュー。じゃあ次の部屋に行くか」
オレは廊下を進み、次から次へと部屋を荒らしていく。そして遂に頭についての有力な情報を得た。
「誰が頭なんだ!! おい、聞いているのか?」
「き、聞いてます。殺さないでください」
「わかったから、教えろ」
「ドムドエールさんです」
「ドムドエール?」
「はい。帝都騎士団の近衛隊長をしています」
(しまった!!)
「タンちゃん!!」
「主、どうした?」
「ジン達がヤバい。すぐ王城まで行ってくれ」
「ふぉふぉふぉ。お菓子をくれる――」
オレはタンヤオの頭をぶん殴る。
「緊急事態なんだ!! 早く行け!!」
「わかったぞよ」
タンヤオが消えていく。オレは急いで王城へと走った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そうでしたか。ゴンドラという大規模な犯罪組織があったんですね」
「はい。とにかく若者達は仕事がないと生活がきつくなります。なので、先ほどの方策を今すぐにでも実行してもらいたいんです。そうすればゴンドラに入る若者も減ると思います」
僕が宰相と話をしていると――。
「サラマンダー!!」
セーラの声が聞こえて、思わず振り返ると、セーラとテミルが騎士達と戦っていた。
「宰相! どういうことです!!」
宰相は驚いていた。これは宰相の指示ではない。とすると――。
「キャーー」
シャルの声が聞こえた。声のする方を見るとドムドエール隊長がシャルを捕まえていた。
「ジンとか言ったな。困るんだよ勝手なことされちゃ。もう少しでこの国を乗っ取れたのに」
「どういうことだ!」
「ゴンドラは拙者にとって必要なコマなんだ。それを潰しにかかるのは困るのだよ」
「ジン様!!」
「この娘の命を助けたければ、悪魔を召喚しないことを契約し――」
「ふぉふぉふぉ。待たせたな」
タンヤオが現れた。チャンスは気を取られている今しかない。僕は仲間が助けてくれることを信じてシャルのところへ行き、ドムドエール隊長に体当たりした。すると次の瞬間、背中に鋭い痛みが走った。
「ジン様! ジン様! いやぁー!!」
シャルの声は聞こえなくなっていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
この感覚は知っている。どうやら僕は死んだみたいだ。シャルは仲間が助けてくれただろう。
これから僕はどこに行くんだ。天国なのか、地獄なのか、わからない。ただわかっていることは、シャルのことを愛している。そのことは確かだ。だから幸せを願うんだ。
『賢者よ。よくやった。しばらく休むとよい』
この声は聞き覚えがある。そう、あの時の声だ。
『休む時間を与える。そのあとお主は――』
そうか、もうシャルには会えないんだな。でもいい、彼女のために僕は自分の力を。知識を使えたから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「――ま ――さま ――」
そう、もう声も。いや、呼んでる。シャルが呼んでる。諦めちゃダメなんだ。
「ジン様!!」
温もりを感じた。シャルが僕に抱き着いている。
「死なないで! お願い!!」
痛みはない。もしかすると僕は助かったのか。
「し、シャル――」
「ジン様!!」
「大丈夫。僕は死なない」
「王様。痛みは残っていますか?」
ライムの声が聞こえた。ロンが言っていたな、エルが刺されたときライムが助けたって。じゃあ。
「ライム」
「はい」
「僕の傷は?」
「みんな急いで駆けつけました。もう傷はありません」
「そうか。ありがとう」
その言葉を聞いて、僕の意識は再び無くなった。
◆
目が覚めると、知らない天井が見えた。腹部にはすこし重い物が乗っている。
「シャル」
見ると、シャルが僕の上で眠っていた。
「おう、ジン。気がついたか」
「ロンか?」
「そうだ」
「何があった?」
「ふぅ。お前、3日間寝てたんだよ」
僕は助かった。3日間も眠りについていたが、シャルがずっと傍にいてくれたようだ。
「そうか。みんなは?」
「いるぞ。違う部屋だけど」
「ん、ん、んー」
「シャル」
「えっ。ジン様!!」
シャルが僕を強く抱きしめる。
「おはよう」
「ばか」
「ごめん」
「もうあんなことしないで」
「……うん。約束する」
僕はシャルを抱き返した。
◆
帝国の王城に僕はいる。体力が回復するまで、ここにお世話になることになった。
僕はロール宰相から滅茶苦茶謝られる。僕は宰相のせいじゃないと言って、笑いながら「謝罪しなくてもいいです。大丈夫ですよ」と伝えた。
目覚めてから2日が経ち、僕は体を動かしストレッチをする。気になったので鏡で背中を確認すると、背中には傷痕は無く、ライム達のおかげなのだと改めて思った。
「ジンちゃん。どう調子は?」
「だいぶ良くなったよ。ほら動けるでしょ」
僕はセーラの声かけに対し、体を動かして応える。
「まったく。あんな無理して。シャルちゃんがどんだけ心配したか、わかってないでしょ」
「わかっているよ……たぶん」
「はあ。これじゃ先が思いやられるわ。シャルちゃんが可哀そう」
「王様」
「ライムか。本当にありがとう」
「王様はみんなに必要とされています。ボクはボクにできることをします」
「ライムありがとう。これからもよろしくね」
「ふぉふぉふぉ。王よ。体の具合はどうじゃ? 必要ならばノビノビラに頼んで、ハチミツをやるぞよ」
「タンヤオありがとう。ハチミツなら水とレモンを混ぜたものが飲みたいな」
「ふぉふぉふぉ。待っておれ、野盗達に言ってくるぞよ」
「ジン。どうだ? もうそろそろ、旅に出れそうか?」
「大丈夫だと思う」
「そうか。まっ、何かあったら言ってくれ」
「ありがとうね。ロン」
扉の開く音がする。見るとシャルが笑顔でお粥を持ってきてくれた。
「ジン様。今日はゆで卵のお粥です」
「ありがとう」
「はい。あーん」
「シ、シャル、みんな見ているよ!」
「いいから。はい、あーん」
シャルがスプーンを口の前に持ってくる。僕は口を開け、雛鳥みたいにお粥を食べさせてもらった。
◆
「ジン国王。気をつけてお帰りください」
「ロール宰相、お世話になりました」
「ジン。そろそろ馬車が出ちまうぜ」
「じゃあ、みんな行こうか」
僕達は城をあとにし、シャロー王国へと。
◇◆◇
ネマール帝国にあるシャロー王国へと繋がる駅に向かう。シャルが手を取ってくれて僕は列車に乗った。
列車は動き出す。心地良い風が吹く中、街の外側を走る。シャロー王国に入ると、視界の右側には自然豊かな緑があり、それに沿う形で列車は進む。途中、湖が見えて、ここをライム達の集落にしてもいいかなとも思った。しばらく走ると遠くに寺院が見える。あそこで結婚式を挙げたことが遠い昔のように感じた。シャローの森が見えたときには「本当に帰ってきたのだな」と思わず呟いた。僕の隣にはシャルがいる。新婚旅行を終え、これからの生活はどうなるのであろうと思いにふけっていた。
「ジン様! 早く家に帰りましょう!」
僕はシャルを愛している。
シャルロットに呼ばれて
僕はこの世界に来て、本当によかった。幸せだと感じる。だってかけがえのない仲間達が、ここにいるから。




