第36話
翌日、僕はいつもよりも早く目覚めてしまった。シャルの顔をみて、思わず頭を撫でる。僕はベッドから起きあがり背伸びをし、椅子へと移動した。窓の外を見ると藤紫色の空に星が光っている。空の様子をしばらく眺めていたらシャルが起きた。
「ジン様、どこにいます?」
「ここだよ」
髪の毛が少し乱れたシャルは僕を見る。僕の口角は自然と上がっていた。
「あっ、ジン様朝日が見えるかもしれません」
「ああ、そうかも」
シャルがベッドから降りる。僕は2つの椅子を窓のある方に、向きを揃えて並べ、シャルを呼んだ。するとシャルはこちらに来て、僕の左側に座り、僕達は朝日が昇るのを待った。
このリゾートホテルから見る景色はとても素晴らしい。しばらく僕達は待つと、向かって右側に太陽の輪郭が現れた。
シャルは僕の肩に頭を乗せる。太陽は昇り、その色は朱色から白へと変化していった。
「素敵ですね」
「ああ、そうだね」
僕は支度をし、シャルと共に朝食を食べに行く。朝食を食べる場所は2階にあるので、そこへ行き部屋に入ると、朝食はこの旅初めてのバイキング形式だった。
(おー。懐かしい、日本にいた頃を思い出すよ)
「ジン様、これは?」
「うん。食べたいものを好きなだけ取って食べるんだ」
「そうなんですね」
「おはよう。ジンちゃん、シャルちゃん」
セーラがテミルを連れてやってくる。僕はセーラ達がわかるようにバイキング形式について伝え、みんなで席に着いた。
(えーっと、お肉と野菜、パン。あっ、ナンもある)
僕は食べられる分を取って席に戻る。セーラとテミルは果実も取ってきたが野菜が中心だ。
「ジン様、たくさん取ってきちゃいました♡」
(その量は大人3人分だろ。シャル、僕の話を聞いていた?)
「おっ、ジンおはよ。これが噂のビュッフェってやつか」
(うーん。似ているけど、ビュッフェは食べた分の料金を支払う形式だからなぁ。まあいいか)
「あっ、そうだ。タンちゃん、呼ばなきゃ」
ロンはそう言ってモノリスを取り出す。
「出ねぇ――。あっ、タンちゃん。朝食だ、今すぐ来いよ。何? 何だって? よく聞こえないぞ。(ツーツーツー)切れちまった。しょうがなねぇ。せっかく甘い物食べ放題なのにな」
「ふぉふぉふぉ。待たせたな」
(どうやって甘い物食べ放題情報得たの? タンヤオ教えてくれ)
みんなでバイキング形式の朝食を楽しむ。ただ1件の問題を除いて。
(まあ、そうなるよね。タンヤオだから)
◆
お昼まで、リゾートホテルの中を散策。ゲームコーナーだったり、お土産屋さんだったり、見て回っても飽きなかった。
お昼前にホテル側が指定したバーベキュー会場へと向かう。そこには鉄板とトングや皿、各種タレと。流石リゾートホテルのサービスだ。
(ん? でも炭が無いよ。そうか魔法かサラマンダーか!)
僕はバーベキューをする場所にある鉄板の下をよく見るとカセットコンロが2台あった。
(マジかっ! カセットコンロって、この世界はどうなっているのよ?)
「おう、じゃあオレが火をつけるぞ。着火!」
――――鉄板――――
ボンベ五徳 ボンベ五徳
↑放熱可 ↑(このボンベが爆発する可能性大)
危ないと思い、僕は急いでロンに言って火を止めてもらう。向かって右側のカセットコンロを180度向きを変えてから着火をやり直した。
ジュー ジュー
「ジン様、美味しいですね」
「うん。ほら、この肉焼けたよ」
みんなでバーベキューを楽しむ。ライムは火を恐れ、近くにはいない。タンヤオも近くにいないが、たぶん朝食会場にいるのだろう。
◆
バーベキューを楽しんだあと、部屋に戻り旅支度をする。忘れ物が無いかを確認し、ロビーに行った。すると支配人が僕を顔をみて、僕に声をかけた。
「国王様。このあとネマール帝国に行かれるのですよね」
「はい。その予定です」
「それならば、途中にスライムの集落がありますので、そちらに立ち寄ってみてはいかがでしょうか?」
(もしかして、ライムの故郷?)
「どこにあるのですか?」
支配人は地図を広げ、場所を教えてくれた。少しだけ寄り道することになるが、滅多に行けないと考え、スライムの集落へ行くことにした。
「では、道中お気を付けください。またのご利用をお待ちしております」
◆
僕達はネマール帝国に向けて旅立つ。馬車で1週間移動し、国境の町手前で降りる。そこから徒歩でスライムの集落を目指した。
(スライムの集落ってどんな感じなんだろう)
歩くこと2時間半。僕達はスライムの集落に着いた。森の中にあり、大きな池がある。プルプルとスライム達は思い思いに動いていた。
「王様。ここはボクの故郷です」
(やっぱりそうか)
「へぇ、たくさんいるな。タンちゃん、炎系のヤツかましたら、もうゼッタイに甘い物あげないからな」
「ふぉふぉふぉ。わらわはいい子じゃ。火は使わないのじゃ!」
「テミル。ここでウンディーネと契約できるかもしれないわ。やり方教えるからやってみる?」
「お願します。セーラさん」
セーラが教えた手順通りにテミルがやるとウンディーネがテミルの周りを舞う。テミルはウンディーネと無事に契約できたみたいだった。
「セーラさん。ありがとうございます」
「いいのよ。これから他の精霊も契約していくんだし」
ライムはスライム達の中に行く、スライム達はライムを囲み、喜んでいるみたいだった。
(よかったね。ライム)
僕はぷよぷよ動くスライム達をしばらく見て、思ったことをライムに伝える。
「ライム。いいかな」
「なんでしょうか王様」
「ライムはここに残りたい? 故郷だよね? ライムはどうしたいのか、本当の気持ちを教えてくれないかな」
僕がライムに問いかけると、数匹のスライムが僕の所にきた。
(そうだよね。ライムは仲間だもんね)
「王様」
「うん。ライムが決めていいよ」
「ここにいる仲間も旅をしたいそうです」
「へっ?」
想定外の反応に戸惑っているとシャルが僕に提案してきた。
「ジン様。シャロー王国にスライムの集落があってもいいですよね? こことシャロー王国にあれば、どちらかが火や炎が原因で住む場所が無くなっても、移住すれば何とかなりますし」
「わかった。ねぇ、僕と旅したい子どのくらいいる?」
僕の呼びかけに反応したスライムは数十匹。この数で移動できるのか不安になった。
「王様」
「何?」
「みんな擬態して旅についてくるそうです」
(そうか、その手があるのか)
人型になるもの、武器に擬態するもの、スライム達は思い思いに変化をする。
(これなら大丈夫)
「じゃあ、みんな行こうか」
集落にいるスライム達はぴょんぴょん飛び跳ねて、僕達を見送ってくれた。次は国境の先にあるネマール帝国だ。
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〈おまけ〉
「主、スライムを置いていきたかったのじゃ」
「タンちゃん、どうして?」
「スライムはわらわのお菓子を全部奪う気でいるのじゃ。こうなったら――」
「火を使ったら、もうお菓子はやらん」
「ぐぬぬ。わかったぞよ。わらわはいい子にするのじゃ」
「よーしよしよしよし」




