第32話
シャラム帝国帝都から南下するために最寄り駅から列車に乗る。列車は海岸線を2時間ほど走り、僕達は港町ティレルに到着した。ここからブレッサンド王国への直通便があるので、それに乗りブレッサンド王国へ行く予定だ。
「お腹すいたね。シャル」
「そうですね」
「レストランでもいこうか」
「おい、ジン。あそこのレストランとか面白そうだぜ」
ロンの指し示した方には古びた建物があり、「お食事処」の看板が近くにあった。
(うーん。「お食事処」って小さい時に国道沿いで見たことのあるような……)
「じゃあみんな、行ってみようか」
僕達は古びた建物に行く。そのお店の入り口にはこんな看板があった。
【世界で一番小さな巨人】
(巨人って名前で一番小さい人って誰だろう? 僕はジンだから対象外だし)
そんなことを考え思いつつも、店の中に入る。
「いらっしゃい!」
「すみません。6人なんですけど」
「それなら、奥にある3人掛けのテーブルを2つ使ってくれ」
(3人掛けってどんなテーブルだ? 4人ならわかるけど)
2つのグループにわけ、僕はロンとタンヤオがいるテーブルの席に着いた。
(こいつら何しでかすかわからんし)
「お客さん、決まったらすぐに言ってくれ。あと30分でラストオーダーだ」
(お昼なのに早くない?)
「あっ、ラーメンがある」
「ほう。王よ。ラーメンとは何ぞや?」
「うーん。タンヤオ(おバカ)に口で説明するのは難しいな。とりあえず麵類ってことしか言えないな」
「ほう。それは甘いのか?」
「甘くはないけど美味しいよ。食べたらわかるよ」
「わかった。たまにはわらわは攻めてみるぞよ」
(いつも攻めてるじゃん。ボケで)
「おう、オレもジンと同じのにするぜ」
「すみませーん」
「おう、注文は何だ?」
「ラーメンを3つお願いします」
「ラーメン3つね。お客さんツイているぜ、ラーメンを頼むなんて」
(ん? 1日限定5杯とかなのかな?)
「明日、店を閉めるんだ。このラーメンで最後だ」
(最初で最後のラストオーダーか)
「閉めるって何かあったんですか?」
「ああ、お客さんが2年ぶりの客なんだ」
(お店。よくもったね)
しばらく待つとラーメンが運ばれてくる。
「へい、お待ち」
(主人。ラーメンに指が入ってる。器のへりを持つな)
指が入っていたラーメンはロンとタンヤオに食べてもらうことにし、僕はラーメンを啜る。
(美味い)
「ジン。音を立てて食べるなんて汚いぞ。王なんだから、もっと上品に食え」
(ああ、そういう文化あったな。ヨーロッパだっけ?)
僕達はお昼を食べ終え、お会計へ。
「すみませーん。お会計をお願いします」
「おう、ラーメン3つと適当なやつだろ。合計で銀貨98枚だ」
(ボッタくりすぎじゃない? 2年間お客さんが来なかった理由がわかったよ)
セーラが猛抗議し、ロンが宥める。いつの間にかタンヤオが主人をミイラにした。
(止められなかった)
僕達はお店を出て、船乗り場へと向かう。乗船券を買う為のチケット売り場に行くと、乗船券のグレード別運賃が書いてある表があった。
「ジン。高くね? 1人あたり銀貨50枚なんて、どう見てもボッタくりだろ」
(さっきの店の方がボッタくりだ)
「オレ。タンちゃんと海から船によじ登るわ」
(ロン。それは密入国だ。やめてくれ、僕がチケットを買うから。頼む)
僕はチケットを5枚買い(ライムは弓に擬態して)船に乗る。チケットに書かれた部屋に行き荷物を置いた。
「ジン様。甲板にいきましょ」
(タンヤオは交番に行ったほうがいいな)
「そうだね。景色もいいと思うし」
船が出発する。僕は甲板の手摺りに掴まり、ティレルの港を見ると港がだんだん小さくなっていく。僕はそれを見て、ビスビオ王国、教国、シャラム帝国の旅を懐かしんでいた。
僕は船の旅が好きになった。海面の揺れに太陽の光が反射する。遠くを眺めれば水平線、海の青と空の青があった。海風が吹く中、この景色を見るのは何とも言い難い。
船の旅は順調に進むであろうと思っていたが、そんなことはなく事件が起こった。そう、海に巨大な魔物が現れたのだ。
『あ、あ、あぁ。超ウルトラスーパージャンボスターフィッシュだ!!』
(長くね? ジャンボスターフィッシュでいいだろ)
「キャー」
『乗組員は甲板に集合しなさい』
「そんなことより避難が先だろ!」
「救命ボートはどこにある!!」
「ライフジャケットをこっちに寄越せ!!」
巨大なヒトデが船を襲う、「ヤバい」と思ったら別の怪獣が現れた。
「リ、リ、リヴァイアサンだ!!」
(どうしてもホッブズのリヴァイアサンを思い出してしまう)
「海龍もだー!!」
(ん? 海龍?)
リヴァイアサンは巨大ヒトデに襲い掛かり、あっという間に巨大ヒトデは倒れ、海に沈んだ。
(リヴァイアサン強っ!)
「主。この本を読むのじゃ!」
「タンちゃん。今はそれどころじゃないだろ」
「ほい」
「まったく――って、何で【リヴァイアサンの飼い方について】って本持ってんだよ」
「ふぉふぉふぉ。わらわは万能なのじゃ! この本、試験対策に買ったのじゃ。1ページ目を読んだが意味がわからなかったのじゃ!」
タンヤオの言っていることは無視し、僕はタンヤオに何を頼んだらよいのかを考えていた。
「主。こっちを見ていないか?」
「ん? ホントだ。リヴァイアサンも海龍も見ているな。あっ」
「どうしたのじゃ?」
「ちょっと行ってくる」
そうロンは言って、リヴァイアサンと海龍に近づく。
「おう。お前、お母さん見つかったんだ。よかったな」
『礼を言う』
「はっ?」
リヴァイアサンが喋っているように僕は感じた。
『召喚されていてな。ちょっと目を離してしまったら、いなくなっていたのだ』
「あぁ、本当に迷子になっていたのね」
『それで、主にお願いがある』
「お願いって?」
『娘の婿にならんか?』
(やっべ。魔族だけでなくリヴァイアサンも味方につけるのか。ロンはもう人間じゃないね)
「すまないがオレには女がいるんだ。ライ! 女体化してちょっと来い!」
ライムは弓から少女へと姿を変える。そしてロンの所に行った。
「こいつだ。悪いな、リヴァイアサン」
『殺す』
「きゅいきゅい」と海龍が鳴く、まるで殺さないでくださいと言っているようだった。
『わかった。娘の望みなら仕方あるまい。失礼するぞ』
リヴァイアサンがそう言うと、海龍と共に体を水平線へ向け、船から離れていった。
「おお!」
「奇跡だ!!」
「あの人は勇者だ!」
「英雄だ!」
(この流れ見たことあるぞ。このあと宴会だっけ?)
結局、ロンのおかげで事態は収束。甲板では興奮冷めやらぬまま乗客がロンを囲む。
「おう。オレはロンって言うんだ。シャロー王国の重鎮だ。みんなヨロシク!!」
ひと騒動あったが僕達は残りの船の旅を楽しんだ。予定ではあと2日間でブレッサンド王国の港町ドパーズに着く。これからどんな素敵なことが待っているかと思いとワクワクが止まらなかった。
――――――――――――――――
〈おまけ 数年後のおはなし〉
「ねぇ、ママ。リヴァイアサンってなーに?」
「海に住む綺麗な龍のことよ」
「へー。見てみたいな。ママは見たことある?」
「あるわよ。ママとパパだけじゃなく、オジサンやお姉さんも見たことあるわよ」
「そうなんだぁ。いいなぁ」




