第31話
僕はシャルと一緒に朝食を食べた後、ロビーに行くと朝帰りのロンと会った。
「あっ! ロン」
「おう、ただいま」
「おつかれ。あれ? タンヤオは?」
「お菓子を食べに、野盗のアジトへと戻った」
「そうか」
「なぁ、ジン。この帝都にしばらくいないか?」
「なんで?」
「ああ。宴会でオレの木像を作ることが決まってな。完成品ができたら除幕式が行われるそうだ」
(気合の入り方が違うな。でも何で銅像じゃなくて木像なの?)
「それってロンが参加しないといけないの?」
「おお、言われてみればそうだ。参加する義務はないか。でもな」
「でも?」
「今日の昼過ぎに画家が来て、オレを描くんだ。その絵から木像を作ると」
(仕事が早いな。港の人達は魚を取るから鮮度が大事か)
「いいと思うわ。ジンちゃん、ロンのことなんか気にせずに置いていきましょう」
いつの間にかセーラが僕の脇に来ていて、冷たい声でボクに言った。
「まあ、セーラそういわずにさ。この旅はみんなで楽しもうよ」
「新婚旅行だったわよね。ロンがいなくてもいいじゃない、ジンちゃん」
(そうだね。もともとは僕とシャルだけの新婚旅行だったし)
「ジン。帝都観光は明日以降にして、午後から一緒に港へ行かないか?」
「シャルはどう思う?」
「ロンさんがモデルになって動かない姿を見てみたいです」
(いつも積極的に動いているもんな。それを言われたら見てみたい)
「わかった、一緒に行こう。セーラも行く?」
「行くわ。的が止まっているから当てやすい」
(何を当てる気だ。サラマンダーか? それとも弓矢か?)
午前中、僕は貰った観光パンプレットを参考にして、シャルと一緒に明日はどこを回ろうか計画を立てる。ロンは仮眠、セーラとライムは何をしていたかはわからない。
お昼になり港へと出発。1時間かけて港に着くと、ロンはVIP待遇でもてなされた。
「勇者さん、こっちです!」
ロンと僕達は地元の人に付き添われ、広場へと行く。広場には画家らしき人がいて、髭をいじっていた。
(どっからどうみても、サルバドール・ダリだな)
「お前が勇者か?」
「勇者かどうかわからんけど、まあそう言われているな」
「そこに立て、8時間ほどで絵が仕上がるから、ヨロシク」
(8時間動かないって新手の拷問だな)
ロンは指定された場所に立ち、ポーズをとる。画家の人は速く筆を動かし、蓋を開けてみれば80分程で絵が完成した。
「こんなんでいいか?」
「いいね! 最高!」
僕はどんな絵になったか気になって、絵を覗きにいくと、
(うーん。ピカソみたいだな。本当にこれで木像作るの?)
僕はどのくらいで木像ができるのか、今回関係している方に聞くと、明後日には完成すると言われた。
「みんなもういいかな? ホテルに戻ろうか」
◆
馬車で1時間移動しホテルに戻ると、ホテルの入り口には数人の騎士がいた。
(なんだろう? 何かあったのかな?)
僕達が騎士の脇を通り抜け、部屋に戻ろうとすると、支配人に呼びかけられた。
「ジン国王様! すみません、ここで待っていていただけませんでしょうか?」
支配人は慌てた様子で騎士のもとへ行く。すると騎士達がやってきて僕を訝しげに見た。
「お前が国王か」
「はい。シャロー王国の国王です」
「帝王がお呼びだ。そこの者達もだ。ついてこい、命令だ」
(ん? なんだろう? 何か用事があるのかな)
僕は騎士に囲まれ王城へと向かう。王城では宰相が待っていて、すぐに謁見の間に通された。
「お前ら、陛下の前だ。粗相をするなよ」
騎士の高圧的な態度にセーラはブチキレていた。
「なんなの! もう! 王様に対する待遇じゃないわ」
「セーラ落ち着いて」
「ジンちゃん。いやジン国王。この扱いは抗議していいわ。いや抗議しなさい」
「出ねぇ――。あっ、タンちゃん。今ね、お城に来ているんだ。甘いものがあるし、せっかくだから来いよ」
「ふぉふぉふぉ。待たせたな」
郷に入っては郷に従えと思い、僕は謁見の間で片膝をつき、床を見ながら帝王を待つ。
「面をあげい」
顔をあげると玉座には偉そうにしている男性がいて、さらに幾人もの女性達が並んでいた。
「シャロー王国と言ったかな。とんでもないことをしてくれたな」
(えっ? 何?)
「リーズモドラサン王子を殺しただろ? シャラム帝国にとっての護衛対象を殺したんだ。言っていることがわかるか?」
(わからん)
「阿保面をしよって。マガーン連邦王国との外交に亀裂が入ったのだ。この罪は大きいぞ」
(はっ?)
「おう。そこのクレーマー親父。その王子が護衛対象なんだろ? お前らの不備だろ? 責任を取るのはお前達だ」
「無礼者!! わしを誰だと思っているのか!!」
「知らないオッサン」
「そこまで愚弄するのか! もういい、お前らその者達を殺せ! 女は犯して構わん!」
ロンの言葉に帝王は逆上。騎士が僕達に剣を向ける。
「主、いつ甘いものが食べられるのじゃ?」
「タンちゃん。あのオッサンの魂を奪えば、食べられるぞ」
「ふぉふぉふぉ。わらわは犯しじゃなくお菓子を食べるのじゃ!」
タンヤオは帝王のもとへ行く。騎士が帝王を守ろうとするが、タンヤオによってミイラとなった。
「「「ひぃぃー」」」
並んでいた女性達は恐怖で動けないみたいだ。帝王も驚き、怯えた。
「な、な、何をする!!」
「ほう、魂のレベルが低いな。まあいいぞよ」
タンヤオは帝王をミイラにする。騎士達はあっけに取られ、僕達を殺すことも忘れているみたいだ。
「おう。お前ら、耳を傾けてよく聞け。マガーンの王子はここにいる王妃を手籠めにしようとしていたんだ。家臣なら王様や王妃を守るのが当然だろ? それなのにイチャモンつけてきて、責任を擦り付ける。お前らがオレらに対してやったことは無礼だし、家臣も王様を守りきれていない。こっちが本気になれば(この国を)潰すぞ」
ロンの主張を聞いて、力なくうなだれる者、怯えていたままの者、謁見の間はまるでスポーツの試合に負けたような雰囲気が漂っていた。
(うーん)
「ロン。これからどうする?」
「ここはお前の出番だぞ。外交のカードが増えたんだ」
(そうか。支配下に置くか、友好国とするか、僕のさじ加減ひとつで決まるのか)
「宰相」
「は、はい、何でしょうか?」
「今後、宰相を中心に政をお願いします。マガーン連邦王国が何か言ってきたらシャロー王国にやられたと言ってください。マガーン連邦王国は僕達が相手をします」
宰相は驚き、目を見開いた。
「いいのでしょうか?」
「はい。僕としてはシャラム帝国と敵対するつもりはないので」
◆
王城を出て、ホテルに戻る。僕達はロンの木像が出来上がるまでの2日間、帝都観光をした。
「じゃあ、みんな港へ行こうか」
馬車で港へ向かい、広場を目指す。広場では地元の人たちが僕達を待っていて、木像と思われる物には布が被せてあった。
「勇者さま。出来上がりました。ご覧ください」
「「「せーのっ!」」」
布が外され木像が現れる。どう見てもロンではない。カッコ良すぎる。
「おっ、いいねぇ。オレにそっくりだ。やっぱカッコイイわ」
(鏡見ろ。どう見ても似ていないぞ。木像の方が30倍くらいカッコイイ)
「主、これは主か?」
「そうだ。カッコイイだろ、タンちゃん」
「似ていないのじゃ! わらわが修正するのじゃ!!」
(いやな予感しかない)
『インフェルノ!!』
(あーあ。火力強すぎて木像が炭化していく)
木像が崩れ落ち、地元の方たちは啞然としていた。
「みんな逃げるぞ!!」
僕達は急いで馬車に乗り、帝都にある港をあとにした。
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〈おまけ〉
「国王様。この度は当ホテルをご利用いただきありがとうございます。宿泊料金はいただきませんので、今後ともご贔屓にしていただければと存じます」
「えっ。いいのに。払うよ」
「わぁぁぁぁ。ホテルスタッフを殺さないでください。国王様。お願いします!!」




