表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/40

閑 話 シロツメクサ

「シスター。いつもありがとう」

「いえ。エル君がいなければ、みんなどうなってしまったか」


 ジン国王と一緒に旅をしていたある日の朝。僕はロンさんに起こされ、孤児院へと行った。

 孤児院に着き、ロンさんが扉を叩くと扉が開き、シスターが現れる。顔つき、話しぶりから僕より年上の人なのだろうと思った。

 中に入り、テーブルについてシスターと話していると、扉が乱暴に叩かれる。ロンさんが裏手から逃げろと言ったのを聞いて、僕は子供達を起こし、シスターと一緒に裏手に行く。


「シスターどこまで逃げれば?」

「あそこ――」


「止まりな。どうしたんだ? そんなに慌てて。お前ら逃げなくていいぞ。あの世に送ってやるから」


 僕らの目の前に男達が立ちはだかる。彼らは獲物を狙うような顔つきで笑った。

男のふところから取り出されたナイフは銀色に輝く。


「やめてください! この子達には罪はありません!」

「そうだな。じゃあシスターが相手をしてくれよ。お前らもそう思うよな?」


 男達はいやらしい目でシスターを見てきた。


(僕が守らなきゃ)


「お前ら拘束しろ」

「イヤ!!」


 男達がシスターに近づく。僕はシスターの前に立った。


「はぁ? 坊主。邪魔すんじゃねぇ」


 僕が男を睨むと、次の瞬間しゅんかん腹部に痛みが走った。


 ◆


「あっ」


 目を開けると天井があり、天井を見ているとシスターの声が聞こえた。


「よかったぁ」


 シスターは僕を見て、そうらした。


「お腹すいていませんか? 今食べ物を持ってきますね」


 辺りをみると、孤児院の一室みたいだ。「あぁ、刺されたのか」と腹部を見る。

不思議なことに傷痕きずあとが無い。しばらくするとお皿を持ってシスターが戻ってきた。


「お口に合うかどうかわかりませんが……」

「ありがとうございます」


 僕はシスターに渡されたおかゆを食べた。


美味おいしい」

「フフ、たくさんありますので、おかわりしたいときは言ってください」


 ◆


「シスター!」

「ねぇねぇ、シスター」


「どうしたの? みんな」


「最近ずっとエル兄のところに行ってる。ずるいよ~抱っこして!」

「やめなよ。シスターはエル兄とケッコンするんだから」


「け、結婚! あなた達バカなこと言うんじゃありません!」


「だってさ。1週間、ご飯作っているとき鼻歌が聞こえるよ。今までそんなこと無かったのに」

「ねぇねぇ、シスター。チューした? チュー?」


「いい加減にしなさい!!」


「「わー」」「シスターが怒った~♪」


 ◆


 3日間は動けなかった。食べては寝て食べては寝てを繰り返し、血が足りずに体が思うように動かなかった。下の世話もシスターがやってくれて、何だか恥ずかしかった。


「だ、大丈夫です。自分でやります」

「いえ、まだ無理してはいけません」

「でも何か、シスターに見られるのは……」

「そんなこと気にしているんですね。私はあの子達のをよく見ているので気になりませんけど」

(本当かな。シスター、目を合わせて言ってよ)


 ◆


 孤児院での生活は悪くない。無邪気に子供達は庭を駆け回り、僕に構ってきたりもした。外に出ればまぶしい日差し、僕は緑色と茶色が混ざった森を眺める。鳥のさえずりが聞こえ、辺りはほがらかな雰囲気に包まれていた。


 僕は総本山での出来事を父に伝えなくてはいけない。ジン国王やロンさんに神殿の一室で助けてもらったことも。そしてエール商会が孤児院を襲い、そのせいで僕が刺されたことも。もう彼らを信用してはいけない。職人マイスターの人達を守らなくてはならない。


 孤児院で過ごすこと2週間。充分に体力も回復し、元のように動けるようになった。そう、これから僕は実家に戻るのだ。


「シスター。今までありがとう。お世話になりました」

「いえ。こちらこそ助けてくれてありがとう」


「エル兄。もう行っちゃうの?」

「ねぇねぇ、もっといてよ~」

「そうだよ。もっと遊んで!」


「うん。でも僕は行かないといけないんだよ」


「そうなの?」

「エル兄! お父さんのところに行くんでしょ? ボクらお父さんいないから、シスターと結婚して、お父さんになってよ」


「ははは、シスターの事もちゃんと考えなきゃいけないよ」


「ちゃんと考えてるのにぃ」

「そうだよ。エル兄はシスターのこと好き?」


「うん。好きだよ」


「じゃあ、また来てよ」

「ゼッタイ! 約束だよ!」


「うん。約束する」


「嘘ついたら、神様が怒るからね」


 僕は孤児院の建物を見て、今までここで過ごした日々を思い出す。孤児院の外にある道までシスターは見送りにきてくれた。


「エル君。ご実家はニューリーズですよね」

「そう、ニューリーズにある」


 シスターはうれいをびた笑顔でボクを見つめてきた。


「また、来ます。あっ、そうだシスター。今度、僕の家まで来てよ」

「えーー。ご実家ですか!! そ、その、わたし、ご両親に挨拶だなんて……」

「そんなこと気にしなくていいのに」

「私は気にします!」

「ははは、そうなんだ。じゃあ、シスターもう行くね」

「うん。エル君、これを持っていってください」


 シスターの手にあったのは、シロツメクサで作られた小さな花指輪(ゆびわ)


「これくらいしか、あげられるものはありませんが」


 僕はそれを受け取る。シスターの指が僕の手に少しだけ触れた。


「ありがとう。これを見て、みんなのことを思い出すよ」


 僕は坂道を歩き、気がついて振り返る。


「シスター!! あげられるものが無いって言っていたけど、シスターから愛情をたくさんもらったよ!!」


 シスターが微笑んでいるのがわかる。だから、僕は大きな声で言った。


「必ず戻ってくるよ!! あの子達のパパになるためにー!!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ