第25話
総本山。教国の中心部にある聖地だ。毎年多くの巡礼者がここに来る。教国の隣接国は北から時計回りにオーラン帝国、ルルミア王国、ミタハン王国、ビスビオ王国、シャラム帝国と5つあり、巡礼者は各地からここを訪れるわけだ。
「なぁ、ジン」
「どうしたの?」
「いやな、お前があの姉妹に金貨をあげずに、料理長に渡したのは正解だったな」
「あの姉妹ってハナマユ姉妹ってこと?」
「あぁそうだ。金貨を姉妹に渡したら、それを使って終わり。だが、お菓子作りを身に付けることに使ったから、いくらでも稼ぐことができる」
「なるほど」
「教育って大事だな。国に戻ったら教育制度を見直した方がいいかもな」
「そうだね」
ロンと真面目な話をしたり、ライムの様々な擬態を見たりして、僕とシャルはこの旅を楽しんでいる。
「王よ。わらわにとって敵陣視察なのじゃ、わらわはスパイスなのじゃ!」
(うーん。スパイって言いたいのかな?)
タンヤオのやらかしもありつつ総本山に近づくと、何やらロンが怪しげな動きをする。
「どうしたの? 急にマスクとサングラスをして」
「いやな。修行時代のかつての仲間に会うと面倒なことになるからな、変装するんだ」
(それね。総本山にロンは行かない方がいいんじゃない?)
◆
馬車を乗り継ぎ、ようやく総本山の麓に辿り着いた。ここからは徒歩で山を登ることになる。
「ジン様……」
「あっ! ごめんねシャル。ゆっくり歩くよ」
シャルは山を登ることに慣れていない。セーラも歩調を合わせている。ロンとタンヤオはというと――。
「タンちゃん。あそこの岩の所まで、匍匐前進だ」
「わかったぞよ。勝ったら水飴じゃ!!」
(いくら敵地に乗り込むって言ったって、戦争しているわけじゃないから、無駄に体力を消耗するのはどうかと思うよ)
地を這うロンとタンヤオを、周りにいる観光客は訝しげに見ていた。
「お前たち、何をしている?」
「何って、匍匐前進だけど」
十字軍騎士の1人がロンに話しかけていた。確かにロン達はどう見ても不審者だから声をかけるのも当然だ。
「お前たちはここから山を降りろ。怪しいヤツをこれ以上進めるわけにはいかん」
「そうかい。一応、ここにいるシャロー王国の王様の護衛なんだけどな。まっ、お布施は無しだよな。ジン国王」
「まっ、待て」
「じゃ、オレは降りるわ。タンちゃん、行くぞ」
(降りるんだ。一応、僕の護衛なんだよね? セーラがいるからいいけど)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(ここかな)
僕は身を清めるために、偉い人が行う儀式に参加することになった。部屋に入ると、目の前に聖火と台座があり、十数人の偉い方たちがいた。
「よく来た。では儀式を始める。まずそこの台座に腰をかけろ」
僕は言われた通りに台座へと行き、腰をかける。すると偉い人に囲まれ、こう言われた。
「汝には悪魔が取り着いている」
「えっ」
そう言われて僕は手足を拘束された。
「さぁ、早く。火を持ってこい」
目の前に火のついたトーチが数本近づく。
「では、始めよう」
火で炙られる。そう思うと、僕は怖くなって叫んでしまった。
「だ、誰か!!」
ズドーン!ザーーー
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ジン様、凄いですねこの神殿」
「あぁ、こんなに大きな神殿だなんて思わなかったよ」
僕達は山を登り切り、総本山の頂にある神殿に着いた。ロンとタンヤオも一緒だ。
「ロン。どこから観ればいいと思う?」
「そうだな。普通に大聖堂に行けばいいと思うぞ」
「ありがとう。シャル、行こうか」
神殿の中は荘厳な空気に包まれている。自然と背筋が伸び、光が差し込む廊下を進んだ。
(すごい)
大聖堂の中に入ると、上部にはステンドグラス。そして壁画。正面には聖火があり、日本にいた頃にネットで見た神殿とは全然違う。素晴らしい。
「わーぁ、凄く素敵です」
「そうだねシャル」
「結婚式ってここでも出来るのでしょうか?」
「うーん。どうなんだろう。ロン知ってる?」
「無茶苦茶、お布施を積めばできるぞ」
僕は歩きながら仰ぎ見る。この空間を記憶に焼き付けたい。
「そこの女子」
「ん? わらわか?」
「邪悪な波動を感じる。今すぐに退去せよ」
「何故じゃ!! わらわはもっと観たいのじゃ!!」
「おい、お前達頼むぞ」
タンヤオは警備をしている侍者達に掴まれ、入り口へと引きずられる。
「お主達。ムカつくのじゃ!!」
(ヤバい。ロンなんとかしろ)
「大瀑布!!」
(あーあ)
タンヤオが滝のような水を流していく。辺り一面は水浸しなどころか、どんどん水位が上がり、皆動けなくなっていく。
(膝まできているってヤバいだろ)
僕はシャルの元へ行き、そしてセーラに頼んで水を何とかしてもらうようにした。
「ふぉふぉふぉ。わらわを蔑ろにするからいけないのじゃ!」
僕達の周辺はセーラのおかげで水が来ない。水位の上昇も遅くなっていくのは、きっと神殿の入り口から外に水が溢れ出しているのだろう。
「だ、誰かーー!! 誰か!! 助けて!!」
叫び声が上から聞こえてきて、何故上から? と疑問に思い、近くにいたロンに聞いてみた。
「ロン、叫び声聞こえた?」
「聞こえた。助けに行こうぜ」
「セーラ、階段の所まで何とかならない?」
「はぁ、国王様も人使いが荒いわね。ちょっと待ってね」
ウンディーネが水を動かし、ノームが土で塞き止める。階段への道が徐々にできていく。
「ジン。急ぐか。案内するぜ、たぶんこっちだ」
ロンが走るあとを追っていく。2階3階へと上がり、回廊を見ると何人かの聖職者がいた。
「おい、お前ら! どこで虐待している!」
「ひぃー」
聖職者達は慌ててどこかへと逃げていく。扉が開いている部屋を見つけ、そこに僕達は行った。
「誰かいるか!!」
中に入ると聖職者に少年が火で焼かれていて、それを見たロンはブチぎれて聖職者に殴りかかる。すると聖職者は倒れ、少年から手を離した。そのあともロンは聖職者を蹴りまくり脅す。
「てめえ達は人じゃねぇ! 恥をしれよ、この野郎!」
ロンの暴行は続き、それを見たタンヤオは言った。
「主。そんなことしなくとも、わらわが魂を貰い受けるぞよ」
「タンちゃん。これでもオレの上司みたいなヤツなんだ。命を取るのは勘弁してくれ」
「ほほう。主がそう言うのであれば、わらわは何もせんのじゃ!!」
(この旅でも、僕はタンヤオに何もしてほしくない)
「ぐすっ、ぐすっ……」
「大丈夫?」
セーラが少年のところに行き、少年を保護する。セーラはきっとショタコンだと思うから、少年を見て目を光らせて、すぐに駆け付けたのだと思う。
「ジン様これからどうします?」
「あぁ、そうだな」
「ジン。こいつこの場所、もう嫌だと思うから、一緒に退避しないか?」
ロンの提案を受け、僕達は少年と共に神殿の外へ出た。
◆
僕達は総本山の頂から下山する。水が流れ足元が滑りやすくなっていて、通り過ぎる人たちも地面ばかり見ていた。
「シャル、気をつけて」
「ジン様、手を握ってください」
「うん。こう?」
僕はシャルが滑らないようにシャルと手を繋いだ。セーラは少年をエスコートしている。ロンは少年に呼びかけた。
「なぁ、お前これからどうすんだ?」
「地元に帰ります」
「地元って?」
「シャラム帝国のニューリーズです」
「ニューリーズか――」
「ロン、知っているの?」
「あぁ、シャラム帝国でも有名な都市だ。工芸品を作る地場産業が盛んで、いっぱい職人がいる」
「ほう、おっぱい職人がいるのか。わらわは会ってみたいのじゃ」
タンヤオの言っていることは流して、僕は少年に聞く。
「ねぇ、君さえ良ければ一緒に旅をしない? 僕達これからシャラム帝国へ行くんだけど、どう?」
「えーっと」
「不安なのー? 大丈夫。ジンちゃん達やさしいし、いざという時はあたいが守ってあげるから」
セーラが少年にそう言うと、少年は恥ずかしそうにしながらも答える。
「あの、お姉さんいいんですか? 一緒に行ってもらっても」
「もちろん!」
「お前、ババアに騙されるなよ。こう見えて年齢――」
「ウンディーネ!!」
ロンの頭が水で囲まれる。
(まぁ、いつものことだね)
ロンが首に手をやり水の中で必死にもがいているのをみて、タンヤオはやらかす。
「主。今助けるのじゃ。火の嵐!!」
(あーあ、大丈夫かな。結構な人が見ていると思うんだけど)
ロンは炎に包まれ、姿が見えなくなり、少年はタンヤオに怯えていた。
「ジン様。ホテルに戻ったら旅のルートの確認ですかね」
「そうだね、そうしよう。そうだ! 君もホテルに来なよ。宿泊費はこちらで持つから」
「いいんですか?」
「うん。いいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えます」
こうして僕達の旅に少年が同行してくれることになった。
――――――――――――――――
〈おまけ〉
「ジンちゃん。部屋割りで相談なんだけど」
「何? セーラ」
「あの子とライムが同室になる予定でしょ。お金もったいないから、あたいも入れて同じ部屋に3人でお願いしたいの。ね、いいでしょ?」
(なるほど、セーラにとって両手に花みたいなものか)




