表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/40

第25話

 総本山。教国の中心部にある聖地だ。毎年多くの巡礼者がここに来る。教国の隣接国は北から時計回りにオーラン帝国、ルルミア王国、ミタハン王国、ビスビオ王国、シャラム帝国と5つあり、巡礼者は各地からここを訪れるわけだ。


「なぁ、ジン」

「どうしたの?」

「いやな、お前があの姉妹に金貨をあげずに、料理長に渡したのは正解だったな」

「あの姉妹ってハナマユ姉妹ってこと?」

「あぁそうだ。金貨を姉妹に渡したら、それを使って終わり。だが、お菓子作りを身に付けることに使ったから、いくらでもかせぐことができる」

「なるほど」

「教育って大事だな。国に戻ったら教育制度を見直した方がいいかもな」

「そうだね」


 ロンと真面目な話をしたり、ライムの様々な擬態を見たりして、僕とシャルはこの旅を楽しんでいる。


「王よ。わらわにとって敵陣視察てきじんしさつなのじゃ、わらわはスパイスなのじゃ!」

(うーん。スパイって言いたいのかな?)


 タンヤオのやらかしもありつつ総本山に近づくと、何やらロンが怪しげな動きをする。


「どうしたの? 急にマスクとサングラスをして」

「いやな。修行時代のかつての仲間に会うと面倒なことになるからな、変装するんだ」

(それね。総本山にロンは行かない方がいいんじゃない?)


 ◆


 馬車を乗り継ぎ、ようやく総本山の麓に辿り着いた。ここからは徒歩で山を登ることになる。


「ジン様……」

「あっ! ごめんねシャル。ゆっくり歩くよ」


 シャルは山を登ることに慣れていない。セーラも歩調を合わせている。ロンとタンヤオはというと――。


「タンちゃん。あそこの岩の所まで、匍匐前進ほふくぜんしんだ」

「わかったぞよ。勝ったら水飴みずあめじゃ!!」

(いくら敵地に乗り込むって言ったって、戦争しているわけじゃないから、無駄に体力を消耗しょうもうするのはどうかと思うよ)


 地をうロンとタンヤオを、周りにいる観光客はいぶかしげに見ていた。


「お前たち、何をしている?」

「何って、匍匐前進だけど」


 十字軍騎士テンプルナイトの1人がロンに話しかけていた。確かにロン達はどう見ても不審者だから声をかけるのも当然だ。


「お前たちはここから山を降りろ。怪しいヤツをこれ以上進めるわけにはいかん」

「そうかい。一応、ここにいるシャロー王国の王様の護衛なんだけどな。まっ、お布施は無しだよな。ジン国王」

「まっ、待て」

「じゃ、オレは降りるわ。タンちゃん、行くぞ」

(降りるんだ。一応、僕の護衛なんだよね? セーラがいるからいいけど)


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(ここかな)


 僕は身をきよめるために、えらい人が行う儀式に参加することになった。部屋に入ると、目の前に聖火と台座があり、十数人の偉い方たちがいた。


「よく来た。では儀式を始める。まずそこの台座に腰をかけろ」


 僕は言われた通りに台座へと行き、腰をかける。すると偉い人にかこまれ、こう言われた。


なんじには悪魔が取り着いている」

「えっ」


 そう言われて僕は手足を拘束された。


「さぁ、早く。火を持ってこい」


 目の前に火のついたトーチが数本近づく。


「では、始めよう」


 火で炙られる。そう思うと、僕は怖くなって叫んでしまった。


「だ、誰か!!」



ズドーン!ザーーー



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ジン様、凄いですねこの神殿」

「あぁ、こんなに大きな神殿だなんて思わなかったよ」


 僕達は山を登り切り、総本山のいただきにある神殿に着いた。ロンとタンヤオも一緒だ。


「ロン。どこから観ればいいと思う?」

「そうだな。普通に大聖堂に行けばいいと思うぞ」

「ありがとう。シャル、行こうか」


 神殿の中は荘厳そうごんな空気に包まれている。自然と背筋が伸び、光が差し込む廊下を進んだ。


(すごい)


 大聖堂の中に入ると、上部にはステンドグラス。そして壁画。正面には聖火があり、日本にいた頃にネットで見た神殿とは全然違う。素晴らしい。


「わーぁ、凄く素敵です」

「そうだねシャル」

「結婚式ってここでも出来るのでしょうか?」

「うーん。どうなんだろう。ロン知ってる?」


無茶苦茶むちゃくちゃ、お布施をめばできるぞ」


 僕は歩きながら仰ぎ見る。この空間を記憶に焼き付けたい。


「そこの女子おなご

「ん? わらわか?」

邪悪じゃあくな波動を感じる。今すぐに退去たいきょせよ」

「何故じゃ!! わらわはもっと観たいのじゃ!!」

「おい、お前達頼むぞ」


 タンヤオは警備をしている侍者アコライト達に掴まれ、入り口へと引きずられる。


「お主達。ムカつくのじゃ!!」

(ヤバい。ロンなんとかしろ)


大瀑布イグアス!!」

(あーあ)


 タンヤオが滝のような水を流していく。辺り一面は水浸みずびたしなどころか、どんどん水位が上がり、皆動けなくなっていく。

ひざまできているってヤバいだろ)


 僕はシャルの元へ行き、そしてセーラに頼んで水を何とかしてもらうようにした。


「ふぉふぉふぉ。わらわをないがしろにするからいけないのじゃ!」


 僕達の周辺はセーラのおかげで水が来ない。水位の上昇も遅くなっていくのは、きっと神殿の入り口から外に水が溢れ出しているのだろう。


「だ、誰かーー!! 誰か!! 助けて!!」


 叫び声が上から聞こえてきて、何故上から? と疑問に思い、近くにいたロンに聞いてみた。


「ロン、叫び声聞こえた?」

「聞こえた。助けに行こうぜ」


「セーラ、階段の所まで何とかならない?」

「はぁ、国王様も人使いがあらいわね。ちょっと待ってね」


 ウンディーネが水を動かし、ノームが土でめる。階段への道が徐々にできていく。


「ジン。急ぐか。案内するぜ、たぶんこっちだ」


 ロンが走るあとを追っていく。2階3階へと上がり、回廊かいろうを見ると何人かの聖職者がいた。


「おい、お前ら! どこで虐待している!」

「ひぃー」


 聖職者達は慌ててどこかへと逃げていく。扉が開いている部屋を見つけ、そこに僕達は行った。


「誰かいるか!!」


 中に入ると聖職者に少年が火で焼かれていて、それを見たロンはブチぎれて聖職者になぐりかかる。すると聖職者は倒れ、少年から手を離した。そのあともロンは聖職者をりまくり脅す。


「てめえ達は人じゃねぇ! はじをしれよ、この野郎!」


 ロンの暴行は続き、それを見たタンヤオは言った。


「主。そんなことしなくとも、わらわが魂を貰い受けるぞよ」

「タンちゃん。これでもオレの上司みたいなヤツなんだ。命を取るのは勘弁してくれ」

「ほほう。主がそう言うのであれば、わらわは何もせんのじゃ!!」

(この旅でも、僕はタンヤオに何もしてほしくない)


「ぐすっ、ぐすっ……」

「大丈夫?」


 セーラが少年のところに行き、少年を保護する。セーラはきっとショタコンだと思うから、少年を見て目を光らせて、すぐに駆け付けたのだと思う。


「ジン様これからどうします?」

「あぁ、そうだな」

「ジン。こいつこの場所、もう嫌だと思うから、一緒に退避たいひしないか?」


 ロンの提案を受け、僕達は少年と共に神殿の外へ出た。


 ◆


 僕達は総本山の頂から下山する。水が流れ足元がすべりやすくなっていて、通り過ぎる人たちも地面ばかり見ていた。


「シャル、気をつけて」

「ジン様、手を握ってください」

「うん。こう?」


 僕はシャルが滑らないようにシャルと手を繋いだ。セーラは少年をエスコートしている。ロンは少年に呼びかけた。


「なぁ、お前これからどうすんだ?」

「地元に帰ります」

「地元って?」

「シャラム帝国のニューリーズです」

「ニューリーズか――」


「ロン、知っているの?」

「あぁ、シャラム帝国でも有名な都市だ。工芸品こうげいひんを作る地場産業じばさんぎょうさかんで、いっぱい職人マイスターがいる」

「ほう、おっぱい職人マイスターがいるのか。わらわは会ってみたいのじゃ」


 タンヤオの言っていることは流して、僕は少年に聞く。


「ねぇ、君さえ良ければ一緒に旅をしない? 僕達これからシャラム帝国へ行くんだけど、どう?」

「えーっと」


「不安なのー? 大丈夫。ジンちゃん達やさしいし、いざという時はあたいが守ってあげるから」


 セーラが少年にそう言うと、少年はずかしそうにしながらも答える。


「あの、お姉さんいいんですか? 一緒に行ってもらっても」

「もちろん!」


「お前、ババアに騙されるなよ。こう見えて年齢――」

「ウンディーネ!!」


 ロンの頭が水で囲まれる。


(まぁ、いつものことだね)


 ロンが首に手をやり水の中で必死にもがいているのをみて、タンヤオはやらかす。


「主。今助けるのじゃ。火の嵐(ファイヤーストーム)!!」


(あーあ、大丈夫かな。結構な人が見ていると思うんだけど)


 ロンは炎に包まれ、姿が見えなくなり、少年はタンヤオに怯えていた。


「ジン様。ホテルに戻ったら旅のルートの確認ですかね」


「そうだね、そうしよう。そうだ! 君もホテルに来なよ。宿泊費はこちらで持つから」

「いいんですか?」

「うん。いいよ」

「じゃあ、お言葉に甘えます」


 こうして僕達の旅に少年が同行してくれることになった。


――――――――――――――――

〈おまけ〉

「ジンちゃん。部屋割りで相談なんだけど」

「何? セーラ」

「あの子とライムが同室になる予定でしょ。お金もったいないから、あたいも入れて同じ部屋に3人でお願いしたいの。ね、いいでしょ?」

(なるほど、セーラにとって両手に花みたいなものか)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ