第24話
ホテルへ着き、受付を済ませたあと。僕は支配人を呼んでもらう。ハナとマユがお菓子作りができるようお願いするためだ。
「お待たせしましたジン国王様」
「いえ、待っていないです。それでお願いがあるのですが、この子達にマドレーヌやマフィンなどのお菓子の作り方を教えてほしいんです」
「そういうことですか――すぐに料理長にその旨を伝えます。少々お待ちください」
そう言って支配人はロビーから姿を消す。するとベルボーイの人がやってきて「一度部屋までご案内いたします」と、セーラ達を残し、シャルと共に部屋まで行った。
「ジン様。いつも思うんですけれどもスイートルームって最上階なんですね」
「うん」
「もう少しお部屋のグレードを落としてはよいのでは?」
「国王と王妃だからそれはできないよ。民の為にも他の国や貴族にナメられてはダメなんだ」
「そう言われるとそうですね。国に力が無いと思われるのは良くないですね」
部屋に荷物を置き、ロビーに戻る。ベルボーイにチップを払い、セーラ達と合流した。
「またのロンところに行かないといけないね」
「ジンちゃん。あたいは大丈夫だと思うわ」
「どうして?」
「ロンは切れ者だから、きっとここを割り出すわよ」
セーラとロンのことで話をしていると、僕のところに支配人がやってきた。
「国王様。料理長の所までご案内いたします。それとどなたがお菓子作りを教えてほしいのでしょうか?」
「王妃と彼女達です」
「そうでしたか。それでは、王妃様もご案内いたします」
シャル、ハナマユ姉妹、セーラと共に厨房へ向かう。厨房では料理長らしき人物が出迎えてくれていた。
「あなたが料理長さんですか?」
「ふん。そうだが」
「彼女達にお菓子作りを教えてもらいたいのですが」
「女子供に教えることはない。信念を持ち、料理を作る。ここは男の職場だ」
「そうですか」
「国王様、ボク達のためにごめんなさい。頑張って町の人達にお菓子の作り方を聞いてみます」
「国王!! これはこれは国王様。さっさっ厨房の中へどうぞ」
(料理長。あなたには信念が無いんですか?)
◆
「薄力粉に水を加え、バターと卵を入れてよくかき混ぜる。こういう感じだ、いいか?」
料理長の説明に従って、生地を練っていく。ベーキングパウダーや砂糖が見当たらないが、それを使わずに作る。この世界のやり方はそうなんだろう。
「いいか、ここでハチミツを投入。ハチミツを入れることでパサつき感を抑えられる」
シャル達は集中して作っている。生地を型にあてはめ窯の中へ。
(あっ! 窯が無いと上手く作れないじゃん!!)
「すみません料理長。今後もこの子達に窯を使わせてくれませんか?」
「……」
「金貨を置いていきますので」
「よし、あとで特別に許可証を渡す。2人とも失くすなよ」
(あぁ、これが買収か。政治家やビジネス絡みなら賄賂。力を持つと暴走するかも。気をつけなくては)
お菓子が出来上がり試食。思っていたよりも美味しい。
「お姉ちゃん、美味しいね」
「マユ、これでボク達もお菓子を作って、店で売れる。嬉しいよ」
「あっ! お姉ちゃん。これ、ハツカネズミとトカゲの尻尾のお茶と一緒に売ればいいじゃん!!」
(一緒に売るのはよくない)
「ジン様、私のも食べてください」
「どれ?」
「これです」
「じゃあ、もらうね」
シャルの作ったものを食べると何かが違う。甘くないし、パサパサしている。
(確か料理長が言っていたな)
「シャル、これハチミツを入れた?」
「ハチミツですか? 入れていないですよ」
(うーん。どうしたもんかね。教えてくれたレシピ通りに作れないんだから)
試食も終わり、ハナ達が厨房に入る許可も貰ったので、僕達の手助けはここまででいいだろう。
「国王様、ありがとうございます」
「気にしなくていいよ。感謝するなら、アイディアを出したロンに伝えて」
僕達がロビーに戻るとロンとタンヤオがエントランスの外にいた。僕はエントランスへ行って、
「ロンお疲れ」
「あっ、ジン。タンちゃん、やっぱりここでよかったんだよ」
「ふぉふぉふぉ。わらわが見つけた。わらわは万能なのじゃ」
僕は受付に行き、ロンとタンヤオが泊まる部屋も確保する。ロン達のところへ戻ってくると、ハナマユ姉妹がロンに感謝の気持ちを伝えていた。
「ロンさん。ボク達を助けてくれてありがとうございます」
「いいってことよ。それよりも親父さんに、ゆっくり休んで回復しろって言っておいてくれ」
「ありがとうございます」「ありがとう」
こうしてハナマユ姉妹と別れ、僕達は明日の移動のために、いつもより早めに就寝することにした。
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〈おまけ〉
「主、昨夜も妃が大声で叫んでいてウルサかったのじゃ」
「しょうがないよ、タンちゃん。新婚旅行にお邪魔しているんだし」
「どうにかならんかのう。おおーそうじゃ」
「どうしたの?」
「声を出さないようにすればいいんじゃ」
「っていうと」
「妃が息をしなければいいのじゃ!」




