第23話
教国に入国しての初めての町。僕達は攫われそうになった少女が教えてくれたホテルに今日泊まることにした。
「ありがとうね」
「いえ」
少女に感謝の気持ちを伝えても、少女の表情は優れない。気になったので僕は少女に聞いてみた。
「どうしたの? なんだか悲しそうだけど」
「ボクこれからどうしていいか……」
「どうしてって?」
「仕事が無いんです。家族の為にお金を稼がないと……」
(うーん。どうしたらいいんだろう)
「ジン様。確かロンさん、教国で修行していましたから、いい仕事を知っているかもしれません」
「そうだね。ロンに聞いてみ――あっ!」
「どうしたんですか?」
「ロン。この場所を知らない――」
「ジンちゃん。それなら詰め所を彼女に聞けばいいのよ。たぶんそこにいるわ」
「そうか。ありがとうセーラ。ねえ、詰め所ってどこにあるか知ってる?」
少女に詰め所の場所まで連れていってもらう。するとロンが丁度詰め所から出てきたところだった。
「ロン!」
「ん? あっ、ジンか」
「どうだった?」
「かるーく聴かれて終わり。タンちゃんはお菓子をもっと食べたいって、まだ中にいるけど」
「そうなんだ――ねぇ、この子仕事が無くて困っているんだけどロンどこか良い仕事知らない?」
「うーん」
ロンは顎に手をやり考えている。そして少女を見て、
「両親は何している?」
「お父さんは大怪我して寝てる。お母さんはもういない……」
「そっか。なぁ、お前の家まで案内してくれないか? 状況を見れば、どこか良いところ考えられる」
「わかりました」
こうして僕達は少女の家まで行くことになった。そこに着くと、ボロボロの木と布で作られた家があった。
「ここです。ただいまー」
「お姉ちゃん!!」
「ただいま。いい子にしてた?」
「うん。おとうの為にご飯用意した」
「いい子だ」
「お姉ちゃん、この人達は?」
「この人達はボクが酷い目に遭いそうなところを助けてくれたんだ」
「おじちゃん達ありがとう!!」
少女の妹に出迎えられ、家の中の様子をみる。奥には男性が横たわっていて、たぶんこの子達の父親だろう。
「お父さんどうしたの?」
「……お母さんが死んで、土葬をしようとしていたけど、火葬じゃなきゃダメだって、大人の人にボコボコにされたんだ」
「そう……」
少女の話を聞いて、僕は何も言えなくなった。するとロンから、
「ライ。そこいるか? 奥にいるのお前の力で治せないか?」
「できます」
「親父のとこに行ってもいいよな?」
少女達に確認して、ロンとライムは父親のところに行く。
「うぅー」
「おっさん。今治療するからな」
ライムは父親に「ヒール」をかける。
「足りないな――ライ、もっと『ヒール』かけれるか?」
「はい。できます」
ライムは「ヒール」をかける。ロンが容態をみて、再度ライムに「ヒール」をかけるように指示した。数回「ヒール」をかけたところで、父親は目を開いた。
「はっ! ハナ! マユ! どこにいる!」
「お父さん!」
「おとう!」
少女達は父親に駆け寄る。すると、いつの間にかタンヤオも姿を現した。
「お父さん、大丈夫?」
「痛くない。これなら働ける」
「なぁ、おっさん。土葬がなんちゃらって言っていたけど、純一神教派や女神アテネ派じゃないのか?」
「はい。そうですけど、どなたですか?」
「オレはロンっていうんだ。おっさんの娘を助けた」
「はっ、そうでしたか。ありがとうございます。もしかして怪我も――」
「怪我はそこのライムが治した。オレじゃない」
父親はライムに向かって感謝の言葉を伝える。
「君、ありがとう」
「はい」
「そうだ。良かったら、パンを食べていってください」
僕達は父親の好意に甘え、パンを貰い食べた。
「うーん。いいね。この脱脂粉乳みたいな味。ギブミーアチョコレートって言ってた頃を思い出す」
(ロン。お前絶対、戦後の日本から転移してきただろ)
「良かったです。お口に合わないのではと思うと――。マユ、お茶も準備して」
「おとう、わかった」
マユと呼ばれた少女はお茶を淹れる。濃い緑、いや少し茶色の混ざった物が出てきた。
(これ飲めるの?)
「ねぇ、これってどんなお茶の葉使ったの?」
「お茶の葉?」
「そう、お湯と混ぜるヤツ」
「ハツカネズミとトカゲの尻尾だよ」
(魔女だな)
「そこの! 耳! もっとお茶をよこすのじゃ! わらわは甘いもの食べすぎて喉が渇いているのじゃ!」
(マユだ)
マユがもう1杯タンヤオに渡す。
「目、ありがとうなのじゃ。助かるのじゃ!」
(次は黒子あたりかな……)
「困ったなぁ」
「どうしたの、ロン」
「いやな、純一神教派と女神アテネ派なら、仕事探しやすいんだけどな。どうすっかなぁ」
「そうなんだ」
セーラは腑に落ちない感じでロンに問いかける。
「それって、戦争が原因?」
「ババアにしてはよく知ってるな。純一神教派が排他的で、昔戦争に参加しなかった他を蔑んでいるんだよ」
「そうなの。女神アテネ派って言ってたけど、それはどうなの?」
「他の国と交流がある。商業ギルドは無いが、商人などが商売して、食料品など、この国を支えているんだよ」
「へぇー」
「ちなみにオレは女神アテネ派な」
そんな話をしていても、なかなか打開策が見つからない。タンヤオは何杯目かのお茶を飲み干して、
「主、もっと甘いものが欲しいのじゃ!」
「あ! タンちゃん、ナイス! 加工すればいいんだよ」
「加工って何ぞや?」
「小麦や砂糖を仕入れ、マドレーヌやマフィン作って売ればいいんだよ」
「ん? マーガリンとマフィアは甘いのか?」
(それは甘くない)
「まぁいいや。タンちゃん、ノビノビラを呼んでくれ。ここを改造してお店にするぞ」
「わかったのじゃ。ちょっと待っておれ」
ハナとマユは話についていけないみたいだ。
「ジン様、それって確か卵使いますよね? 私、作り方覚えたいです」
(すばらしい! ゆで卵から脱却だ!)
◆
タンヤオがノビノビラを呼ぶ。ロンが指示し木材を集め、お店の建物を作り始めた。
「ダメだ。ノビノビラは頭が悪かった。肉体労働をしてもらおう」
「主、わらわは何をすればいいのじゃ?」
「そうだな。炎の弾と炎の嵐を使わなければ、何をやってもいいぞ」
「わかったぞよ」
(ロン。その指示はマズイ)
「ここに木材運ぶのに人間が邪魔じゃのう。人払いするのじゃ」
(ピラミッドの悪夢再び)
『インフェルノ!!』
(それ一番やっちゃいけないヤツ。ボス戦に使う魔法だよ……)
ロンが思いっ切りタンヤオの頭を殴り、道路の炎をセーラが消火活動。僕達の新婚旅行は波乱ばかりだ。
そのあと騒ぎを聞きつけた警邏の人達がやってきて、ロンとタンヤオは再び連行された。
◆
ノビノビラの配下の手伝いもあって、すぐに建物ができた。
(でもさぁ、誰がマドレーヌとマフィン教えるの? あっ!!)
「ハナ、さっきのホテルに行こう。厨房にいけば料理人からマドレーヌとマフィン作り方教えてくれるかも」
こうして僕達はハナ、マユと共にホテルへと向かうことにした。
――――――――――――――
〈おまけ〉
「タンちゃん。取り調べ終わったぞ」
「終わったのか。主、次はどこに行けばいいのじゃ」
「あっ! ジン達のいる場所知らん」
「王か――それなら一番高いホテルに行けばいいのじゃ」
「タンちゃん、ナイス!!」




