第22話 Ⅴ.望んでいない珍道中 教国
僕達の旅は続く。途中、気になった乗り物が見えたのでロンに聞いてみた。
「ロン。あの乗り物って何?」
「あぁ、最新式の乗合馬車だ。ノンステップと書いてあるのが目印だ」
「わらわは初めて聞いたぞ。ノンストップとは何ぞや?」
(ノンステップね、段差がないヤツ。ノンストップならどうやって乗るの?)
「ジン様、あれに乗って教国へ行きたいです」
「そうだね、せっかくの新婚旅行だし。乗車券ってどこで買えばいいんだろ?」
「ジン、乗車券は乗るときにチケットを引っ張ってとるんだ」
(まるでバスだな)
僕達5人は乗合馬車に乗る。ちなみにライムは弓に擬態してセーラの背中にいる。最新式だけあって揺れが少ない、見える景色も何となく日本で見た景色みたいだ。
『ご乗車ありがとうございます。次はレフト、レフト。お降りの際はブザーでお知らせください』
「ほう。主、何と言っているのじゃ?」
「タンちゃん。降りるときに、近くにあるボタンを押すんだ。『ビーー』って音が鳴る」
タンヤオは首を振り、ボタンを探しているようだ。見つけたらすぐにボタンを押していた。
『ビーー』
「なんと! 主、これは凄いのじゃ!」
馬車が止まりお客さんが降りる。御者が乗り込む人を確認し、馬車が動き始めた。
『ご乗車ありがとうございます。次はラ『ビーー』、イト。お降りの際はブザーでお知らせください』
◆
『ビーー』
『ビーー』
『ビーー』
『ビーー』
(タンヤオ、他のお客さんに迷惑だ。お願いだからやめてくれ)
◆
『ご乗車ありがとうございます。次はショ『ビーー』、ト。お降りの際はブザーでお知らせください』
「ジン。次が教国検問所の最寄りの停留所だ」
「わかった。みんな、降りる準備をして」
僕達は馬車から降り、検問所へ向かう。検問所に着くと、ものすごい数の人達が並んでいた。
「すごいね」
「ジン。お前、国王だから特別にあそこの検問所使えるぞ」
ロンが指示した検問所へと向かう。検問所にはたくさんの騎士達がいて僕達を警戒しているようだった。
「すみませーん」
僕が受付で係りの人を呼ぶと、やる気を感じないおじさんが来た。
「どこから来たの?」
「シャロー王国です」
「聞いたことないな。場所はどのへんだ?」
「ネマール帝国の東にあります」
「太陽の方角か――そこに住所氏名年齢、好きな食べ物を書いてくれ」
(太陽が動くと方角変わるでしょ? それに好きな食べ物って、この用紙は自己紹介カードかな)
「ロン、書いてくれないか?」
「いいぜ。オレが書く」
ロンが記入し、受付のおじさんに渡すと、おじさんは目を見開き僕に言ってきた。
「国王!! 国王様でしたか! どうぞどうぞお通りください。アンケートには満足度★3つでお願いいたします」
(あぁ、なるほど。成績悪くなると、待遇が良くなくなるわけか)
受付のおじさんに銀貨3枚のお布施を払って、僕達は教国に入国した。
「ジン良かったな。巡礼のシーズンになると、人、人、人で溢れかえるんだ」
「へぇー、じゃあラッキーだね」
「ジン様、なんだか素敵な町ですね」
「そうだね、シャル」
「シャルちゃん。夜は気をつけてね。この国、娼館などがないから、男に捕まったら大変よ」
「そうなんですね、セーラさん。気をつけます」
食べ物を積んだ馬車が走る。砂が舞い上がり立ち止まると、1人の少年が僕達のところにやってきた。
「お兄さん達。今夜の宿決まっている? 安いところ知っているから、案内したらお金くれるかな?」
「ん? 何?」
「安い宿、教えるからお金頂戴」
「ロン、どう思う?」
「なんでもいいと思うぞ」
「じゃあ――」
「見つけたぞ、このガキ!!」
怒っている男達が急に現れ、少年に言い寄る。少年の表情は優れなかった。
「あんな、ボッタくりのところに泊めやがって、ちょっと来い!!」
「ヤダ!!」
少年は逃げようとするが、男に服を掴まれ逃げ出すことができない。どんどん引きずられ男が乱暴に服を引っ張ると、服が破れ少年は上半身裸になる。少年の胸は膨らんでいた。男は彼女の手首を掴まえて言った。
「おっ、いいねぇ。俺ら遊んでやるからな。なぁ、お前達」
「やめ――」
逃げられない少女を助けるために、僕が止めようとすると、ロンが腕で僕を制した。
「ロン!」
「行かなくていい」
僕にはロンが言っている意味がわからなかった。
「アイツは人を騙して、そいつらに不利益を与えた。自業自得だ」
ロンの突き放した言い方に、セーラは怒った。
「ふざけてる場合じゃない!!」
セーラは少女に駆け寄ろうとするが、ロンに止められた。
「怖い思いをした方がいい。ここで助けたら、繰り返し人を騙すぞ。被害者が増える」
「だからと言って、女の子を見捨てるの!」
「見捨てていない、その方がアイツの人生のためになる」
「奴隷を助けたときは見直したけど、あんた最低ね!!」
ロンとセーラが激しく言い争う。その間にも女の子は男達に攫われていき、その姿は小さくなった。
「そろそろだな。ババア行くぞ」
「はっ? 何を言ってるの?」
「アイツ、充分に怖い思いをしたから、もう騙すようなことはしない。タンちゃんは手を出すな!」
ロンは彼女にお灸をすえることが目的だとわかって。僕は安心した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「嫌だ、この野郎、離せ!」
あぁ、このままボクは連れ攫われて、どこかで酷い目に遭うんだ。家族の為に稼いでいたけれど、このやり方は間違いだったんだ。目が熱くなる。頬に涙が伝わるのがわかる。なんでこんなことしちゃったんだろ。もうヤダ。神様もうしません。だから――。
「ウンディーネ!!」
女の人の声に驚いてボクが顔を上げると、エルフの女性が物凄い顔でこちらを見ていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「痛っ! なにすんだこのアマ」
「その子を離しなさい」
「誰が――ぐふっ!」
いつの間にかロンが男の懐に入り、顎を殴った。
「ババアはアイツを、オレは残りをやる!」
「いちいちウルサイ!」
セーラは少女を捕まえている男にウンディーネの高圧洗浄機みたいなのをぶっ放し追い払う。
ロンは残りの男達に圧倒的な力を見せつけ、男達が逃げていくのを見ていた。
少女は呆然としている。シャルは少女に上着をかけていた。
「主よ。魂を貰いにいってもよかったじゃろ」
「タンちゃん。ここは教国だ。タンちゃんの正体がバレるとヤバいんだよ」
「ほう、なるほど。ここは魔族を馬鹿にする国じゃったな」
「流石だ、タンちゃん。賢いぞ」
「ふぉふぉふぉ。わらわが知らないことは無いのじゃ!」
ロンとタンヤオの漫才は放っておき、僕は少女に声をかけた。
「大変だったね」
安心した様子の少女の涙は止まらない。シャルは優しく抱きしめ、少女を慰める。
「もう大丈夫」
辺りは騒然としていたが、すぐに警邏の人達が僕達のところにきて、こう言った。
「いったい何があったんだ?」
「この子が攫われていたので助けたんです」
「わかった。そこの男とエルフ。俺らに同行してもらうぞ」
やれやれとロンは首をすくめ両腕をあげる。セーラは不機嫌だった。
「おう、お前ら勘違いしているぞ。水ぶっかけたの、エルフじゃなくてこいつだ」
ロンをタンヤオを指でさし、警邏に言う。タンヤオは完全に冤罪だ。
「ジン、ちょっと行ってくる。宿を取っておいといてくれ」
きっとロンはセーラを行かせないことが最善だと判断したのだろう。セーラが怒っていたらロンも止められないし、事がややこしくなるだろうから。
「君、宿を探すの協力してくれる? 僕達この町詳しくないからさ、頼むよ」
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〈おまけ〉
「これ甘くて美味しいのじゃ!」
「これ取り調べの――まあいいか」
「主、これ全部食べたいのじゃが」
「いいんじゃない。あっ、すみません、お菓子足りないんで倍貰ってもいいですか?」




