第18話 side ロン
冒険者ギルドから街を通り抜け、オレらは奴隷船のある港へと向かっていた。
「タンちゃんとライはオレについてきてくれ。タンちゃんは攻撃。ライは奴隷が縛られている縄を溶かして、奴隷を逃がしてくれ」
「わかったぞよ」
「わかりました」
「ババアは適当に、船から奴隷達を入り口へと誘導な」
「まあいいわ。同胞を優先的に逃がしてくれれば」
「エルフ、いんのかな?」
「知らないわよ。シルフに聞ければいいんだけど、無理だし」
オレらは先ほど追い返された検問のところに着いた。
「ギルドカードを見せてくれ」
「あいよ」
「ん? 何だ? この修道士っていうのは」
「神官見習いだな。お祓いをしにきた」
「そいつらもか?」
「ああ、身を清める手伝いをしてくれるのがこの少年。精霊に願うのがババ――彼女だ」
「そいつは?」
「オレの部下。バカで使えないけど」
「わかった。行っていいぞ」
「ありがとな」
検問を無事にくぐり抜けて奴隷船へ行く。
「タンちゃん。奴隷船の乗組員を混乱させたいから、何か適当な魔法を打ってくれ」
「ふぉふぉふぉ。お安い御用じゃ」
タンヤオの手には炎が集まってくる。そして次の瞬間――。
「炎の嵐!!」
木造の奴隷船は炎の渦が出す風に揺られ、そして炎に包まれる。
(あーあ、やっちまったよ)
「タンちゃん。やりすぎ」
「ん? インフェルノあたりが良かったのか?」
「まあ、いい。乗り込むぞ。ライ! 遅れるな!」
奴隷船に近づくと乗組員の叫ぶ声が聞こえてきた。
「わぁぁぁ」
「おい、おまえ早く逃げろ!!」
「えっ、商品は……」
「バカ、今はそれどころじゃないだろ」
「ヤバい、こっちは炎で塞がれている」
「みんな! 海に飛び込むぞ!!」
次々と乗組員が海に飛び込むのを横目に見ながら、奴隷船の入り口へと着いた。
「タンちゃん。水鉄砲を頼む」
「わかったのじゃ」
タンヤオが水で道を作り、オレらは奴隷船の甲板へ。
「ババア。ウンディーネで適当にヨロシク」
「わかっているわよ。ホント、タンヤオ馬鹿なんだから!」
「タンちゃん、ライ、底から行くぞ」
階段を降り、奴隷船の船底へ。タンヤオがやらかしたので時間との勝負だ。
「暑い……あつい……。主、何でこんなに暑いのじゃ!」
(お前のせいだよ!! バーカ!!)
部屋から部屋へと次々に入る。ライムが縄を溶かして、縛りが弱くなったらオレが引きちぎる。ライムとの連携プレイはイイ感じだ。
「タンちゃん!! 水鉄砲!!」
「わかっているのじゃ!!」
炎をかいくぐり、底の奴隷達は解放。タンヤオの水鉄砲で、もう底は満水だ。そしてオレらは階段を登っては部屋に入り、階段を登ってはと繰り返し、奴隷達を解放していく。
「ここが最後か――。ライ! 急げ!!」
船長室の隣の部屋を開けると、中には汚れてしまったドレスを着ている少女がいた。
「――っ!」
少女には鉄の枷と鎖で繋がっている錘。ライムじゃ、溶かせない。
「ライ! 分裂して枷と体の間に入って、クッションになれるか?」
「できます」
少女に近づき、ライムが枷のクッションになって、オレは少女をおんぶした。
「行くぞ! タンちゃん、消火活動ヨロシク!」
「いちいち面倒じゃな。言われなくともわかっておる」
◆
甲板を走り、入り口を抜ける。奴隷船を降りるとセーラが奴隷達を整列させていた。
「サンキュー。ババア」
「同胞は?」
「いなかったぞ。全員、人族だ」
「わかった、ありがとう」
「ん? アイツらは?」
「港の関係者。結構来たけど、オロオロして役に立ってないわ」
セーラと話をしているとオレのところに代表らしき恰幅のいい中年の男がきた。
「おお、あなた達が救ってくれたのですね。助かりました」
「おうよ。おっさん。奴隷はどうすんだ? こいつら炎で一度死んでるから解放したいんだけど」
「えー、商品ですので、それは無理かと」
「なに?」
オレはおっさんを威嚇する。そしてタンヤオに頼んで水鉄砲を上に放ってもらった。
「オレらが本気になれば、みんな殺れるぞ。それでもいいのなら――」
「わ、わかりました。解放します! 何卒命だけはご勘弁を」
「あぁ、頼むわ。タンちゃん、奴隷と共にこいつらを見張ってておくれ」
「ほう、わらわがやるのか?」
「そう――あっ! アイツにやらせよう! ノビノビ何とかを呼んでくれ」
「わかったぞよ、一度戻るぞ」
「ヨロシク。ライ! お前はそのままクッションな」
しばらくすると憲兵がやってきて、オレにこの事態を聞いてきた。
「何があったんですか!」
「ああ。船が物凄い勢いで燃えていたから、人命救助していたんだ」
「そうですか。他に手伝ってくれた方は?」
「そこのエルフだな」
「なんとありがたい。町長に報告したあと、あなた達は呼ばれると思うので、連絡先を教えてくれませんか?」
「いいけど、なんで?」
「これだけの命を救ったんです。表彰ものですよ」
(えーっと、タンちゃんが燃やして、消火活動もタンちゃん。マッチポンプだな――まあいいか)
「ねぇ。この子はどうするの?」
「あっ、忘れてた。君、なんて名前なの?」
「ミネルバです。助けてくれてありがとうございます」
「いいって。それより、立派なドレスを着ているけど貴族かなんなのか?」
「はい。お父様はピケズ公爵といいます」
「ほう、随分とまた偉いご身分で」
「あの! 厚かましいのですが、私を王都まで連れていってもらえませんか?」
「王都?」
「はい。王都に向かう途中、馬車が襲われて捕まってしまったので」
「そうかい。ババア、いいよな。ジンのところに連れていって」
「いいんじゃない。その子、困っていてかわいそうだし」
「決まりだな」
「ふぉふぉふぉ。待たせたな」
「おっ。タンちゃん早かったな」
「丁度、カラオケが終わっていたのじゃ。なっ! ノビノビラ」
ミネルバ公爵令嬢以外の奴隷達はヤツらに任せて、オレらはジンのいるホテルへと向かった。
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〈おまけ〉
「ちょっと待ってね。サラマンダーで枷を焼き切るから」
「はい、お願いします」
「ウンディーネに頼んではあるけど、熱かったら言ってね」
「はい、ありがとうございます」
「いいのよ」
「ん? わらわも炎を水でやれるぞよ」
「「「おまえはやるな!!」」」