第17話 Ⅳ.望んでいない珍道中 ビスビオ王国
ロンが飛び入りで上位魔族の試験を受けた翌日。タンヤオとノビノビラは魔王さまから特別補講に出るよう命じられ魔界に帰っていった。この日はシャルが船酔いでダウン。ライムは何故か甲板の掃除をしていた。
「セーラ。楽しんでる?」
「そうねぇ。楽しんではいるけど、ノームのことが気がかりなの」
「海の上だから?」
「えぇ、そうよ」
船の旅はとても良かった。シャルと一緒にデートをして、ディナーを楽しみ。夜は毎日シャルに求められる。故郷からは離れてしまったけれど、この世界にずっといたい。甲板から海面の揺らぎを見つめて、僕はそう思った。
ネマール帝国の港町ジュドーを出発して2週間。長い船旅を終え、ようやく僕達はビスビオ王国港町バラムに着いた。
「うーーん。ジン様着きましたね」
「そうだね」
「あれ? あれは何ですかね? ジン様知っていますか?」
シャルは背伸びをした後、大きな木造船を指さし僕に聞いた。それを聞いていたロンがシャルに言った。
「お嬢。あれは奴隷船だ」
「奴隷船?」
「あぁ、ここバラムは世界中の船が集まる。言わば世界の中心、拠点港なんだ。だから奴隷もここに集まって仕分けされるわけだ」
「えっ、仕分けって」
「奴隷に人権は無いんだよ」
「かわいそうです。ロンさん、何とかなりませんか?」
「前までのオレは助けられなかったけどな、今なら秘策があるぞ」
そう言ってロンはモノリスを取り出す。
「出ねぇ――」
ロンは何度もタンヤオを呼び出そうとしていた。
「――。あっ、タンちゃん。仕事があるんだ、すぐ来てくれ。ん? 五天王で特講の打ち上げするからカラオケボックスに来ている? そんなこと言わずにさぁ。メロンソーダ用意しておくから」
「ふぉふぉふぉ。待たせたな」
僕達が奴隷船に向かっていると、検問所らしきところで警備の騎士に呼び止められる。
「ギルドカードを見せてくれ」
「ギルドカード?」
「持っていないのか? それなら身分を証明する書簡は持っているのか?」
「持っていません」
「じゃあ、通すわけにはいかない。帰ってくれ」
ロンは強行突破しようと言ってきたが、奴隷船に入るまで余計な争いは避けた方がいいと僕は言った。
「じゃあ、ギルドカードを作りに行こうぜ」
「どこに行けばいいの?」
「冒険者ギルドか商業ギルドだな」
「わかった」
僕達は通行人に声をかけ、ギルドの場所を教えてもらう。そしてその場所へ向かうと、盾とその前に2つの剣がクロスしている看板が見えてきた。
「ロン、あれかな?」
「そう、あれが冒険者ギルドだ」
建物の中に入ると、鎧を着て剣を携えている男や飲んだくれの男など、いかにも冒険者らしき人がたくさんいた。僕らはその中を通り抜け、受付に行く。そしてロンが代表して受付嬢に話しかけた。
「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょうか?」
「おう、姉ちゃん。ギルドカードを6人作りにきたんだけど」
「わかりました」
受付嬢は後ろにある棚から紙を取り出し、ロンに渡した。
「では、この用紙に必要事項を書いてください」
「おう、ありがとな」
ロンは6枚の紙にどんどん書いていく。
「これだ」
「そうですか。拝見いたしますね。――!!」
「どうした?」
「す、すみません! 王様と王妃様は登録できないことになっています」
「なに? そうなのか?」
「はい」
「ジン。ジンとお嬢は作れないってさ」
「申し訳ございません。国王様。――では、他の方の記載を確認いたします。えーっと、ライム様の掃除屋というのは、どんなジョブですか?」
「あぁ、暗殺者だな。汚れたヤツを掃除する」
「ロン様の修道士というのは――」
「シスターの男版だ」
「ありがとうございます。セーラ様のスピリッツマジシャンというのは――」
「精霊術師だな」
「タンヤオ様は――」
「あぁ、変態だ」
こうして、僕とシャル、そしてタンヤオ以外は無事にギルドカードを作れた。
「ジンちゃん。ジンちゃん達は奴隷船に行けないと思うから、あたい達だけで行動するね」
「わかった。ホテルで待機しているよ。セーラ気をつけて」
「ノーム達がいるから大丈夫よ」
ギルドの入口でロン達と別れ、僕とシャルはホテルへと向かった。
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〈おまけ〉
「あっ!」
「ジン様どうしたんですか?」
「冒険者ギルドカードじゃなくて、商業ギルドカードじゃないとダメじゃん!」
「大丈夫だと思いますよ。それより早くホテルに行きましょ♡ジン様の寵愛を受けたいです♡」
「だから上目遣いが半端ないんだって。シャル、周りの目もあるし、ここでしないでよ」